うまぴょい伝説の転調より木村カエラの方が音楽理論的にエグいと思った
皆さんは『ウマ娘 プリティーダービー』シリーズの代表的主題歌『うまぴょい伝説』をご存知でしょうか。
テレビCMでもよく流れますし、何よりこの記事を見ている方は「その転調のヤバさ」からこの曲にインパクトを受けた人も多いことでしょう。
もはや転調がヤバい曲の代名詞的存在になりつつあるこの曲より、もっとヤバい転調をする曲を歌う人がいたら…?
実は、います。しかもJ-POPで。その名は木村カエラ。
今日はうまぴょい伝説の転調をおさらいしつつ、木村カエラの転調がなぜヤバいかを音楽理論的に解説したいと思います。
うまぴょい伝説の転調
まず初めにうまぴょい伝説の転調を眺めてみましょう。
この記事では、以下のサイトの解説を参考にお話ししていきます。
うまぴょい伝説ではイントロからサビに向かうまでの間に、合計6回の転調がなされてるとのこと。
引用記事の著者はこの曲を「はっきり言って”あほ”です(称賛)」と評しています。
では、本当にこの曲の転調は”あほ”なのでしょうか
うまぴょい伝説の6回の転調は、細分すると3種類の転調に分けることができます。
それぞれを書くと、こんな感じです。
・短3度の転調
・半音の転調
・完全4度の転調
以下では、これらの転調の特徴を眺めていきたいと思います。
短3度の転調
Key C → key E♭のようなパターンです。
このタイプの転調は、J-POPでは非常に多用されています。
例としては
誘惑 / GLAY(短3度上)
抱きしめたい / Mr.Children(短3度上)
Lemon / 米津玄師(短3度下)
Official髭男dism / イエスタデイ(短3度下)
といったものが挙げられます。
なぜ短3度の転調は多用されているのか。
理由の一つとして、転調前後でピボットコードが使えることが挙げられるかと思います。
少し解説しましょう。
以下では短3度の転調の具体例として、Key C → key E♭ の転調を考えましょう。
転調前後のダイアトニックセブンスコードは以下のように構成されています。
また、3thをドミナントセブンスに置き換えたコードは、ノンダイアトニックコードではあるものの、様々な曲で多用されています。
このコードは、かの有名な丸サ進行の2番目のコードに使われているものでもあります。
すると、Key Cの5thとKey E♭の3thがG7で共通していることが分かります。
このG7を転調の境目に入れることで、転調をなめらかにすることができます。
これがピボットコードを使った転調です。
ということで、短3度の転調は自然な転調を作りやすい、なので様々な曲に多用される、つまりこの種の転調はよく聴くため耳馴染みが良いと考えられます。
この例では短3度上への転調を例に出しましたが、短3度下への転調も同様にピボットコードが使えます。
うまぴょい伝説において、短3度の転調はピボットコードを使っている訳ではありませんが、そもそも短3度の転調自体が上記の理由で耳馴染みが良いため、唐突に転調しても曲として成立しているのだと思われます。
半音上への転調
Key C → key C♯のようなパターンです。
この転調はお馴染みの転調で、特にラスサビで使われることが多いかと思います。
よく使われることもあり、急に転調したところでそこまで大きく違和感を与えません。
完全4度の転調
Key C → Key Fのようなパターンです。
実はこのパターン、スケール構成音が「シ」の音を除いて一致しています。
5度圏でも確認してみましょう。
CとFは5度圏では隣の位置にあることが分かると思います。
一般に転調は5度圏において位置が離れているほど、転調前後で構成音が異なるために影響度が大きくなるとされます。
その意味では、5度圏で隣同士の関係となる完全4度の転調は、最も影響度の小さい転調と言えるでしょう。
実は耳馴染みの良いうまぴょい伝説の転調
以上、うまぴょい伝説で使われている3つのタイプの転調を眺めてみました。
共通して言えるのは「どのタイプの転調も比較的耳馴染みの良いものになっている」ということです。
このことが、イントロからサビにかけて転調を6回もしているにも関わらず、曲全体が破綻しない理由の一因になっているのではないか、と個人的には考えています。
型破りのButterfly
裏を返せば、先ほど上げた3種類の転調以外の方法で転調することは滅多になく、するとしたら他の転調と比べて強烈な違和感を出してきます。
こんな使いづらい転調を、ましてキャッチーな曲が多いJ-POPで使う人なんているわけが…
いました。木村カエラ。
上の動画の曲「Butterfly」について、全体的に転調が多いのですが、この記事では特にBメロからサビにかけて出てくる長3度上への転調について解説してみます。
長3度上への転調
KeyC→KeyEのようなパターンが長3度上への転調になります。
この転調、なかなかにエグさがあります。
まず5度圏でこの転調を見てみましょう。CとEでは、5度圏で見ると4つ離れています。
要するに転調前後でスケールの構成音が4つ異なるため、この時点で転調の影響度がかなり大きいことがわかります。
加えて、転調前後で共通するコードがないことも、滑らかな転調を難しくする一因になっています。
先ほど出た短3度の転調は、転調前後で共通のコードを転調の境目に挟んでピボットコードとして用いれば、滑らかな転調を作る際の手助けになるのでした。
一方、長3度の転調において、転調前後のダイアトニックセブンスコードをKeyC→KeyEを例に見てみると
ということで、共通するコードがありません。
なので、転調する場合は、どこかしらからノンダイアトニックコードを引っ張ってくることになります。
で、改めてButterlyの場合を見てみましょう。
ButterflyではBメロからサビにかけてkeyB→keyE♭の転調を行っています。
この転調の境目に使われるのがA♯7というコード。
このコードは転調後のコードとしてはV7となっており、直後のコードがE♭(=I)であるため、ドミナントモーションが成立しています。
ここはオーソドックスな流れです。
一方で、A♯7は転調前のキーからするとVII7となります。
このノンダイアトニックコードは使われることは稀で、曲を聴いていると確かにかなりインパクトのあるコードとなっているのではないでしょうか。
まとめ
以上をまとめて、うまぴょい伝説とButterflyを比較してみると
うまぴょい伝説は転調回数は多いものの、それぞれの転調は耳馴染みが良い
Butteflyはうまぴょい伝説に比べれば転調の回数は少ないが、長3度上への転調という強烈な一撃を持っている
という感じになると思います。
個人的にはある程度理論的に理解できるうまぴょい伝説に比べて、理論から割と外れた木村カエラのほうがエグさを感じました。
以上、解説でしたが、この記事を書いた筆者自身が音楽の専門家というわけではないため、もし記載に不自然な点や誤りがありましたらご連絡いただけると幸いです。
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それではまたお会いしましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
参考
うまぴょい伝説と転調の話〜お酒を飲んだ作曲家が生み出すトンデモ楽曲の魅力〜
https://datt-music.com/ongaku-riron/umapyoidensetsu-tentyo-kaisetu/
(YouTube)【 即戦力 】転調パターンのアイデア集!前編 転調しやすいキーまとめ【 作曲 DTMに役立つ情報 】
https://youtu.be/M-BzD907CPw?si=G_kb2r7XXRa_07jK
(YouTube)【 即戦力 】 珍しい転調など7選 転調パターンのアイデア集 後編【 作曲 DTMに役立つ情報 】
https://youtu.be/84ZxjXeq_LM?si=u2OrBOq9xPIMM3y1
(YouTube) 転調パターン全網羅で紹介!~使用されている楽曲、コード、やり方などの解説~
https://youtu.be/scolmvvFgTA?si=F9N-7NuA3TF5SxUg
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