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”その時”を決めるのは患者さん本人

40代の患者さんの70代後半のお母様が4日間連続で付き添い泊をしていた時がありました。

私は終末期の病棟で働いています。
お看取りが近くなると病院に泊まり込みで患者さんに付き添われるご家族がいらっしゃいます。

40代後半の患者さんの意識がなくなり、お看取りが近い状態だったためお母様が付き添いをされていました。4日間も病院で寝泊まりする70代後半のお母様の体調を私たちは気にしていまいしたが、
「どうしてもそばにいたい。最後はひとりにしたくない。」
というお母様のお気持ちもわかり、体調を気遣いながら数日が経過していました。

5日目、患者さんの弟さんが遠方から面会にみえました。
「母を連れて帰ります。落ち着いて見えますが、母は言ってることがおかしくなっています。正直、姉のことは心配していません。みなさんがついていてくれますから。でも母のことをみれるのは僕しかいないんです。」

その通りだと思いました。

ですが心配なことが私たちにもありました。
「お母様の体調は私たちも心配していたのですが、患者さんのお看取りに間に合わなかった時にショックを受けることも私たちは心配していて。その時にそばにいたいというお気持ちもよくわかるんです。」
とお伝えしたら、

「その時を決めるのは、姉です。」

と弟さんがハッキリおっしゃったんです。

母ではありませんと。言葉が続きます。
私は確かにこれもまたその通りだなあと思いました。
その日は結局、弟さんがお母様をご実家に連れて帰り、私たちも一安心しました。

その後、患者さんはすごくがんばられました。
お母様もお部屋の簡易ベッドではなく、和室(緩和ケア病棟なのであるんですよ。)で夜はお休みいただくことになりました。2日に1回はご自宅へ帰るようになってから1週間。お母様が付き添っている時に息を引き取られました。


今回のこの弟さんの一言で、私は”その時”を決めるの患者さんご本人なのだろうなと思いました。
ご家族が付き添っていてもトイレへ席を外している間に息を引き取られることもあります。

間に合いたい
その時にそばにいたい
ひとりにしたくない
そう思われるご家族は多いです。

私もそうだったと思います。
私は幸運にも”その時”にそばにいることができました。
そして主治医から
「その時にあなたがいなくてもそれは運命だから仕方ない。」と
言われていました。言葉だけ聞くとそっけなく聞こえるかもしれませんが、何日もお風呂にも帰らない、ただひたすら側にいる私への不器用な外科医の先生の言葉だったと思います。その後、私は仕事を休むことができ、最後の1ヶ月半は病院で寝泊まりをすることになります。消灯後に患者さんのお風呂でシャワーを使わせていただきながら。

最後に間に合った私の精神状態がどうだったかというと…。
実は亡くなる数ヶ月前のある1日になぜ仕事を休んで側にいなかったか、
亡くなる1ヶ月前のある1日の2時間そばにいなくて彼の精神状態が不安定になったことを数年間ずっと後悔していました。
なんであの1日側にいなかったんだろう。
なんであの日側にいなかったんだろう。

後悔は何をしていてもなくならないんですよ。
生きていれば、忘れてしまうようなことでも死んでしまったら取り返しがつかない。仕事に行ってしまったたった1日は、生きていればいくらでもリカバリーできるけど、できないんです。でもその時その時は、精一杯の、最善の選択をしているはずなんです。

でも数年たって気づいたんですよね。
あの日私は確かに、彼をひとりにしてしまったけど、今彼は私をひとりにしてるじゃない。だからお互い様だよねと。お互い様なんだから、きっと彼は許してくれるだろうとスッと心が軽くなったんです。
(実際は私はひとりになっていないです。彼がたくさんの友だちを残してくれました。)

きっと”その時”に間に合っても間に合わなくても、大切な人が亡くなったら辛いんですよ。いろんなことに理由をつけて後悔をして、自分を恨むかもしれません。
でも先に逝ってしまうことを恨んでもいいんじゃないですか。
なんで先に死んじゃったのって。
きっと辛いのはお互い様なんですよ。

”その時”を決めるのは患者さん本人です。
その時に側にいられるかどうかは、家族や医療者である私たちがいくら望んでも叶うかどうかはわかりません。

それでも”その時”に側にいられても、いられなくてもどっちでもいい。
それを決めるのは患者さんです。
だから私たちは精一杯そばにいられる時は側にいればいいと思うんです。

間に合いたい、側にいたいという気持ち
側にいてもらえたら安心する患者さんの気持ち
大切な人と別れること

色々な考えの方や色々なご家族の形があると思いますが、どんなお看取りだったとしても、あるがまま、それが正しいというか、起こった事実が、さだめられたことなんだと今の私は思っています。



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