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雀ゴロ日記④ ダンディズムNさん

 一緒に打っていて楽しい人間というのは存在する。Nさんもそんな一人だった。

 歳は40代ぐらいだろうか。週に何回か仕事終わりに打ちに来る。スーツの着こなしもお洒落で、ダンディなオジさんといった感じだ。
 Nさんは麻雀もダンディだった。口数の多いタイプではないが、麻雀に対しては熱い想いを持っている。何切る問題が好きで、お互いの選択の違いが面白かった。

 Nさんには強い信念がある。それは「魅せて勝つ」ということだ。魅せる麻雀で成績を出すことは難しい。手役や好形テンパイを追えばどうしてもスピードが落ちる。必然的に後手を踏み、難しい押し引きの判断を迫られる。
 しかし、Nさんは強かった。それは守備力によるところが大きい。手役を追う人の麻雀は荒くなりがちだが、繊細さを見せていた。自分がアガるべきところはきっちりアガり、それ以外ではほとんど放銃しなかった。そんなNさんがリーチに押してきたときは、高い手をアガられる覚悟をしたものだ。

 仕事終わりのNさんが来店し、卓を立てる準備を始める。ダンディなオジさんはいつものように腕まくりをして、すでに戦闘モードに入っていた。今日は自分の手数とNさんの打点、どちらに軍配が上がるのだろうか。

 開局早々、いきなり起家のNさんがらしさを見せる。

 綺麗な手のバイマンツモアガリ。河を見るとリーチ後に4sがツモ切られていた。同卓のメンバーAが「座る席を間違えた」とほざいているが、こいつが座っていたら4sでアガッていることだろう。意志の強さが違う。

 そこからはNさんの一人舞台だった。周りに何もさせず、オーラスまで進む。自分とAが同点2着で、トップになるにはバイ直条件だ。正直厳しい。

 軽い手をアガッて2着でいいと思ったが、そんな手は入らない。配牌8種で国士とチートイツの両天秤だなと思っていたら、3巡目にNさんの親リーが入る。

 国士かチートイツか。リーチしてきた以上チートイツの可能性が高いだろう。もしかしたら単純に配牌が良くて、メンツ手の58pもあるかもしれない。普通なら全てが危なく思えるような状況だ。しかしこのとき、自分だけは待ちが分かってしまった。
 Nさんは牌をツモるときの癖がある。毎回ツモる牌を胸の前に振るように持ってくるので、上家にいると牌がたまに見えてしまうのだ。
 テンパイ時のツモは場に2枚切れの南だった。だが、この時点では国士なのか、南待ちのチートイツなのか絞れない。国士には打ちたくないので、とりあえず8pを落とす。 
 すると次巡、9mが場に2枚出て自分の目から4枚見えた。これで国士のアガリ目は消えた。そして白も4枚見えたため、Nさんは南待ちなのが確定する。

 Nさんらしい選択だなと思った。メンバーが2人いるこの卓でこの点棒状況なら、親リーを打っておけば普通はオリるだろう。「どうせ点棒がないならゼンツ!」なんてするメンツではないし、今回は自分が国士っぽい捨て牌だったので、早めに諦めさせようとしたに違いない。ラス目は突っ込むだろうが、仮にバイマンを振ってもトップだ。さらに、地獄待ちなら誰も止まらないかもしれない。

 しかし、今回は裏目に出た。Nさんのアガリがないのが分かったのなら、あとはアガリに向かって一直線だ。自分が赤5pをぶった切ったところでNさんが口を開く。

「おとなしくしててよー。まろんくんが押してきた時点で悪い予感しかしないわ。」

 そこからすんなりテンパイして、Nさんの悪い予感が的中する。

 「ツモ!」

 自分が点数申告する前にNさんが点棒と祝儀を用意していた。覚悟していただけに速い。そしてこう言った。

 「ひどいミスしちゃった。この選択以外なら何でもアガれてたのに。」

 はっきり言って、選択自体はミスではなかった。合理的で正しい判断と言える。ミスは牌を見せたことだ。ツモ牌さえ見えなければ、Nさんの思っていたとおりの展開になったであろう。まぁ、自分はそれを教えてあげるほど親切ではない。今後も戦っていくのだから。

 そのあとズブズブになったNさんを見て、たった1枚の牌を見せてしまうことの怖さを心に刻んだ。

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