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プログラムノート: バッハ『音楽の捧げ物』トリオソナタ

Johann Sebastian Bach
Musikalisches Opfer, Trio Sonata, BWV 1079
(Flute, Violin and Basso Continuo)

 1747年、息子カール・フィリップ・エマヌエル・バッハが奉職していたプロイセン王フリードリヒ2世を訪ねたヨハン・ゼバスティアン・バッハは、王から与えられたハ短調の主題を基に、即興の三声フーガを演奏した。王から課された腕試しに応えたバッハであったが、「では次は六声で」との要求にはさすがに即興では応えられず、のちにこの主題を基に作曲・献上されたのが、2曲のフーガと10曲のカノン、そして「トリオソナタ」と呼ばれる教会ソナタからなる曲集『音楽の捧げ物』であった。

 17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパでは、ミサに際して教会でソナタが演奏されていた。教会での演奏には相応しくないとされた世俗的な曲集が室内ソナタと呼ばれた一方、教会で演奏されうる(いわばマジメな)様式のものを現在では教会ソナタと呼んでいる。楽章の構成としては緩-急-緩-急の4楽章が典型的だ。
 古典派以降のソナタは、独奏楽器をピアノ伴奏で支え、急-緩-急の構成が主流となったが、教会ソナタでは伴奏にオルガンやチェンバロなどの鍵盤楽器とヴィオラ・ダ・ガンバやヴィオローネといったバス楽器を用いるのが通例である。鍵盤楽器とバス楽器をひとつの役割と見なすため、上声部にフルートとヴァイオリンを置くこのソナタは「トリオ」ソナタと呼ばれている。
 フリードリヒ2世自身が優れた演奏家であったフルートを中心に、ヴァイオリンとのカノン風の掛け合いや二重フーガによって進むこのソナタには、端々に「王の主題」が織り込まれている。

 ちなみに「王の主題」にはクヴァンツやヘンデルの作品を参考にした形跡があることが指摘されている。「鍵盤楽器の名手J.S.バッハが来るのだから」と意気込んだフリードリヒ2世は、どんな主題をふっ掛けてやろうかと楽しみにしていたのかもしれない。確かにやけにクロマティックで妙な主題だもんね。終楽章のフルートに(当時の楽器のキー構造を考慮するとなお)難しいパッセージを鏤めてあるのは、王の無茶ぶりに対する大作曲家の当て擦りだったように思える。

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