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オヤジ狩り【家族エッセイ】

小学生の頃、父が飲み会に行く度に涙が出そうな気持ちになったことを覚えている。涙が出そうというか、少し泣いていた。
小学校4年生くらいだろうか。
当時テレビドラマが大好きでよく観ていたため、「オヤジ狩り」という言葉を知っていた。
今思えば当時の父は40歳そこそこだったのでそこまでオヤジではなかったかもしれない。
しかし「父親」というだけで当時10年しか生きてない私からしたらすごく年を取っていて、もう若者には力で敵わない存在なのだと思い込んでいたのだ。
だから父が飲みに行き、夜に家を空ける日は気が気じゃなかった。
父が血まみれになって帰ってきたらどうしよう。そもそも帰ってこなかったらどうしよう。
あの時の気持ちは今でも覚えている。

時は少し経ち、私が15歳の時。
高校1年生の頃だ。文化祭の打ち上げがかなり盛り上がってしまい、門限を数分過ぎてしまった。帰宅すると、玄関のドアには鍵が掛かっていた。もしかしたら私が居ないことを忘れて鍵を閉めてしまったのかもしれない。そう思い、汚れても良いように制服から体操服に着替え、出窓から侵入した。
リビングの電気はついていた。
「…ただいま。」
リビングに向かって恐る恐る声を掛けた。
「締めておいたのに何入ってきてんだ。」
やはり父は怒っていた。
虫への物言いのようだな、と思ったが怒られるのも無理はない。門限を過ぎて帰ってきて、玄関の鍵が締まっていたら大方は自分の置かれている状況を理解するだろう。
しかし私は叱られたくない気持ちが強過ぎて間違えて締めてしまったんだということにしたかったのだ。
再び追い出されるようなことはなかったが、父から数分間のお叱りを受けた。
いくつになっても父に叱られるのは恐かったし、次からは絶対に門限を守ろうと本気で思った。でもそれは、叱られたくないからだった。

私が高校生の頃の門限は23時だった。18歳未満の青少年は23時以降の外出ができないことは、家のルールというより神奈川県の青少年保護育成条例で決まっていた。
父は
「人様に迷惑を掛けるな。」
と言った。
私が外に居ることで誰に迷惑が掛かるんだろう?と思っていたあの頃は真性のガキだったなと今は思えているから己の成長を感じる。

父は私に、「人様に迷惑を掛けることになるのだから23時までには帰って来なさい。」と教えたが、一番は単純に心配だったからに違いない。

思春期の頃は気付けなかったが、父がオヤジ狩りに遭うのではないかと心配していた幼い頃の私よりも遥かに、父は私のことを心配してくれていたと思う。私はまだ親の立場になったことがないから父の気持ちはわからないけれど。

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