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詩 : ファスナーへ花束を



頭ん中の記憶のファスナー

勝手に閉じたり開いたり

落としたく無い大事な記憶
残しておきたい素敵な記憶
ぜったい落とさないよと誓っても
そいつが開くとぽろりと落ちる

落ちてくことに気づかない
わたしたちはそのまんま
なんにもないように過ごしていく


落ちた記憶はサラサラと
大地の中に溶けていく
目を細めてぼんやり見れば
かすかに光ってスンと消える


頭ん中の記憶のファスナー

こいつはちょっと難しく
開けたいときに開けれない
今すぐ捨てたい記憶があっても
かたくてファスナー開いてくれない

ファスナー開いて出てったと
思っていても勘違い
下の、下の、下の方
見にくい場所に落ちただけ

記憶の箱はゆれやすく
ふとしたときに現れる
嫌な映像、嫌な感情
そんな時には少しまてば
また下の方に落ちていく


わたしたちの思った通りに
閉じたり開いたりしてくれない
頭ん中の記憶のファスナー


さわれないような形なのか
それとも引手が取れてさわれないのか


ちょうど前の日曜日
夜中に冷蔵庫を開けたとき
ファスナーが空いてて中が見えた
記憶の箱の上の方
捨てたい記憶がチラッと見えた

30年前のあの子との記憶
甘酸っぱさの酸っぱいが強め
素敵なあの子と未熟な自分
あやまりたいっていつも思う

思い切ってファスナーに
お願い事を言ってみた
「そろそろ捨ててもらえませんか」

「ほんとは捨てたくないんでしょ」

まるで意識を持ったような
頭ん中の記憶のファスナー
そいつの動きはオートマティック
AIにもできないような
記憶のファイルの管理人

そいつのおかげでわたしたちは
人にやさしくなれる気がする


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