13.言い返そう




振り返ってみたはものの、大島にすら今の自分の顔を見てもらいたくはなかった。


僕は泣いてはいなかった。涙すら出ない状態だった。でも3歳児のような半べそをかいていた。そして何よりかっこ悪い。試合に出れなかったこと。先生に忘れられていたこと。一生懸命を尽くせなかったこと。



「よう。」


と小さく大島に言った。はっきりと声が出ない自分に、さらに情けなさを感じた。



「お疲れ様。」と大島由美は小さく笑顔で返してきた。



その後はお互い何も言わずにゆっくりと帰り道を歩いた。



大島は少し僕のを後ろをついてきている。何の会話も始められない自分に嫌気がさす。でももう今はどうでもいい。これでいいやとも思った。そして沈黙が続く。大島も僕の気持ちを察してか話しかけてこない。



すると、大島が、



「頑張ったね。」と言った。




頑張ったね?いや頑張ってない。試合に出れなかったのだから。皮肉を言ってきたようには思えないが、僕は鼻で笑って、頑張ってないよと言い返そうとした時に、



「試合じゃないよ。」



と続け様に言った。「えっ?」と言い返すと、



「この3年間。すーごく頑張ってたね!」



それに対しての返答が言葉に出なかった。「全然頑張ってないよ。」とも言いたくないし「うん、頑張った!」とも言いたくない。



「私、たまにサッカー部の練習とか、研一君が自主練頑張ってるところ見てたんだ。こっそり!いつも一生懸命だったの知ってるもん!」



今は、この時だけは僕が話をしなくて良いようにしてくれてるのか、落ち込んでる僕を励まそうとしてくれてるのか、次々に話してくれた。



「一番頑張ってたよ!絶対、一番!練習も!走るのも!蹴るのも!絶対!」


「そうか?」と小さく答えた。


「絶対そう!間違いない!」



息巻いて話す大島を見て、少し面白くなっって笑いそうになった。



「私、あの先生のことちょっと嫌いになるかもな〜。なんでなんだろうな〜。」


顧問の先生のことを言い始めたので、まぁまぁとなだめようと大島の方を見ると、大島の目から涙がゆっくりと溢れているのが分かった。さっきまでは大島の顔が夕日に照らされて表情まではよく分からなかった。しかし、夕日の光が大島の目から流れる涙をしっかりと照らしたのだ。



ずっと大島は我慢していたのか。泣いている大島を見てすぐに目を逸らした。その表情を見ているとそのまま僕も泣いてしまいそうだったからだ。もう今泣いてしまうと止まらないくらい大泣きしてしまうというのは目に見えている。



ようやく触れてきた涙腺。必死で我慢した。


「う〜、う。」


我慢したのは束の間、もうしっかりと泣き始めた大島の隣で、限界まで我慢した末、僕の目からも涙が溢れた。



悔しいな。



自分のことのように泣いている、悔しいと思ってくれている人がいる。こんな終わりでも落ち込んでるところを見せずに明るくしてれば、大島が泣くことはなかったかもしれない。そうさせたこと、試合のこと、全部が悔しくて仕方がなかった。



僕は涙が頬を流れる前にすぐに服の袖で拭った。



震えた声でただ「ありがとう。」と伝えた。



大島は言葉を言わず、泣いた顔を笑顔にして答えた。




そして、家までの分かれ道に近づくと、もう一度、ありがとうと言った。大島は、


「ううん、こちらこそ!また学校でね!」と言って別れた。その時には、泣いてすっきりしたのかお互いの表情は少し明るくなっていた。





家の玄関の前まで近づくと、少しあしを止めてまた今日のことを振り返る。まだ胸はじ〜んとはしているが、もう泣くことはないだろう。学校でみんなに会った時にはこの試合のことを、笑い話にできたらいいなと思った。



最後の試合で、試合に出すのを忘れられていた。



心の傷とまではいかないが、「あ〜、こんな最後だったかぁ。」と少し笑みを浮かべつつも苦い顔をして家の玄関のドアを開けた。



落ち込んではいないよと、少し明るめに言った。


「ただいま〜〜!」




つづく











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