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No.7 「80km/hの気持ち」

第七回目は、ファーストアルバム『君が笑うとき君の胸が痛まないように』でも屈指の人気を誇る名曲「80km/hの気持ち」を紹介します!言わずもがな、読み方は「じそくはちじゅっきろのきもち」です。

夜の高速道路、自分以外の誰かのことを好きな相手への複雑な想いを歌った、切ないけれども軽妙なポップスです。『歌の履歴書』では、マッキーが助手席に乗せてもらった時に思いついた曲だという説明がありました。

どこまでマッキー個人の経験を読み込むかは難しいところですが、ともかくも歌詞を追っていってみましょう。マッキーらしい才能溢れる表現のオンパレードです。

彼のこと話す時の君は 全てが微妙に違うよ
何気なく見せる仕草は 指先まで赤く染まってるみたい

声が少しうわずっていたり、何を言うにも少し照れくさそうだったり。「彼」のことが好きなのでしょうか、「君」は普段と少し調子が違って見える。

早速卓抜な表現の登場です。「君」は少し恥じらい、上気したような感じで話をしてくれるのでしょう。「何気なく見せる仕草」は、「指先まで赤く染まってるみたい」。

隠し切れない想いが細々とした所作にまで現れてしまっているのを、敏感にみて取って「しまう」視点から物語はスタートします。ただただ、「君」の様子を客観的に描写しているのではなさそうです。

今日の僕の精一杯のおしゃれが 
誰のためかも知らないで
好きな人はいるのなんて言わないで
君だなんて言えやしない

ここで「僕」の登場です。「僕」は「君」のことが好きなんですね。「精一杯のおしゃれ」でめかし込んで、今日という日に臨んでいる。しかし「君」はそれが「誰のためかも知らない」。全然気づいていないわけです。空回りする想いが切ない。

挙句、「好きな人はいるの」なんて聞いてくる。当然、その「好きな人」が「君だなんて言えやしない」。もし「君」が「僕」に少しでも恋心を抱いているなら、ずけずけとそんなことを聞いてくるはずはないだろうから、というわけです(草食系のマッキーならではの推測ではありますが)。「君」は「彼」のことが好きだと分かっているなら尚更です。

多分、「君」は「僕」を全然恋愛対象として見ていなくて、「彼」のことについて恋愛相談をしてくるのでしょう。「君」が「彼」のことを嬉々として話す時の所作の一つ一つが目に付いてしまって苦しい。悶々とする思いを抱えたままサビです。

I love you so madly, yes
I can't go on without you but you love him
伝えられない苦しさ 君にもわかるはずさ

直訳すれば「僕は君のことをたまらなく愛してる、そうさ、僕は君なしじゃやっていけない、でも君は彼のことを愛してる」とでもなるでしょうか。

yesはI can't の前につくと考えてしまうと文法的におかしい(No, I can't go on...でないとおかしい)ので、I love you so madlyの後にそれを強調するような形で「そうさ」と訳して見ました。

(もっとも、英語が得意な友人的曰く、yesをそういう風に使うのは不自然で、やはりI can'tの前に置くべきNoをYesと間違えたのではないかとのことです。)

そして、「伝えられない苦しさ 君にもわかるはずさ」。「君」も「彼」に思いが「伝えられない苦しさ」を味わってるから、いまこうやって「僕」にそれを話して気を紛らしている。それなら「僕」のこの気持ちも分かってくれよと、発散する相手のいない気持ちにやり切れなくなっています。

マッキーには、「自分がいい気持ちになっている時、他の誰かが犠牲になっている」というような視点が常にあります。主題こそ恋愛ではないですが、『どんなときも。』の「もしも他の誰かを知らずに傷つけても〜」なんかは代表的ですよね。

そんな視点は、ここでの「自分の気持ちを分かってくれよ!」という忸怩たる思いから来ているのかもしれませんね。誰かを想うことは自分を想ってくれる他の誰かを犠牲にすることになりかねない、ということを身に染みて経験するわけです。

(ちなみに、マッキーがデビュー前に作った『SCENE』という曲には「多分誰かがどこかで僕らが幸せな分涙を流してることが辛い」という歌詞が登場して、ごく初期からこの視点は存在していたことがわかります。なんともお節介というか、屈折したナルシシズムが反映した歌詞ですが、僕自身はそんな自意識過剰にとても共感を覚えますし、それを飾らず表現できることに非常な敬意の念を抱きます。)
素直すぎることが時々 残酷になって
傷つけることも分からない

「君」は「素直」に「僕」のことを一友人だと思って色々話をしてくれる。でも「僕」が「君」のことを好きな以上、今まで述べてきた通り、それはとんでもない葛藤と苦しみを「僕」に課すものなわけです。

それは、単に「君」に好きになってもらえないことより辛いことかもしれません。「君」に信頼され、好もしく思ってもらっている、でも決して結ばれない。限りなく近いからこそ限りなく遠いのです。それは「残酷」で、「傷つける」ものです。
でも君はそんなことも「分からない」。

