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あの"ギャツビー"が宇宙に!?~宇宙への挑戦が生む新たな価値とは(後編)~ [宮下 裕策]

お待たせしました!マンダムの皆さんへの取材の後編です。今号では、ギャツビー スペースシャワーペーパーの開発にあたり立ちはだかった課題や、ペーパーの設計で工夫したポイントをはじめ、商品そのものを深堀していきたいと思います。また、後半ではこのスペースシャワーペーパーが宇宙と地上双方で具体的にどのような課題解決に寄与するのか、スペースシャワーペーパーの新しい価値や可能性について伺わせていただきました。
前編はこちらからお読みください↓
前編:あの"ギャツビー"が宇宙に!?~宇宙への挑戦が生む新たな価値とは(前編)~ [宮下 裕策]

取材の様子 
上段左からThe VOYAGE編集部、Space Seedlings宮下、マンダム森野さん。中段左からマンダム志水さん、マンダム齋藤さん、マンダム根岸さん。下段 マンダム下川さん。

スペースシャワーペーパー開発秘話!

ースペースシャワーペーパーの開発のあたり何か直面した課題はありましたか。
森野さん:このスペースシャワーペーパーにはKai-tech Zero G技術というエタノールを使わない技術が使われています。国際宇宙ステーション(ISS)にはECLSSという大気を循環させるシステムがあるのですが、このシステムのセンサー類がエラーを起こすリスクがあるということで、エタノールをはじめ揮発性水溶性成分を使用することができません。エタノールはマンダムが販売しているボディペーパー類すべてに含まれており、エタノールが揮発したときの気化熱による清涼感が心地よさを生み出すうえで重要な役割を担っています。ではエタノールが使えないISSでどのようにペーパーの心地よさを演出するか色々と検討しました。そこで、マンダムがもともと持っているKai-tech技術をさらに応用したKai-tech Zero G技術を開発するに至ります。肌にはTRPチャネルという温度や化学刺激を感知するセンサーがありまして、エタノールなしでもそれらをうまく制御して心地よい清涼感を感じさせるという技術になります。

Kai-tech技術

また、エタノールを除いて清涼感がどれくらいであれば心地よいのかにもこだわっています。ISSの中は、温度は22℃、湿度は25~70%に保たれており、かつそよ風が常に吹いている環境です。その環境で、どれくらいの清涼感が心地よいのか、実際にマンダムの環境試験室で同じような環境を再現して検証しました。

清涼感に加えて、もう1つの課題は防腐性の担保でした。エタノールには殺菌作用があり防腐性を担保するうえでも重要な役割を担っているわけですが、このエタノールを除かないといけないということで非常に困難を極めました。色々な防腐剤の組み合わせを検証してなんとか基準をクリアしましたが、なかなかに大変でした。

志水さん:今回のスペースシャワーペーパーのような手を入れて中から取り出すタイプは、手についている菌が中のペーパーに付着して二次的に中身が汚染するリスクがあるため、他のペーパー類よりも防腐基準が厳しく、その基準を満たすのに苦労しました。

ー宇宙での使用を念頭にスペースシャワーペーパーを設計するにあたって特別に工夫した点はありますか。
齋藤さん:ISSの中では無重力によってモノが浮遊するので、実際ペーパーを使うとき固定できるように、袋にマジックテープが貼れるような仕様になっております。また、保管性の向上のために、ラベルの接着面に薄いフィルムが貼ってあります。

志水さん:このフィルムがあるのとないので全然違います。このフィルムがないと、ラベルを閉めたときに隙間ができてしまうんですね。この隙間から中の液や空気が漏れ出てしまいます。

スペースシャワーペーパー

齋藤さん:ペーパーに使用されている不織布自体にも色々種類がありまして、今回スペースシャワーペーパーで使用された不織布は、より水を吸収しやすくかつ水をはき出しやすいものになっております。なので、髪の長い女性が使用する際にも液が地肌に届くようになっています。女性宇宙飛行士に使用してもらうことも期待できますね。

