シン・ゴジラ-after story-「僕と彼女」

東京駅を降り、八重洲口を歩きながら、
政府によって凍結したといわれるその巨大不明生物を見る度にいつも心がざわつく。

世界二位の高さである押上の東京スカイツリーや、新宿エリアを歩いた時に目にする、
HAL東京のような未来的デザインを全て埋め込んだようなもの、
あるいは六本木に立ち並ぶ近代の粋を詰め込んだビル、
全て、大きさ、高さ、なによりそれ以上の迫力を有したもの達だが、
東京駅の凍結した巨大不明生物は、間違いなくそのどれもを凌駕する圧倒的な存在感がそこにはあった。

現在、凍結した巨大不明生物はモニュメントとしてそこに存在し、
その足元は昨年開業された資料館とともに、
この国に訪れた”最大の災害”を後世に伝える機能を有している。

その「巨大生物ゴジラ資料館」は、
現在、東京で一番のホットスポットとして、連日に渡る大賑わいをみせている。

梅雨も終わり、カラッと晴れた水曜日。
気温は一気に上がり、いよいよ夏の到来を感じさせる日だった。
「これ以上暑くなったら、凍結が溶けてまたゴジラが動き出すんじゃないか」などと思いつつ、
勤めて半年になる会社へのルートを歩く。
東京駅の改札を抜け八日通りをまっすぐ歩きながら、ふと背中の東京駅の方向に振り返る。

夏の空の下で見るゴジラは、
これまで何度となく見てきたはずなのに、なぜかいつもに比べても遥かに大きく見えた。
ゴジラといえば、この国では間違いなく恐怖の対象である。
その巨大不明生物の誕生により、僕達の暮らしも大きく変わった。
ゴジラによって、家族を失った人もいれば、恋人を失った人もいる。
かくいう僕も、家を失い、仕事を失い、仮設住宅で先の見えない生活をしていたのはつい半年前の話だ。
しかし災害特需というべきなのか、1年ほど前から東京も仕事が突然増えた。
かなり就業がしやすい環境になり、僕も本来ならば就職できないであろう大手の出版会社に潜り込んだ。
給料も、以前勤めていた会社よりも増して頂くことができ、
働き始めて3ヶ月で四谷にワンルームのアパートを借り、仮設住宅での生活に終止符を打った。
やはり自分の帰る家があるというのは何よりも心を安定させ、
先が見える生活が始まったような気分にさせた。
だからこそなのか、生活も落ち着きだしたからだろうか。
ゴジラを見た時に、その圧倒的な大きさに対して、
素直に「大きいなぁ」と声を漏らしてしまった。

「出張か何かで来られたんですか?」

その声が聞こえた時、まさか自分に声を掛けられていると思っていなかった。

「あの、出張か何かで来られたんですか?」


もう一度その声が聞こえた時、その声の主は僕の正面、1メートル程のところに立っていた。
女性だった。彼女はカメラを首から提げ、おそらく凍結したゴジラを撮影していた。
正確にはその瞬間まで僕は彼女の存在に気づいていなかったので、
おそらくゴジラを撮影していたのだろうということだ。
それにしても、職場への通勤時に、たった一言漏らしただけで声を掛けられることがあるとは思ってもいなかったので、
少々うろたえつつ、僕は答える。

「職場がすぐそこなので」
「あ、そうなんですね。ゴジラを見て感想を漏らすなんて、このあたりに普段いる人では珍しいから、出張か何かで来られたのかと思いましたよ」
「いや、いつも見てるので特別珍しいものでもないのですが、改めてみると大きいなぁと思って、つい。」
そして僕は続ける。
「そんなに聞こえてましたか?」
彼女は少し笑いながら、
「聞こえましたよ。なんかドラマのセリフみたいで、ついつい声を掛けちゃいました。ごめんなさい。」

ゴジラに誕生によって僕らの生活は大きく変わった。
ゴジラが現れたのは間違いなく誰に取っても災難である。
現在は凍結されているゴジラも、いつか凍結が溶けて動きだし、また僕らを恐怖に陥れる日がくるのかもしれない。

ただ、間違いなく僕の生活はゴジラによって新しく動き出し、
そして、彼女に出会うことができた。

生きている限り、世界は続いていくのだ。

【以下:あとがき】

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