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ポストInstagram時代の広報について考える

こんにちは、SAGYOの伊藤です。

生業の一つとして農家業もしていますがSAGYOでは資金調達からテストとディレクター(方向付け)を担当しております。実は学生時代も現代的な着物を開発し販売するというサークルを立ち上げていました。日本の風土における衣服について考える歴はもう22年ぐらいになります。

SAGYOは、シーズンごとの流行があるファッションではなくどちらかというと着る道具屋なので、業界がつくる流行も関係ありませんし、購入した人がワイワイしてInstagramにアップするような品物ではありません。むろんInstagramにアップしちゃいけないとかではなく傾向としてですが。

一方で、ただの道具でもないので、着たら気分が変わることも重要な機能です。

衣服のデザインというと、専門教育を受けてどこかの大御所の元で修行して独立し、ショーを行ってデビューとか聞きますが、これは別世界の話です。

もちろんこの数年で他の動きもありまして、最近では、原価を公開したり製造工程の情報を公開したり、顧客をコミュニティ化したりグラウドファンディングで予約販売をしたりといろんな技を駆使するところも出てきました。

そういう新規のやり方も話題にはなるんですが、私個人としてメーカーを取り巻く大事な変化としては、次の点と考えています。

・小ロットで製造し改良を短期に繰り返せるようになった

…日本国内で大量製造しなくなったので小ロットも請け負える工場が出てきて結果的に高回転で仕様をアップデートできるようになりました。ただ、小さい工場は後継者問題などもあり、これが持続するかというのは今後次第ではあります。

ちなみに、小ロットが可能になったのは、印刷業界でも同じです。輪転機でポスターを刷ると商品広告のような予算がなくても大量に刷れますが、これは新聞の発行部数が減って工場に余力が出てきたからです。

・直接販売が容易になった

…これは分かりやすい現象ですが、オンラインなどで直接ユーザーにお届けできる敷居が劇的に下がりました(BASEとSTORE.jpが2012年スタート、shopfiyは2017年末に日本上陸)。オンライン直接販売にかかる初期投資経費が小さくなるので自ずと開発費や原価にコストを掛けられる。わざわざDtoCと呼び論評されておるわけです。クラフト作家の場合は、以前から作って売るというのは割と一般的でしたが、範囲がかなり広がったと言えます。

今や確固たるブランドとなったミナペルホネンの場合は2000年代にセレクトショップというある種の店舗のシェアサービスが広がってきたところに成長のタイミングが合いました(今や夢のような内装の直営店があり、聖地のようになっています)。セレクトショップは相応の役目もありますが、ショップ側の力が強くなりすぎてメーカーの主導権が失われるという弊害もあり、比重はそれぞれですが、これからメーカーを立ち上げる際には直接販売は前提に近いものがあります。

少しずれますが、直近ではワークマンが楽天から撤退というニュースがありました。楽天が一定以上の購買には送料無料を義務化したことが原因だそうです。プラットフォームに依存すると厄介なことが起きるのは少なくとも日本においては日常茶飯事です。

・SNS上でも殴り合いの競争が起きやすくなった

オンライン直接販売は、いい話でもありますがアクセスの奪い合いでもあるので宣伝広告費にコストと人的なエネルギーが必要です。楽天などモールは「集客」を楽にするという利点があったのですが、数が増えてくると当然ながら価格競争などの殴り合いになります。

昨今ではInstagramを活用すればある程度の世界観を作り込みながらファンをつくれるということで、こちらも前提になりつつあります。より進展してインフルエンサーマーケティング(ようは各種有名人に宣伝させる)などが流行ったりしていますが、有名人が買っているから買うという買い物の仕方が健全かどうかは問われるところでしょう。

ですので、今後の課題としてはいかにSNSの活用で消耗せずに適切なユーザーに情報を届けるか、ということになるだろうと思います。Instagramは使い方によってはユーザーもメーカーも消耗するので、適切な距離を取った方がいい。

特に体を動かすための衣服づくりに関わっているものとしては、Instagramはせいぜい1日5分ぐらいにして、それ以上眺める時間があったら屋外に出て作業をしてほしいと思います。

