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はじめに

私は甲虫類の分類学的研究を20年近く行ってきた。一番の専門は、マルハナノミという水生甲虫類の仲間だ。マルハナノミの説明はさておき、子供たちや一般の人に分類の研究とはどのようなものかと説明するのは、実は容易ではない。「フィールドに出て新種を発見して論文を書いている」と端的に口にしてしまうことが多く、そんなときは大抵「楽しそうな仕事ですね」という反応をもらうが、実はそんなに華やかで判り易い仕事ではない。野外で新種を発見する機会はそんなに多くなく、博物館の標本室の片隅で標本箱の中から発見したり、解剖して形態を詳細に検討して初めて新種であると認識できたり、ほとんどの発見は本当に地味な作業の積み重ねの結果なのだ。フィールドや標本調査以上に、学術論文等を探索する時間がかかることも多い。「新種は野外で見つかるんじゃない、博物館で見つかっているんだ!」と強く主張したいところだが、そんなネガティブ・セールスは分類学的研究のためにはならないと思い、いつも心の奥にしまっている。それに新種を発見することが分類学の仕事の全てではない。新しい形態形質を発見したり過去に見つかっていた種を再認識したりするほうが、実は重要だったりもする。

 20年の研究生活で、私は300種を超える新種を発見・記載した。まだ論文化できていないが手元には数十種を超える未記載の標本もあり、これらを記載することがこれからの宿題であるし、これからも新種を発見し記載し続けていくことと思う。正直、その仕事量を思うと気が重くなる。

 フィールドに出て、調査していると、採った瞬間に「これは新種だ!」と判る発見に出会うことがある。そんな時は野外で1人、狂喜乱舞したり、大声で叫んでしまったり、あまりの感動に記憶を無くしてしまうほどのこともある。今回はそんな新種の発見談のうち、感動した出会いのいくつかを紹介していきたい。中には新種の発見談ではないものもあるが、新発見に感動したものなのでご了承いただきたい。

 また、私は高校生の頃から昆虫採集を趣味としてきた。昆虫採集が趣味の人たちは自分達のことを親しみを込めて“虫屋”と呼ぶ。根っからの“虫屋”は研究者として大成しないとか研究を続けられないとか言われている。私は研究者としては大成していないが、これまでのところ研究を継続できている。虫屋を続けることに3つの大きな壁があるとも言われている。それは進学、就職、結婚の3つだ。私はこの3つの壁も何とか越えることができた。自分の半生を綴ることによって、研究を続けることと壁を乗り越えることへのヒントを後輩たちに示すことができるかも知れないと思い、筆をとった。

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