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【エッセイ連載】いと|みちくさ文語(最終回)|文:佐藤仁@石垣島


皆さまおはようございます!こんにちは!こんばんは!今日も、この記事をお読みいただいてありがとうございます。今は9月3日の朝10時。いつもどおり原稿提出の〆切ラインを突破し、はや3日が経過した、頭がすこーし痛い朝です。

今回で連載6回目、ぼくが担当するエッセイとしては、これが最終回になります。

1992年生まれのぼく。(ちなみに、中島みゆきさんの名曲『糸』と同い年です。)

いま世の中にある大抵のものはぼくが生まれる前からあったもので、大抵のことはぼくが生まれる前から決まっていたことで。ぼくが生まれてからだって、ぼくからは見えも聞こえもしないところでたくさんの何かが生まれ、ほとんどの何かは決まっていくなかで。

『月刊まーる』というコンテンツがこの世に誕生するその時からエッセイ執筆のお声がけをくださった、一道さんはじめとする編集部の皆さまに感謝を申し上げます。ありがとうございました!

そんなわけで、この『月刊まーる』は、自分が誕生に立ち会えた貴重なコンテンツなわけですが。連載最終回のいま、あえて、「自分が生まれる前から続いてきたもの」に参加し、感じたことについて書いてみたいと思います。

■アンガマ
ぼくの今年の夏いちばんの思い出は、去る8/28~31に行われた登野城アンガマに参加させていただいたことです。

「アンガマ」とは、お面をつけた「ウシュマイ・ンミー」、三線をはじめとする楽器と歌で皆を導く「ジーピトゥ」、花で飾られたクバ笠を身につけ華麗な踊りを披露する「ファーマー」らの一行が各家庭を訪ねつつ町を練り歩く、石垣島のお盆に行われる行事のこと。

自分の役割は演者さんの身の回りのサポートをしたり、移動の道順を練ったり、会場誘導したり、(たまにウシュマイ・ンミーに質問をしたり)といった、いわゆる裏方の仕事でした。

練習・準備期間を含めれば約3週間、ひとり移住者の身で、登野城アンガマチームの輪に入れていただく僥倖に預かりました。

そうして参加したその場を満たしていたのは、端的に言えば、「美しいものたち」でした。
常に鳴り響きその場のベースとなり彩りとなる三線の音や歌声、ウシュマイ・ンミーを中心に交わされる優しくおどけた響きの島言葉、踊り子たちの時に明るく時に優雅な踊り。

そういった、見えるもの、聞こえるものの素晴らしさは言わずもがな。
僕の心に最も強く残ったのは、「関係性」の美しさです。

「2023年の登野城アンガマ」という場に集まったメンバーが、各々の抱えるハードルを乗り越えながら役割を全うしようとする「横の関係性」があり。
踊りを通して、問答を通して、音色を通して、ゆんたくを通して透けて見える、脈々と受け継がれてきた伝統の「縦の関係性」があり。
それらが重なりあって織り上げられた美しいムードのただなか、今年からポンと飛び込んできた自分の胸からは、抱えきれない羨ましさと、言葉にできない熱が溢れてくるばかり。

「この場を守ってくれた/守っていくあなたたち」という縦の関係と、「この場に集まったわたしたち」という横の関係。名曲のフレーズを借りれば、縦の糸はあなたたち、横の糸はわたしたち。織りなす布は…ということです。


■糸
横の糸は「わたしたち」。
今年、この場に集まった自分たちは、また、自分たちの一挙手一投足は、それを望むと望まざるにかかわらず、「2023のアンガマ」という一本の横糸を形づくることとなります。

縦の糸は「あなたたち」。
先輩方(これまでのあなたたち)が脈々と続けてこられたこと、知恵やマインドが、アンガマが生まれた時から今まで、またこれからずっと先まで、何本もの縦糸となり、横糸を支えています。
そうして紡いでこられた糸を受け取るためには、一種の意志・覚悟が必要になります。知恵やマインドを、責任と共に引き受けること。
また、後進(これからのあなたたち)へ、脈々と続いてゆくべき何かを手渡すということも、きっと、意図や願いに溢れる営みなのだと、何度も何度も感じさせられました。(今年は、登野城のアンガマを長年支えてこられた偉大な先輩がアンガマを卒業される、メモリアルイヤーだったのです。)

否応なしに自分がその一部になる「わたしたち」という横糸。
意図・意志を持って引き受け、託していくことになる「あなたたち」という縦糸。
この2つの「糸」について、深く考えさせられる今年の夏でした。


■月刊まーる
そうして考えてみると、これはアンガマに限らず、社会、町、チーム、コンテンツにも当てはまる話であると気付きます。
ぼくたちの一挙手一投足は否応なしにいまの町を、社会を形づくることになる一方、それらがどうあるべきなのかを考える手がかり、ガイドとなる知恵やマインドは、意図・意志を持って誰かから引き受け、誰かに託していかなければならない。

今回『月刊まーる』に参加させていただいたぼくは、「月刊まーる4~9月号」という横糸の一部であったと同時に、これから続いていく「執筆者たち」という縦糸のはじまりでもあると思います。

そこで、僕も意図をもって、この縦糸の端を次の方に託すことに決めました。
その相手は、僕の親方。
「土楽(どうらく)」として農園に、「木楽(きらく)」として木工に携わる、下地宏之さんです。

といっても、本人に了解を取るどころか何も伝えていないので、この後のことは下地さんと編集部の皆様におまかせ(丸投げ)します!
丁寧に紡がれるアンガマの縦糸と比べると、ずいぶん雑に放り投げられた縦糸ですが。笑
その端を拾ってやっていただけると幸いです。

それでは、アンガマ期間中に幾度も唱えた美しい言葉でもって、連載をしめくくりたいと思います。
しかいとぅ みーふぁいゆー!

(了)


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この記事を書いた人

佐藤仁(おしゃべりのデザイン/私立図書館)

1992年山梨生まれ、大阪育ち。
幼稚園時代の文集に書いた将来の夢は「サラリーマン」。大学卒業後その夢を叶えるも、3年経たぬうちに退職し、2017年に石垣島に移住。
現在は石垣島にて、名刺、ロゴ、コンセプト、しくみのデザインを仕事としつつ、Tシャツ屋『しろはら商店』、私立図書館『みちくさ文庫』を運営。<このコーナーの他の記事を読む>

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