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銀行の行く末

金融機関で働いてだいぶ長くたちましたが、取り巻く環境はずっと常に刺激的に変化を続けてきましたね。僕が就職活動をしていたころは私のように何も持っていないけど野心と欲だけはあるという人間にとって銀行とか証券、コンサルは上位の選択肢でした。今はどうでしょう。銀行に行きたいという人の数はいるかもしれませんが、そこを目指している人たちの層が変わっているのではないかと思います。こういう言い方は適切ではないのかもしれませんが、トップの大学の上位層がいく先ではなくなっている気がします。

金融機関といっても仕事は幅が広く、トレーダーのように自分でリスクとって積極的に稼ぎに行く仕事、プライベートバンカー、投資銀行家、事業法人営業、商品開発、個人営業、アセットマネジメント、アナリスト、エコノミスト。ぱっと思いつくだけでもこれだけ出てきて、働き方も違えば給料も違う。ストレス種類、大小もだいぶ違います。

つい先日、野村證券とクレディスイスがアルケゴスの関連で何千億円も損失が出るというニュースがありましたが、それに端を発して米国では公聴会が開かれたり、規制が強化されたりということがあるかもしれません。そういうことがあるたびに金融機関では花形の仕事の順位が入れ替わり、人が辞めたり、違うジャンルにスポットライトが当たったりしてきたわけです。

金融機関に入りたいという人のモチベーションって何でしょうか。僕はやっぱり「お金」だと思うんです。給料。トレーダーとか投資銀行はそれはもう稼げるわけです。普通より何倍も給料がいい。枠は少ないけど。でも、末端のいわゆる新卒で邦銀に入るパターンだって、給料は悪くないわけですよね。30前後で1000万円くらいにはなるわけですから。特別ものすごいいいわけじゃないけど、簡単にやめられないくらいにはもらえる絶妙なラインを行くわけです。仕事が面白いかどうかは人によると思いますけども、少なくとも私の周りではこれは仕事と割り切って接ししている人が多いと思いますよ。これぞ私の人生みたいに仕事に自分自身を重ねて入り込んでしまうようなほどに仕事にのめりこんでいる人はあまり見たことがありません。やはり、お金が人より多くもらえる可能性が高いと思えることが金融機関で働く意味なのかなとおもいます。

しかし、本当にそうでしょうか。金融機関の給料は本当にいいのでしょうか。そこに疑問を抱く機会が増えてきました。お金に関することって結局、本当のところを着やすくしゃべらないと思うので、嘘つく人もいますし、疑心暗鬼に思えてきて自分は不当に扱われているんじゃないかと思う人もいます。だから正しいことは自分の肌感覚を研ぎ澄ませていかないといけないわけなんですが、少なくとも銀行の給料は高くないというか、「普通」じゃないかなと思う。

給料は結局比較の問題なので、みんなが当たり前のように2000万円もらっているときに1000万円もらってても全然ありがたくないわけです。結局は購買力で優位に立てるかどうかなので、自分の給料だけを見ていても何の意味もないんです。大学生の時に1000万円ほしいなと思っていて、1000万円に到達するまでは1000万円っていうのはものすごく大きな金額で、意味のある数字なんですが、10年とか15年たつうちに周りの環境が変わってきて、1000万円くらい軽く払ってしまう会社がごろごろと出てきているわけです。つまり、IT系というかテック系ですかね?そういう新しい業種がかなり出てきて、業界の勢力図も給料水準もオールドエコノミーとは比較にならないくらいいい会社がいっぱい出てきている感じがします。そういった状況を冷静に注視していると、銀行で働いていることがもはや勝ち組ではなくなったとおもえるわけです。

銀行の仕事って基本的にものすごく裁量は少ないです。規制業種ですからある程度しょうがない。そんなことはわかっていますが、裁量というのはすなわちこれはストレスの大小と同じです。目標は硬直的に与えられ、それを達成する手段は決められているが、経済環境によってかなり左右されます。自分の力の範囲外で決まることが結構多いので、自分で物事を動かしている感覚が小さいです。その意味でとてもストレスフルな仕事環境といえるでしょう。そういうことを加味すると、銀行ってどうなのかと聞かれるとあまり若い世代にお勧めしたい職場ではないなというのが本音です。

