とある町の小さな小売店1
必ずいつかは書き残しておかなければならないと思っていながら、これまで書けなかった大事な話をしようと思う。
自分のこれまでの人生であり全てだったかもしれない小売店の話だ。
プロフィールにも書いているが自営で家族経営の小売店を現在営んでいる。個人経営で商圏も市内に絞られるぐらいの小さなお店になるが、昨今の目まぐるしい物流の変化にも、まだなんとか耐えて商売を続けられてはいる。
昭和25年頃に祖父が始めた商売だと聞かされてきた。神社の通りに商店が立ち並ぶ一角に店を構える為に祖父が実家を離れて今の場所に移り住んだという事を聞かされている。
昔の資料や文献にも載っていたが、当時はそこが町の中心であったし、沢山の店が立ち並ぶ商店街がそこにはあって、大勢の人が訪れる場所だったと記録されている。
自分が記憶している祖父は商売に積極的で、商売に貪欲だったと思う。そんな祖父だから従業員を増やして店を大きくしていこうとしたのだろう。従業員を募集し、そこで父が働く事になる。
従業員だった父と母が結婚し後を継ぐ事が決まった後は、祖父が店で働いているのを自分が小学生の頃にあまり見ていないので、その頃から徐々に祖父から父に店の二代目として継承されたのだと思う。
幼い頃から三代目となる事を期待されていたし、家族はもちろん、近所の人から取引先の営業マンなどからも事あるたびに言われていた。後継ぎが出来て本当に良かったねと。言われれば言われるほど反発したくなる気持ちになるから後継ぎにはなりたくないと子供の頃は思っていた。
お店も少しづつ変化していて、自分が小さい時は床が硬い土の店だったのが、改装でフロアカーペットっぽい床に変わり、住居部分の改築やらで店も家も変わりながら商売を続けられてきた。
両親だけで他に従業員も雇わずに仕事をやっていたので、休みなく働いて大変だったんだろうなと今改めて思うし、仕事は忙しいながらも順調だったように思える。
高校2年の時に進路を決めた。高校を卒業したら店で働くと。後を継ぐ事を決めた理由は大学進学や就職しても良いが、いずれは帰ってきて後継ぎになって欲しいとの強い希望があったからだ。
それなら回り道せず後継ぎになるべく働こうと思った。早くに進路を決めた事で、高校生でありながら受験生では無くなったので、そこそこだった成績は落ちる一方だったが、卒業までは好きにさせて貰った。好き放題してごめんなさい、でも、あの時は、ありがとう。
高校3年の秋か初冬だったかに父から取引している卸先で働いてみないかと提案を受けた。その会社は取引先の子息を預かって数年働いた後で後継者として返すという、昔で言う丁稚システムみたいなのがまだ残っていた。
予期していなかった突然の申し出だった事でもあり、別の会社で働くなんて想像してもいなかったので初めて聞いた時はさすがに躊躇した。
隣県で寮暮らしになる事を聞き、親元を離れて生活するのも一度くらいは経験しても良いのかなと思ったりしたのと、業界の事を勉強してから後を継ぐのも悪くないと思ったので、その会社にお世話になろうと決めた。
つづく。
ここまで書いたが、長くなったので続きはまたの機会にしたい。
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