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自分で翔べない人間はコンピューターに仕事を奪われる—1986年にこう書いている「思考の整理学」外山滋比古

「もっと若い時に読んでいれば」とのPOPで2008年ころから売れているらしい本書、最初のコラム「グライダー」を読んで、ああこれは本当だ35年以上前の本だが全くって本質を捉えている。時代が進んでもテクノロジーを生み出す人間の裏側の試行錯誤や苦悩には、本質的な変化はない。なぜなら生物としての制約があり、睡眠をとり、食事をとり、集中力と注意力をコントロールし、運動をしなければ人間の体は上手に乗りこなせないからだ。そんなことを思い起こさせた。

グライダーは典型的な学校教育から生み出される受動的な学習者の例えだ。それに対して、内なるエンジンを持った自発的な学習意欲を持つものを飛行機と表現している。そして、昔ながらの師匠と弟子の関係がある意味でグライダーではなく飛行機を育てる方法だと述べている。昭和以前の師弟関係では、師匠は教えず、弟子は教えてもらうのではなく盗むものだ。カバン持ちとか掃除をさせるが、技は教えない。

個人的にはこういったやり方は非効率だし、非人道的な扱いになりやすいのでこれを再現すべしとは思わないが、グライダーをふるい落とし真の飛行機型モチベーションを持った人間をスクリーニングする原始的な方法としては、確かに有効だったのだろうと認めざるを得ない。

我々は本能的に、簡単に手に入れられるものに価値を感じない。世の中に必要な質の高い教育を効率よく提供するというのが学校教育の本質だが、「はい、どうぞ」といわれるとモチベーションは死んでしまうのかもしれない。実に逆説的で、実に面白い。

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