アイデアと万有引力
─天下の物は有より生じ、有は無より生ず─
老子
誰も思い付かない素晴らしいアイデアを思い付く力が欲しい!という人(自分も含めて)に向けて、この文章を捧げる。何かいい方法を知っている方がいれば、筆者に教えて欲しい。
宇宙は、ビッグバンという巨大な爆発によって誕生したと言われている(最近では、ビッグバンよりもさらに前にインフレーションという真空でエネルギーが増大する現象が起きたという説も出てきている)。ビッグバンによって、大量の粒子が撒き散らされる。そうして宇宙空間は形のないモヤモヤした雲のようなものが満遍なく漂っている状態になる。それらの粒子が、互いの引力によって集まり始める。均等に広がっていたモヤの中に、疎と密が生まれる。集まれば集まるほど、その塊の質量は増し、重力は強くなっていく。こうして星が誕生する。その星同士も、互いの引力によって引かれあい合体し、さらに大きな星へと成長していく。こうして光り輝く恒星が誕生する。我々が住む太陽系は、巨大な恒星が一度超新星爆発を起こし、その残骸が再び引力によって集まって出来たものだ。
このように、我々が立っている大地は、形のないものが集まって形成されている。その意味で、日本神話は正しい予言をしていたと言えるのかもしれない。
日本神話に出てくる天の神一同(すごく偉い神様たち)は、イザナミとイザナギに天沼矛という矛を渡し、「この漂へる國を修め理り固め成せ」(『古事記』(岩波文庫))と指示したらしい。そして二神は下界にこの矛を突っ込み、ぐるぐるとかき混ぜて持ち上げ、一滴垂らした。それが積もってオノゴロ島になる。そこを拠点にして、順番に日本の土地が形成されていく。詳しくは、漫画や現代語訳でいいから古事記を読んでみて欲しい。どうだろう。恒星が生まれる仕組みと似ていないだろうか。「漂へる國」というものが宇宙空間に散らばる塵を表しており、そこから人間の住む土地が生まれてくる。土地を日本だけに絞っているところは惜しいが、核となる部分が出来上がる瞬間に限れば、ほぼ正解だったと言えるだろう。
ぼんやりとしたものが、次第に固まって形になる。このイメージは人類が共通して持っているのだろうか。では、人間の頭の中でも、同じような現象が起こっているのではないだろうか。
我々は、ふとしたときに「思い付く」。会議のような場で何か意見を出せといわれたときや、友達との会話中にボケを振られたときなど、「思い付き」が求められる場面は日々を暮らしていて何度も訪れる。しかしそういうときに限って、我々の脳は怠け者になる。その場では何も思い付かず、家に帰ってのんびりと風呂に入っていると、突然頭の中に妙案が浮かび、これを言えば良かったのだと後悔する。
アイデアとは、恒星のようなものなのかもしれない。我々の頭の中、「無意識」という名前の宇宙には、アイデアになる前の考えがモヤのように広がっている。それが段々と引力よって互いに繋がっていき、収束して固まり、外に出せるようなアイデアへと成長する。さらに、アイデア同士が引力で引かれあって、さらに大きなアイデアが生まれるかもしれない。アイデアをよく思い付く人とは、このモヤ(情報)を豊富に持っている人。つまりたくさんの情報を脳内にインプットしている人なのだろう。そしてもう一つ。モヤの「引力」が強い人だ。
我々の宇宙には万有引力の法則というものがある。二つの物体の質量と距離さえ分かれば、その間に働く引力の大きさを求めることが出来るというものだ。我々の宇宙の万有引力係数は
G = 6.67×10-11 N⋅m2/kg2
だと言われている。このGに二つの物体の質量をかけ、その間の距離の二乗で割ると引力の大きさを導出することができる。Gがこの数字だからこそ、この地球の重力加速度は9.8m/s2なのだ。
我々の頭の中にも、Gがあるのだろう。そしてこれは筆者の勘でしかないが、頭の中のGは努力で大きくすることができる。そんな気がする。そうでなければならない。何かしらの訓練方法があるはずだ。今の筆者には、読者の皆さんに披露できるようなお手軽なものはない。しかし、アドバイスはできる。
アイデアを思い浮かべる術、「アイデア術」は様々な媒体で紹介されている。だからそういったものを読んでみるといいだろう。しかしまずは、自分に何が足りないのか知るところから始めた方がいいのかもしれない。
・頭に取り入れるモヤが少ないのか。
・Gが小さいのか。
参考にしようとしているアイデア術はこの二つのうちどちらを改善するものなのか。それを意識するだけでも、きっとこれまで以上の成果を得られるのではないかと思う。
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