7.ドンピシャ



後半開始3分、早々にチャンスが回ってくる。


速いパスワークが上手く繋がり、前線へ抜けた。見方がボールを保持すると、グッと前線に走る。



サイドに振られたボールがゴール前に弧を描いて落ちてきた。思いきり上にジャンプをしたが、僕の位置じゃかすりもしなかった。ポジショニングミス。しかし、後ろに落ちたボールがこぼれ、フミにわたる。



フミは、無我夢中でゴールに向かってボールを蹴り込んだ。ほぼ、ゴールを見ていなかったが、僕でもそうしただろう。


しかし、惜しくもまぐれで体を伸ばしただろう相手キーパーの足にボールが当たり、跳ね返ったボールは相手ディフェンダーにクリアされた。


惜しい場面だった。


フミは悔しそうな顔を一瞬浮かべたが、すぐに守りに走った。

そうだ。次だ。


混戦が再び続き、競り合う時間が多かった。全員攻撃全員守備を実践しようとすごく後ろの方までディフェンスに帰る。



その繰り返しで、相手も試合終了に近づくにつれて焦りだしてきているのがわかる。相手のプレッシャーが強くなるにつれて、それに負けじと必死で抵抗する。


相手の高校もうちと同じ状況。県大会前の練習試合。この試合で背番号を渡されるメンバーが決められるのだろう。



もちろん、こっちとしては相手の事情は知ったこっちゃない。相手も多分、同じで、ただ勝つ、点を決める、アピールをする、潰す、ケチョンケチョンにする、という気持ちの人間が今このグラウンドで体が動く限りに右往左往している。



一瞬でもひとときでも、だめかも、疲れた、まぁいっか、あいつサボってるな、と、気持ちが折れた瞬間、限りなく負けに近づく。



後半42分。試合終了間際。気持ちを保っていた僕たちに軍配が上がる。無心にゴールに向かって走り込んでいたフミの頭にドンピシャのセンタリングが上がった。

まるで気合に満ちたフミの頭に、吸い込まれているようだった。「僕に来い!」と言わんばかりだ。



そのボールは危なっかしさを微塵も感じさせないまま、ゴールネットを揺らした。


相手ゴールキーパーも「これは無理だな。」と言わんばかりだ。ゴールを決めたフミは喜びを爆発させていたが、そのゴールは味方チームのほとんどを奮い立たせる、震えるゴールだった。


フミがサッカー部に入ったのは高校からで、フミの努力と練習に対する直向きさは、同じチームにいたら嫌でも見せつけられる。そのフミが、この素晴らしいゴールを決めた。


まだ、県大会ではない、ただの練習試合。その試合で感極まってしまうのが、このチームの未熟さでもある。しかし、そんなのお構いなしに、その時を喜んだ。したことはないが、ゴールを決めたフミにガッと肩を寄せた。


「ナイス!!」


「よっしゃ!!!」


そのまま練習試合は2–0で勝った。得点は僕とフミだ。


チームメイトの前では冷静を保ったが、帰り道、


フミと二人ではしゃぎながら帰った。



つづく

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