日本茶がくれる豊かな時間と、人のつながり。「御茶人」桐原共輝さんが日本茶を淹れる理由。
元日の能登半島地震から始まった、2024年。
翌日には日航機と海保機が衝突し、炎上するというショッキングな事故も発生し、未曾有の正月になりました。
当たり前だと思っていた日常の大切さやありがたみについて、改めて考えた方も多いのではないでしょうか。ふだんの生活を見つめ直すと、何気ない毎日の中でも人生を豊かにしてくれる存在があることに気づくでしょう。
福岡県八女市の地域おこし協力隊として活動している、桐原 共輝さん(以下、桐原さん)は、生活に身近な日本茶に魅了され、八女茶を始めとした日本茶を通じて心身への癒しをお届けする【御茶人】としても活動されています。
日本茶が持つ魅力や、日常生活で豊かさを感じる方法について桐原さんに教えてもらいました。
温かい会話が弾む、日本茶の魅力
ーー今回は、八女の関係人口創出拠点「つながるバス停」内にて、桐原さんに日本茶を淹れていただいたお茶を飲みながら、お話をお伺いします。
よろしくお願いします。
今日のお茶は2種類ご用意していて、香利休(かおりりきゅう)ほうじ茶と、八女のお茶農家さんからいただいた「白葉(はくよう)煎茶」という日本茶です。まずは、香利休からどうぞ。
ーーすごく香ばしくて美味しいです。
ありがとうございます。このお茶は、僕が働いていた大阪の専門店のもので香ばしい香りが特徴です。ここで日本茶を提供する日替わり喫茶もやっているのですが、このお茶も提供しています。
ーーこの「つながるバス停」は、どんな場所なんですか?
ここは、「関係人口創出拠点」と言いまして、簡単に説明すると「人と人」「人と地域」のつながりを増やすための市の施設です。バス停に併設しているので、バス待ちの間にお茶を飲んだり、ミニ図書館のように利用したりなど、地元の人たちの交流の場にもなっています。
ーー素敵な場所ですね。今も、年配の女性が桐原さんに声をかけていたり、賑わいがありますね。
「まちのコイン」という地域で使えるコミュニティ通貨も導入していて、八女市内のまちのコイン加盟店さんや各スポットを散策するとコインが貰えたり、逆にコインをあげるとそこでしかできない体験が出来たりします。実は、僕自身も加盟店となっていて「僕に会えたらコインが貰えます」というのもあります笑。
ーー桐原さんも、すっかり八女の有名人ですね笑。でも、そういう仕掛けもあり、ここに来るきっかけがあって、人に会ってお茶を飲んで。話が弾んで賑わいが生まれる循環って、とても良いですね。
この場所があって、本当に良かったと思いました。
地元の人とも交流できる温かい場所ですし、県外から友人や知り合いをここに招待して、日本茶を振る舞ったり、街散策の拠点に活用したりしてます。
お茶って、人と話すのにちょうどいいんですよね。
身近な飲み物なんですが、日本茶の知識や説明をして話をしたり、人と人をつなげることができる。何より美味しいので、みんな笑顔になってくれますし、そういう空間や豊かな時間をお茶がつくってくれると思っています。
ーーお茶の旨味を感じて、純粋に美味しい!と思うのと同時に、なんだかホッとして体も温まります。
日本茶には、そういう力がありますよね。
ペットボトルのお茶も美味しいですが、手軽に味わえるので、ぜひ急須で淹れた日本茶の美味しさを多くの人に知っていただきたいです。
祖母が淹れてくれた静岡茶で心も回復
ーー桐原さんが日本茶の魅力を再認識したきっかけは、何ですか?
静岡の祖母が淹れてくれた静岡茶ですね。
当時、僕は熊本のゲストハウスで店長をしていたのですが、新型コロナウイルスの影響で休業することになり、心にも大ダメージを受けて、一度地元に戻ったんです。
昔からおばあちゃん子だった僕は、子どもの頃よく実家近くの祖母宅へ通って、日本茶を飲んでいたのですが、一番つらかった時にふとその思い出が蘇ってきました。
それでまた、祖母にお茶を淹れてもらったら、すごく美味しくて。感動して、自分も美味しい日本茶を淹れて、人に飲んでもらいたいという思いが湧き上がってきました。
ーーおばあちゃんのお茶に救われたんですね。
そうですね。日本茶の魅力を再発見して、もっと知りたい・学びたい気持ちが強くなりました。生活の場を熊本に戻すのですが、静岡茶を扱っていることがきっかけで福岡の茶舗ふりゅうさんを知り、お茶の師匠と呼べる人に出会い、通い詰めました。その頃から何をするのもずっと「日本茶」がキーワードになっていましたね。
その後、ご縁あって大阪の日本茶専門店で働くことになり、そこで知識や技術を学ばせていただきました。
日本茶から生まれる、つながる場所と豊かな時間
ーー大阪で働いた後、また九州に戻ってこられるのですが、それはどうしてですか?
僕は、熊本が自分の原点だと思っています。ゲストハウス時代からお世話になった人もたくさんいて、美味しい水で日本茶も淹れられる。
でも、日本茶をもっと学ぶために茶舗ふりゅうさんがある福岡にも通いたい。無理のない範囲はどこかと考えた時に、ここ八女市が候補になったんですね。
ちょうど2023年5月に「八女市地域おこし協力隊」の募集を知り、これだ!と思って応募したのがここに来た経緯です。
場所の立地条件だけじゃなく、八女の人は話し好きで温かいし、美味しい八女茶もあって大好きです。
ーー八女茶という一級の特産品があるこの場所は、桐原さんにとって最適地なのではと思います。
僕が淹れる八女茶が入り口になって、知ってもらえたり、関心をもってもらえることはありがたいです。今後、重要伝統的建造物群保存地区に選定された、古い町並みが残る八女福島地区や、茶畑を巡るツアーも企画したいと考えています。
ーー今後、やりたいことを教えてください。
これまでを振り返って気づいたんですが、ずっと「軸」は変わってないんですよね。
ゲストハウスの店長をやっていた頃も、今もやりたいことは同じで「人とつながる場所」を提供したい。ゲストハウスは「宿」という交流の場の提供だったけど、日本茶はお茶を通じて、人と人をつなげる・つながる場所を作り出すことができると気づいたんです。僕は主役ではなくて、来てくれる人が主役の場所。
日本茶を広めることで、多くの人につながってもらえたら嬉しいです。
ーー桐原さん、ありがとうございました。
■編集後記
桐原さんの粋な計らいで、取材中に日本茶を淹れていただくことに。庶民的なイメージのほうじ茶から、希少価値の高い贅沢な煎茶までいただいてしまい、当たり前ですが、普段自分で淹れるのとは、格段に違う美味しさがありました。とても貴重な、本物を知る経験です。
また、目の前で淹れていただく姿は、所作がとても美しく、そこだけ空気が変わったような特別感も味わうことができました。
日本茶の美味しさと、奥深い世界。家にある日本茶のパッケージを改めて見て、調べてみようと思いました。
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