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夏の香り

髪を乾かしている時に汗をかくと、もう夏だなぁ、と感じる。まだ3月なのに、キャミソール姿で窓を開けた状態でも既に汗をかく。

連日、最高気温は25℃。
大阪から帰ってくると、沖縄は夏にさしかかろうとしていた。

沖縄の春は短い。三寒四温で少しずつ暖かくなるでもなく、桜が咲くわけでもない。いつの間にか冬が終わっていて、少し暖かくなりだしたかと思えば、春を認識する間もなくすぐそこに夏の気配がする。


夜の匂いが夏だ。

雨が降った後、窓を開けると、少しかび臭い田舎の夏の香りがした。祖母の家で、夜トイレに向かう途中、納戸の前を通った時にするあの香り。

母方の祖母の家は、母屋と離れに別れており、離れにあるトイレに行くためには1度外に出なければならない。冬なんかは本当に寒くて、枕元には必ずちゃんちゃんこが置いてあった。

沖縄に来てから祖父母のことを思い出すことが多いのは、間違いなく匂いのせいだと思う。匂いと記憶は強く結びついている。

そんなことを考えていると、やさしい記憶が蘇ってきた。

お盆休みには縁側でスイカを食べ、庭に種を飛ばした。つくしを採って従姉妹に料理して貰い、食べたこともあったな。あれはGWだ。冬は親戚みんなで長机を囲んで蟹を食べた。子供達は早々に席を離れ、祖母が買ってきてくれたバーゲンダッツに夢中。大人達はお酒を飲みながらのんびりと鍋を最後まで楽しんでいた。

孫の私たちが大きくなるにつれて、ひとつ、またひとつと無くなっていった。


歳を重ねる程に、世の中がどんどんと便利になっていく程に、時代に逆行するかのように古いものを無性に欲するのは何故だろう。

祖母の家のトイレも、ちゃんちゃんこも、ボイラー式のお風呂も、不便なのにどこか愛おしい。

誰も住もうとしないあの家は、祖母がいなくなったらきっと取り壊されてしまうだろう。そうなる前に、もう一度くらい泊まりに帰りたいな、なんてふと思った。そんな3月の終わり。


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