・1対多のコミュニケーションが容易になった。

…単純にハガキを千人に送ると1通63円なので63000円もかかります。2000年以前はハガキしかない状態でしたが、2020年の60歳は2000年時点で40歳ですからインターネットの普及率が上がっても当然です。服を作って自分で売っている友人は、新作ができるたびにメルマガで逐一告知しています。

衣服系メーカーの経営的弱点は、素材を仕入れてから現金化されるまでの時間が長いという点なのですが、予約販売しなくても発売して即座に売れる状態がつくれれば、弱点をかなり解消できます。クラウドファンディングによる予約販売も近い効果は出ますが、手数料が10%以上はかかるので、素早さとコストではメルマガが優れていると言えます。2020年での結論が、メール、なんという地味さ!

以上の4点の変化が重要と思っています。ではどうするべきか、というのはそれぞれが目指す規模によって変わるでしょう。

なんやかんや一気に大きくしてブランドを売却したいという場合は、Instagramのフォロワー数などが投資家には分かりやすい指標になります。結局のところ重要です。そう、カネで買ってでもフォロワーを増やすべきです。

しかし、本稿ではバイアウトなどを狙わず末長くメーカー活動を続けたい場合について考えていきます。

・インディーズがSNSから距離をとるべき理由

-フェイクニュースとアフィリエイト-
…「サウジアラビアに兵器を約81億ドルで売った」と開陳する正直者アメリカ大統領トランプ氏ですが、彼が当選した2016年の選挙ではフェイクニュースが流れまくりました。その中の一例ですが、遠く離れたマケドニアの少年の700万円相当の荒稼ぎのためにフェイクニュースを流していたことが判明。偽の情報が飛び交う舞台となったのがSNSです。

現状ではインターネットで注目を集めると金になり、いい情報よりも印象の強い情報が流れ、偽の情報が増えます。あまりに偽情報が増えると、媒体の信頼性が下がります。

つまり、本物の情報も都合が悪ければ「これはフェイクニュースだ!」と言えば潰せる。ロールプレイゲーム「人狼」状態です。

ここ日本国政府の数々の疑惑(自殺者も出ているレベル含む)も、正しかろう証言が出てきても黙殺できる状態になりつつあります。この他にもNHKの取材で判明したInstagramのフォロワーは買えるという事実(「潜入取材!フォロワー3万人買ってみた」)も、これまでインディーズが頼りにしていたSNSの信頼性が揺らぐ事態となっています。

もちろんSNSは、#Metooなど社会正義のための告発と連帯には効果を発揮しました。しかし、多くの分野においては弊害が増えてきているというのが実際のところでしょう。何名かの有名ユーザーは早々にTwitterから撤退したり、告知を流すだけの使い方に切り替えています。

フェイクニュースが氾濫するため、正しい情報もフェイクに見える事態になっているわけで、双方向的な使い方は最早かなり難しい。

特に商品をお勧めする記事で広告料を稼ぐキュレーションメディアやブログがはびこり、盗用や虚偽が発覚し炎上したのがたった3年前の2017年です。遠い昔のようです。

個人が素朴に親切心で書いている文章にすら「これはアフィリエイトじゃないですよ」と一言書かないといけない状況になってしまいました。インターネットにおける広報というのはかなり不自由になっているという認識が必要です。
(結果としてインターネットにおけるPRは専門化し、専門家を雇うなど資金が必要になってきて資本投下量で勝負が決まってしまいがちです。)

日本が近代化して続いていることですが、ずば抜けた品ではない物を広告宣伝の力ですごく見せるという競争がずっと続いています(公共事業も含む)。根本的にはこれを変えなければ生活はよくなっていきません。

・結局は破壊的な価値をどう作って届けるか

製造原価を公開することなど、これまでにないユーザーとのコミュニケーションも一定の革新性はあるのですが、最終的に買う側からしたらどうでもよく、やはり品物が価格に見合う価値があるかどうかです。極論言えば5万円でも、体の動きが矯正されて日々体の調子が良くなる衣服があれば、それは製造原価千円でも激安です。