ースペースシャワーペーパーの袋のデザインはCreators Guild Spaceとのコラボにより実現したと伺いましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
志水さん:THINK SPACE LIFEで立ち上がった情報交換用のツールで、偶然宇宙プロダクトデザイナーである高野峯羽さんを知り、それがきっかけで高野さんが代表を務めるCREATORS GUILD SPACEに袋のデザインを依頼するに至りました。色々なパターンのデザインを出していただいたのですが、今回選んだ宇宙飛行士のデザインはかっこいいものの、ラベルを閉めたときにラベルと本体のデザインがずれないようにするのが難しく、生産工程上、ハードルが高いものでした。それでも最終的には現在のデザインにしたいという意向で決定しました。
CREATORS GUILD SPACE: Creators Guildは、作りたい時に作りたいものを作るための「協創型」モノづくりプラットフォーム。火星地表で使用するヘリコプターローバーやサブオービタル宇宙船、宇宙船内活動服などのコンセプトデザイン開発やその実現化に向けたプロダクト開発を行う。

宇宙という極限環境だからこそ、心身をホリスティックに整える

ースペースシャワーペーパーは宇宙で具体的にどのような場面で使用されることを期待していますか。
志水さん:宇宙における課題の1つに長期間お風呂に入れないということが挙げられます。地上におけるお風呂は体を清潔にするという機能以外にも、リラックスしたりリセットしたりするうえで大事です。今回のスペースシャワーペーパーの開発は、長期間お風呂に入れない宇宙でもお風呂上がりのさっぱりとした心地よさを再現することを目標にしていました。だからこそ香りや使用感にもこだわりました。

お風呂には疲労回復や快眠、リラクゼーションなど様々な効果がある。

様々な肌特性や文化、社会課題に寄り添う

スペースシャワーペーパーに使用している技術を地上ではどうのように応用したいと考えていますか。
志水さん:エタノールフリーの技術の肌へのやさしさという点では、敏感肌の方や乳幼児、高齢者にも心地よく使っていただけるかなと思っています。また、その延長上で、災害時であったり介護の現場でも使えますよね。洪水などの災害では、汚泥の影響などによって非常に衛生環境が悪くなります。そういう現場で赤ちゃんや高齢者でも個別に対応できて、体を清潔にできるものとして、この技術は役立つのではないかと思います。
介護では、高齢者が高齢者を介護する老老介護が増えていますが、特にトイレやお風呂で転倒などによりケガをしたり腰を痛めたりするリスクが高まります。エタノールフリーで手軽に体を清潔にできるものは、こういった介護の現場でも活用できるものです。

他にもイスラム教を信仰されている方はアルコール忌避なので、アルコールが含まれる化粧品は使用することができない方もいらっしゃいます。世界中に19億人もいるムスリムの方にも喜んで使っていただけるのでないかというイメージを持っています。

飲酒に厳しいイスラム文化ではアルコールの除菌を良しとしない人も


取材を終えて
マンダムの皆さんには、宇宙進出のきっかけからスペースシャワーペーパーの開発経緯や地上での応用可能性まで多岐にわたってお話を伺うことができました。宇宙環境という極限状況のもとであるからこそ、"人間らしさ"のようなものを見つめ直すことができ、それを維持するものとしてスペースシャワーペーパーのような化粧品の重要性が増すんだなと改めて思いました。宇宙というフィールドに対しての視座がまた1つ増えたような気がします。
この記事を最後までお読みくださりありがとうございました!


「Hello! EXPLORERS PROJECT」ロゴマーク

※「Hello! EXPLORERS PROJECT」:JAXAが主催する、“新たな宇宙探査時代に活躍する「アルテミス世代」の宇宙飛行士を応援する“をコンセプトにした、宇宙飛行士応援キャンペーン。

志水 弘典 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 副所長 
フロンティア開発研究室 室長
1995年マンダム入社。ボディケアに関する基盤研究に従事。スキンケア製品開発室長、ボディケア製品開発室長を経て、現職では新規市場開拓に繋がる価値創造研究に取り組む。
◇北里大学薬学部 スキンサイエンス共同研究講座(マンダム) 特任講師
◇臭気判定士(※)。
(※)環境省管轄の国家資格
マンダム 企業サイト 

森野 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 フロンティア開発研究室 

齋藤 様
株式会社マンダム スキンサイエンス開発研究所 フロンティア開発研究室 主任

宮下 裕策
京都大学医学部4年。有人宇宙学に広く関心をもち、宇宙医学のコミュニティSpace Medicine Japan Youth Communityの運営にも携わっていた。医学生として医師への道を歩みつつ、自らのキャリアと宇宙の関わりを模索している。


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