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スコールで溺れた日

インド洋に浮かぶ小さな島国モルディブ共和国でヘアメイクの先生をしていた頃の話


モルディブではよく計画停電や断水が起こる。
特にインフラの弱い地方の島では、計画〇〇関係なく急に断水する。
島の殆どの家に大きなタンクがあり、雨水を貯めて生活用水にしている。
タンクに貯めた雨水は濾過して飲んだりもする。
(濾過しない所もあるけど)
「赴任してすぐ、雨水は飲んではいけない」と調整員に言われていた。
「タンクの水は腐る可能性がある。」と。
でも、島で生活する上で死活問題でもあるので、飲まざるを得ない時もある。流石に初めはガッツリお腹を壊したが、次第に体が順応できて「雨水って、甘い!」と少し癖になる。なんか、水道水よりまろやかなのだ。
ある日は知らずにボーフラ入を飲んでしまったのに、体がどうもなくて「私もモ人に近づいたな」と
人体の不思議を感じた。


話が逸れた。
シャンプーの授業で互いに洗い合うよう、ペアを組ませると、1人余るので私の頭を貸すことに。
まずは1時限を理論、2時限目から一通り人形で指導し
休憩を挟んで相モデルで実践。
フダームが私の頭を洗う。爪が当たるけど他は上手。
注意点などレビューをし、他の生徒がフダームを洗い、
ニズナが私の頭を洗いたいとペアを交代した。
2度目のシャンプー。
力が強すぎてズルムケるかと思った。
シャンプーの途中で力加減や、指の当て方のレビューしていると急に断水した。

「ミス…フェンナアンナニー」
(先生…水出ない)

まじか。
頭…泡泡ですけど。
シャンプー台に横になったままを顔を向けると、あと2名の生徒も泡泡のままだった。
みんな困った顔して、どうしようかと考えていると、
おっちょこちょいのシャマが
「あ!分かった!…タオルを濡らして拭き取ろう」
とタオルをとり、蛇口を捻る。

その場にいたみんなが
「…だから出ないってば」と思いながら黙って見ている。

「…あ!出ないんだった」と照れ笑いするシャマ。

「やれやれ」ぐるっとめを回す生徒たち。

んなことある?
この状況がおかしくて笑いが止まらなくなる。

どーしようか。
とりあえず普通にタオルで拭いて違う授業始めるか?

すると
外から物凄い騒音がし始めた。

「ミス! ワーレアイー!」
(先生!雨来た!)

外を見るとシャワーどころじゃない、すごい雨が降っている。トタンの屋根から物凄い轟音がひびく。
雨の跳ね返りのしぶきが霧のように漂っていて、爆風がサロンに流れてくる。

これが噂に聞くスコールか!
すごーーーい!
好奇心のワクワクが止まらない。

さぁ、みんな!もう、これしかない!
泡、流そ〜ぜ!「ヒンガーダーン!」(行こう!)
生徒は「まじで?」と互いに顔を見合せながらもキャッキャと私の後を追ってきて中庭で戯れ始める。

人生初のスコール!

滝に打たれるだけの修行が何故、苦行なのかと思っていた。けど、これで分かった。
前のめりになるほど水が重たい。
背筋に力入れないと押し倒されてしまう。

しかも出てる肌の部分か痛いのなんの。
すぐにパンツまでずぶ濡れだし、足の指もふやける。

でも泡はバッチリ流れる。
髪を指で梳かしながらシャワー浴びるみたいに泡を流しているとスコールの勢いが更に増してきて、上を向いても下を向いても顔に物凄い水が流れてくる。

ブハッブァッゲホッ!
鼻も口も水がとめどなく流れ込む。

ブハッブァッゲホッ!!?
やばい。苦しッブハッ!
ウエェッホゲフッ!

やばい、部屋に戻ろう…

「ミーーーース!」(先生!)シャマとイルザーナがタオルを持って助けに来る。
助けに来た2人が何やら絶叫している。

いや、わたし、大丈夫よ。
両脇を抱えられサロンに引きずられる。

私が泡をしっかり流そうと雨の中モゾモゾしながらゲホゲホしているのを見て生徒は溺れているように見えたらしい。

確かに。。
実は溺れかけていた。

サロンにに戻るとみんなガクガク震えていて、あまり唇の色が分からないモルディブ人ですら、明らかに血色悪い。肌色が薄い。
(褐色の肌色でもちゃんと血色かわるんだ!へぇ!)

私もTシャツもジーパンも肌に張り付いていて、気持ち悪いし体温奪われて生徒以上に血色が悪かった。
生徒からすると、黄色人種の血色の悪さを知らないせいか、とても心配されてしまう。

「みんな…今日はもう、帰ろうか。」

授業は明日に加算することにして、みんなガクガクしながら帰宅した。
迎えに来た生徒の家族は「何事か!!?」ととても驚いていて、家族に一人一人謝ったが、笑われるだけだった。

察しはついていたけど、ここまでスコールが凶暴だとは知らなかった。至らない判断してしまったな。
不甲斐ない。

体力も体温も下がりすぎて、その日はとにかく早めに眠りについた。

翌日、生徒がチョコレートを待ってきて、

「マリー、エンメエッヴァナ ランガルマジャティーチャー」
(マリーは今までで1番面白くて良い先生)
と言って、プルメリアを髪に挿してくれた。

そして、私がスコールで溺れかけている真似をしてしばらくからかわれる事になった。
(知らない木工クラスの男子まで!)



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