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雀ゴロ日記⑫ 雀ゴロNとの死闘2

 Nとの麻雀は自分にとってはやりやすい場になる。お互いに守備が堅く、自分のほうがスピード寄りなので有利だ。

 待ち席で見たNの手組みは安牌を常に持っていた。これを狙わない手はない。何回も繰り返したらバレるだろうから使いどころが肝心だ。

 逆転トップの勢いそのままに、Nがアガリを重ねる。チャンスは南場の親番でやってきた。

 頭のない形のシャンテンに、場に二枚切れの南を持ってきた。普通ならツモ切り以外ない。ただ、ピンズの上はよくないし、先にソーズの三面張が入っても58pのノベタンリーチは打ちたくない状況だ。
 西も二枚切れだけに、ここはNから直撃を狙う絶好の機会だと思い、8pを切る。今回もどうせ安牌を抱えているだろう。狙い通りにソーズが埋まり、地獄の南単騎で曲げる。するとNからあっさり出てきた。

 Nが場況を確認すると口を開く。

「変わった麻雀打つなー。」

「ピンズがいまいちだったんで。」

 自分が同じようなアガリを3回繰り返したあたりから、Nの押し引きが狂い出した。(ここからは自然に打っておけばよさそうだな。)

 半荘6、7回打ち終わった頃、店に戻ってきたオーナーと共に新規の2人組の客が入ってきた。フリー自体初めてだそうだ。そのときNが急に、「そうだ!オレちょっと用事があったわ!ここ代わって!」と言って店を出ていった。

 Nに代わりオーナーが入り、メンバーが新規の客にルール説明を行う。(そもそもNに用事なんてあるのか。)

 南入したあたりにNが戻ってきた。時間にすると10分も経っていない。

「Nさん、もう南入なんですぐ入れますよ。」

「オレ、こっち入るからいいわ!」

(うわっ!そこまでするかよ……。)

 やはりNに用事なんてなかった。新規のカモと打つために、一度抜けて頃合いを見計らって戻ってきたのだ。新規説明がちょうど終わり、卓を立てる。これじゃNの思うつぼだ。

 結局Nはフリーデビューの2人組相手にトップを取り続け、上機嫌で帰っていった。
 Nはどうしようもない人間ではある。ただ、人にどれだけ嫌われようが、麻雀で喰うために手段を選ばず、あそこまで貪欲になれるのは凄いと思ってしまった。勝ちに対する執念というのは、自分に足りない部分なのかもしれない。

 
 その日からNが毎日Rに来るようになってしまった。その影響で常連が顔を見せなくなった。誰だって、麻雀が強い上にすぐ揉め事を起こす人間とは打ちたくないだろう。メンバーからどうにかしてくれと泣きが入り、自分としてもこの状況はよろしくないので、積極的にN退治に向かう。

 Rに着くと相変わらず1番手でNが来ている。今回がNと初めて打った日から、10回目の同卓だった。それまでの9回は自分が全て勝ってはいたが、Nがボコボコになったのは2回だけで、いつも少し負けだすと帰ってしまう。Nの心はなかなか折ることができない。

 この日のもう一人の同卓者はKさんで、この人もかなり強い。誰も簡単に振り込まない堅い場になるだろう。
 10半荘ほど打ち、一進一退の攻防が続いていたが、Kさんに手が入りはじめた。Kさんは手が入ると、トップ目だろうがなかなかオリずに突っ込むようになる。アガリ出すと止まらなくなるタイプだ。
 この状態になると、自分もNもラス回避に重点を置くしかない。しかし、簡単にラス回避などできるメンツでもない。

 Kさんが3連勝して1人勝ちの雰囲気になってきた。その次の半荘もアガり続け、ラス前の時点で自分はダンラスになってしまっている。しかも親はもうない。
 ラス前はNの親番で、ここで少しでも点差を詰めたいところだが、配牌8種でどうしようもない。仕方なく、どうせアガれもしない国士に向かうと中盤にNのリーチが入る。
 チートイツの可能性だけ残し、オリることしかできない。捨て牌の3段目に入り、あることに気づく。Kさんの流しが続いているのだ。この店のルールは流しだとバイマンになる。
 このままNの1人テンパイで流局すると、オーラスの条件が厳しすぎる。もしKさんの流しが成立するなら4000点差縮まり、オーラスにハネツモ条件ができる。バイマンは痛いが、鳴ける牌が出ても流しを阻止しないことにした。
 目論見通り、流局してKさんの流しが成立した。上機嫌でKさんが話しかけてくる。

「まろんくん、鳴ける牌あったんじゃない?」

「んー、まぁあったんですけどねぇ。」

 Nの苛立ちが伝わってきていた。当然、自分が何をしたか分かっていることだろう。ただ、オーラスで逆転できなければ意味がない。祈るように配牌を開けた。

 苦しい……。ドラが2枚あるのが救いだが、簡単にハネツモできるイメージは湧かない。とりあえず手なりで進める。
 どうやらNはソーズの染め手のようだ。ピンズのイッツーやホンイツを意識していると、Kさんに4pのポンが入る。
 いよいよ厳しくなってきたが、ホンイツやドラの縦引きを考えているとテンパイまでは漕ぎ着けた。

(これで行くしかないな。最悪アガれなくても、Nが掴んで流局のラスでもいいや。)

 ペン3pのオープンリーチを打った。2着になるためには、ペンチャンをツモッてさらに裏ドラも1枚必要だ。終盤までもつれるかと思いきや、決着はすぐについた。裏ドラが5pでハネツモを超えてバイツモになった。バイマンになるのなら流しを阻止する必要もなかったが、上出来だ。

 自分のアガリを見たNが、深いため息をついた。そして、次回のゲーム代を集めに来たメンバーに珍しいことを言う。

「ラス半。」

 実はNがラス半コールをすることはほとんどない。本来なら許されることではないが、「ツイてない」と感じたり、メンツが辛くなると毎回突ラスをしていたのだ。

 Nのラス半コールを聞いたときに、心が折れたのだと思った。(これで勝負付けは済んだな。)

 最後の半荘が終わり、帰り際にNが自分に一言声を掛けて帰っていった。

「あんた強いわ。」

 これは正直嬉しかった。今日はKさんの1人勝ちで、自分もNも同じように負けている。今まで、自分が勝ち続けていても絶対にそんなことは言わなかったのに、まさか負けた日に言われるとは。

 はっきり言ってNは強かった。麻雀で喰っていくのは簡単なことではない。この日を境にNの顔を見なくなったが、見切りの良さは雀ゴロとして必要な能力だろう。

 雀ゴロNとの対戦で、麻雀打ちとして一回り成長できたような気がする。これから先も強い相手と出会うのだろうか。

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