雀ゴロ日記⑪ 雀ゴロNとの死闘1
その日はRという三麻フリーに来ていた。ここのレートはピンだが、ウマがワンツーではなくワンスリーなので自分好みだ。そして、リャンピン以上の卓も立つし、サシウマもあったりする。
まだ他の客が来ていなかったのでメンツーで打っていると、Rのオーナーがやってきた。今からNという地元で有名な雀ゴロが久しぶりに来るらしい。相当強いらしく、どんな人間なのか楽しみだ。(雀ゴロなんてまだいるんだな。まぁ、雀荘メンバーもある意味雀ゴロか。)
ドアが開き、つるっぱげの男が入ってくると同時に、なぜか自分にいきなり話しかけてきた。
「キミまろんくんだろ?お父さんにそっくりですぐ分かったわ!」
(こいつのことか……!)
急に父に言われていたことを思い出した。
「いいか。お前がこれから高レートを打つようになったらNってやつに会うかもしれん。こいつとだけは関わるな。」
Nはトラブルメーカーで、刃物を持ち出して暴れたこともあるらしい。どうやらこの日も、他の雀荘を出禁になってRに来たみたいだ。
Nが帰ろうとするオーナーに話しかける。
「まろんくんは息子のほうもやっぱり強いのか?」
「はい、うちの店でも1番です。」
オーナーも余計なことを言ってくれたものだ。Nは麻雀に関して異常にプライドが高く、この一言が火をつけた。「オレはこの店の月間勝ち額の記録を持ってる」だとか、「オレはそこらじゅうで名前が売れてる」など、聞いてもいないのに麻雀の武勇伝を語りだした。とにかく1人でよく喋るし、謙遜さのかけらもない。
自分で自分のことを強いと言ってしまうような人間が、本当に強いのだろうか?少し話しただけで面倒くさい人間なのが分かったが、自分のほうが上だと証明したくなった。
Nが卓に入り、打ち始める。どんな麻雀を打つのか気になっていたが、人間性と真逆で驚いた。超守備型で、繊細と言ってもいい。今まで見た中ではトップクラスに守備力が高い。麻雀人生で1番の堅い場になった。
この日は自分に手が入り、結果的には圧勝だった。だが、10半荘ほど打ち、Nの放銃はゼロだったのだ。はっきり言って、三麻で10半荘打って放銃がゼロなんてありえない。たまたまかもしれないが、Nの守備力の高さに対して、何か違和感を残したままの勝利だった。
この日から、どちらが上か白黒はっきりさせるための闘いが始まる。
次の日、Rに行くとNがすでに打っていた。待ち席からちょうど見える席に座っている。Nの守備力の秘密を知るチャンスだ。
何局か見ていると、Nが放銃しない理由が分かった。常に安牌を2枚ぐらい持ちながらの手牌進行をしている。こんな守備的で勝てるのかと思っていたら、Nが踏み込んだ打牌を見せた!
南入して、トップ目から先制リーチが入り、2着目のNとトビ寸のメンバーは回し打ちをしていた。Nの手牌は次の形。
ツモるかメンバーから出ればトップだが、36sは現物でもないし出ないだろう。祝儀もあるだけにリーチするかと思いきや、Nはダマにした。(まさかここからオリることあるのか?)
次巡、場に1枚の切れの1mを持ってくると、通っていないドラの6sを強打してリーチを打った!すると一発目にメンバーから出ての逆転トップ。
実は、同巡にメンバーが小考して手出しで1mを切っていた。対子落としを読み切ったのだろう。
やはり、ただ守備的なわけではない。鉄壁の守りを持ちつつ、行くべきところは行き、鋭いアガリを見せる。簡単に勝てる相手ではないのは間違いないようだ。
メンバーと代わり席に着いたが、逆転トップをとって調子に乗っているNがうるさくて、全員気分が悪くなっていた。自分が黙らせるしかない。(今日はNの弱点をとことん突いてやろう。)
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