農家は腰痛との戦いで、専門雑誌「現代農業」では、腰を痛めない米袋の持ち方などが特集されています。医療器具はあれど、これに答える衣服はまだありません。

そういう観点で最近、これはすげえを思った品物はgranmoccoというおんぶ紐です。モッコという熊本県天草地方で使われていたおんぶ紐ですが、これを理学療法士やスタイリストと育児中の方と協力して改良を重ねて商品化したものであるそうです。

値段も1万円代後半-2万円と安売りせず価値相応で絶妙であります。(先日、「肩への負担が7分の1(他社比)」という表記が不当表示だと消費者庁から措置命令を受けたエルゴベビーは3万円ぐらい。)

育児をされている方だと実感があるかもしれませんが、おんぶで両手が使えると最高です。私も農業で物を運ぶ作業をよくするのですが物を運ぶなら背中を使えると圧倒的に楽で体の正面が空くと作業がしやすい。

製品化までの流れも素晴らしい。

育児サークルのメンバーで手作りして使ったのが最初で、古来の形から改良して、使い方の練習会を各地のアンバサダーが開いて広めているようです。3年ぐらいで販売枚数は1万4千枚になったそうです。

この話で面白いのは、大手の育児用品メーカーが研究開発したのではなく、地方古来の民具を育児サークル(ユーザーの集まり)がつくって、製品化した、さらにユーザーの代表が使い方を講習して広めているという一連の流れです。(逆にいうと、改良しても本質的な良さを残すためには伝統的な衣服類は着方にコツが必要)

SAGYOに関しては、まだこの規模の大ヒット品物は開発できていません。着方にコツがいるものはある意味ではビビって出していないし、洋服文化が浸透した現代社会で売れるのかというとあんまり売れないであろうと思われるからです。

一つ、野袴だけでは一体化した帯で締めるので和服の考え方に近いものです。コツがわからないと緩んで落ちてしまうのですが、売れないわけではなく、SAGYOの行商仲間に天才的なI野さんという方がおられまして、I野さんが野袴を実演して勧めると購入率ほぼ100%という驚異の数字を叩き出しています。

(行商仲間についてはまたどこかで書きたいと思います。SAGYOは卸売販売をしないで広げる作戦です。)

お題の「ポストInstagram時代の広報について考える」の結論は、話題作りのための品物ではなく、人の生活を変える破壊的な価値を発揮する品物をつくる。そして、人づてに広がる対面の場やフェイクノイズに晒されない情報媒体で伝達していくことが近道なのではないかと思う次第です。

SNSから距離を取れ!ということでしょうか。

この観点で言えば、インディーズカルチャー界隈でリソグラフスタンドがひそかに隆盛しているのもSNSから距離を取る動きの一部なのかもしれません。

リソグラフとは何かというと、プリントゴッコで有名な理想科学がつくったシルクスクリーンのような製版が簡易にできて印刷も可能な機械です。見た目はコピー機と同じです。

自分で製版してインクを選べて、試し刷りと微調整を繰り返せて自由度が高い。アーティストが複製作品を作ったり、広報物を制作する際に使われるようになっているようです。

私も自分の遊撃的農家ナリワイモンゴル武者修行などの広報物はリソグラフで作っています。思い立ったらすぐに印刷できて、しかも質感はチラシ印刷所よりもいい。

このリスグラフがオープンに使えるスタジオが世界各地にできていて、世界のマップまであります。フランスとかめっちゃあるしルーマニアにも2軒ある。

なぜかメーカーお膝元の日本より海外の方が多いのも興味深いところですが、いずれにしても個人が質感のある紙媒体をDIYでつくれる場が広がってると言えます。

SNSとの付き合い方としては、芸能的有名人が広報で使うとかバイアウトを狙うのでなければ、ちょっと前にSNSが個人の力をエンパワーメントするなどという言説は半信半疑で、ご近所向けにお知らせるする程度で使った方が健全なのだろうと思われます。

以上です。このテーマは引き続き考えていきたいと思います。

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