給料という切り口だけでここまで論じてきましたが、そもそも給料が高い会社というのは儲かっているから高い給料を払えるわけです。銀行が儲かっているかといえば、これはどうでしょう。私のいる伝統的商業銀行業務という観点んでいえば、全然儲かっていません。銀行収益を引っ張っているのはトレーディングだったり、投資銀行だったりするわけですが、僕の仕事とは無縁なのでちょっと他人事のように感じてしまいます。伝統的商業銀行業務という観点でいえば、貸出、預金、為替、決済というところになるわけです。そしてこの基本的銀行の機能こそが一番コストがかかります。超巨大なシステムを維持するだけでも何千億もかかるし、でもそのシステムはレガシーといわれ続けてもう何十年というシステムをまだ使っているわけです。店舗も人間も金がかかります。それでもかつては儲かっていた。それは金利がある程度高かったからです。そう、すべては金利ですよ。預金してもらうだけで儲かっていたわけですから。だから送金とかの手数料なんて気にする必要もないくらいに預金さえ集めておけばよかったわけです。日本はもうかれこれ20年くらいゼロ金利ですが、コロナでとどめを刺されたように世界中ゼロかマイナス金利ですよね。一番キツイのがデンマークとかですかね、マイナス0.75%とかだったか?そんな金利プラスでももらったことないですよ。ユーロもマイナスが続いていてプラスになる気配などないわけです。銀行みたいなデカい組織だと、そんなにすぐに方向転換できないですからね、預金をあつめて貸出をする、そのための付随で決済機能を強化する程度にビジネスをやっていたのが、金利由来の収益が突然亡くなってしまうとどうしようもなくなってしまうわけです。決済の手数料が今でこそ貴重な収益源として見直されていますが、まあ逆に言えばもうそれくらいしかすがるところがないわけですよ。預金の金利収益と決済の手数料収益って預金のほうがこれまでははるかに大きな収益源でそれこそ決済手数料収益の4-5倍くらいあったんですよね。それがいきなり半分くらいになったわけだから、手数料っていきなり倍になったりはしないですからね。

決済手段という意味では銀行の送金システムは即時性と処理件数ではクレジットカード決済に比べてかなり劣ります。非常に苦しい立ち位置です。送金の件数を増やすのは銀行ではなくて銀行を利用する企業のほうですから。銀行が頑張って送金処理件数を増やして手数料を下げても、クレジットカードで決済するほうがかなり速いし安心だし。個人がネットで買い物するときみんな普通クレジットカード使いますよね?銀行送金でものかったことありますか?ほとんどの方はないと思うんですよ。だから、ネットショッピングがこれからまだまだ伸びると思いますけど、そこで伸びるのはクレジットカードの決済額であって、銀行送金の本数ではない。でも銀行は送金手数料を増やそうとしている。なんか違わないそれ?って感じ。確かに、クレジットカードは手数料の高い決済手段ですよ。3%とか4%とか抜かれちゃうから、お店側からしたら現金とか銀行送金のほうがありがたいのはわからなくもないけど、お金を払う側のほうが強いのは世の常。払いたいほうの希望に合わせるしかない。現金は減り、キャッシュレスが増える。で、キャッシュレスで伸びるのは電子マネーとクレジットカード。銀行送金は減らないと思うけど、すげえ伸びるわけではないだろうね。

銀行送金が伸びる分野があるとすれば、多分個人への送金だろうね。メルカリとかウーバーみたいなやつは結局個人にお金を払わないといけないけど、そこってどうしても銀行送金なわけですから。でも、楽天ポイントとかメルカリもそうだけど、都度現金じゃなくてポイントという電子マネーでプールしておいて必要な額だけ払い出すようになるだろうから、そこでもなるべく銀行への送金は減らそうというインセンティブが働くだろうなぁ。

と、いうわけでやっぱり今は銀行にとっては苦しい状況なんですよね。金利収入がなくなったのに手数料だってそう簡単に増やせるわけじゃないよ。でも背に腹は代えられないから、嫌われてもいいから手数料を上げるよ。というわけで銀行の手数料は下がらないか、上がっていくだろうなぁ。それでもじり貧なのよ銀行は。儲けろと言われながらも公的な役割も担う、難しい立ち位置だし。銀行の収益環境は依然厳しいし、最先端のテクノロジーからも1ステップ後ろにいるし、規制で手足を縛られながら、収益源を失っている銀行がどのように生きていくのか。人を切るだろうし、部門を切ることもあるかもしれない。個人的にはクレジットカードの決済を法人間決済に広げて、イシュアとアクワイアラ業務をやり始めるんじゃないかという気がする。逆にもうそうしないとほかにどこで収益を得るのという気がする。そうしたときに、銀行が全部自前でやるのか、銀行がペイメント系サービスを買うか、いやいやもしかしたらペイメント系サービスが銀行を買うというようなことがワンちゃん起こるかもしれないですね。そうなったらこれは面白いですよ。つまり、そうなる前に銀行からペイメント系会社に転職したほうがいい。

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