わざとだったら、自分を弄ぶ「君」を憎めば済む話なんですよね。でも「君」に全く悪意はない。離れていくこともできずただ傷つけられ続ける悲哀が、本当に胸を打ちます。

二人はよく似合ってるよと ひきつる唇がつぶやく
瞳をじっと見つめられると 下手な嘘がバレてしまう

二番です。「僕」は「ひきつる唇」で、やはり「君」を鼓舞するようなことを言わなければいけないわけですね。あるいは、本当に「二人はよく似合ってる」と思っているのかもしれません。なおのこと「唇」は「ひきつる」ことでしょう。

そうすると、「下手な嘘」というのは、「二人が似合ってる」とは思っていない、つまり二人は全然うまくいっていないと内心では思っているのに励ましているという「嘘」ではありません。むしろ、うまくいっている二人に微妙な気持ちなのに、「よく似合ってるよ」と本心から言っているかのように見せかけている、そのポーズが「嘘」なのです。

好きな「君」に見つめられるとそんな虚飾がバレてしまう。君の方を見つめないように、目線を逸らしながら何気ないフリをする「僕」の様子が目に浮かびますね。

近づく夜の街 高速抜けて行く
フロントガラスに映る 君の組んだひざ
どう思うのなんて 僕に聞かないでほしい
彼が悪い人じゃないだけ辛いよ

さてCメロです。「夜の」「高速」を軽快に走りながら、悶々とする「僕」の内なる叫びが響き渡ります。

「どう思うのなんて 僕に聞かないでほしい」!やはり恋愛相談をされていたんですね。そんなこと、「君」を好きな「僕」に聞かないでくれ!なんでそう思うかは、今まで述べてきた通りです。

そして、「彼が悪い人じゃないだけ辛い」。この曲のハイライトとも言える歌詞です。「君」が「彼」を好きなのは、間違いではないのです。「彼」が悪いやつだったりどうしようもないやつだとしたら、どれだけ「君」が「彼」を好きだと言おうと、「似合ってい」ようと、いい友達の顔をして止めに入ることができるはずです。あいつはやめときなよ、ろくなことにならないよ、と。そうやって自分の方から二人が結ばれるのを阻止するためのアクションを起こせるのなら、どれほど葛藤や苦しみは軽減されたことでしょう。

しかし、「彼」は「悪い人じゃない」んですね。止める理由もない。だからサンドバッグ状態にならざるを得ないわけです。ただただ相談を聞いて、「ひきつる唇」で励まして、悶々とするしかない。それは「君」にとって「正解」だからです。この「残酷」さ、想像するだけで胸が締め付けられませんか?

さて、ここまであえて触れてきませんでしたが、この車、一体誰が運転しているのでしょう。イントロのところでは、マッキーが車に「乗せてもらった」体験をベースに作られた曲だと述べました。しかし二つの理由から、この曲では「僕」の方が車を運転しているのだと解釈したいと思っています。

その内の一つが明らかになるには、次回紹介する曲まで待たなければなりません。今回はこの曲から読み取れることのみに注目しましょう。至って単純です。

「フロントガラスに映る 君の組んだひざ」。そもそも、運転者はひざを組みません。加えて、ハンドルなどが邪魔になって、運転手のひざはフロントガラスにうまく映らないはずです。なので、この曲は運転する「僕」が助手席に座る「君」の話を聞いている、という曲なのです。

I love you so madly, yes
I can't go on without you but you love him 
風向きを変えるには少し 努力が必要だね

再びサビ。少し様子が変わってきます。「風向きを変える」というのです。

もう葛藤し続けるのにも疲れた、むしろ「君」にこれだけ近いのだから、その気を引く「努力」をしようじゃないかと、思い直したようなのです。

交わす言葉が少ないほど 君のことをずっと
想っているよ いつだって

「君」のことを想っているよ、という気持ちを吐露して終わりです。

ずっと相談される身の切なさ、辛さにイジイジしている感じでしたが、最後の方で前向きに動き出そうという気概を見せてきましたね。それでも「僕」が「君」のことを「想っている」のは嘘じゃないというわけです。

「僕」は果たして、「君」に気持ちを伝えることができたのか?次回紹介する曲でそれが明らかになります。


最後に考えたいのは、80km/hというのが何の数字なのかということです。速度超過をしていない限りは高速道路の最高速度ではないかという感じがするわけですが、具体的にどの辺りがそれに該当するんでしょうかね?

速度制限表

高速道路の速度制限についてまとめてくださっている上記のサイトを参照して考えてみましょう。

『歌の履歴書』曰く、「大阪にいた頃免許取り立ての友達の車に乗せてもらった」経験をベースに作った曲のようですから、大阪近郊の速度制限に着目したいところです。そして、マッキーの地元は大阪府高槻市。地元の友達に乗せてもらったと考えれば、必ず利用していただろう高速道路は名神高速道路の「大津IC/SA – 吹田BS跡付近」と考えられます。おそらく大阪の方に遊びにいったのでしょうが、どの方向に行くにせよ少なくともこの高速は利用せざるを得なかったと思われます。

そしてその制限速度を見てください。見事、80km/hですね。当時から速度制限の改訂がなされている可能性があることや、実際に通ったルートは確定できないこと、など様々な不確定要素はありますが、おそらく名神高速道路がこの曲の舞台なのではないかと思われます。ぜひ一度車で「聖地巡礼」して見たいところです。

以上、「80km/hの気持ち」の紹介でした!


さて、Cメロのところで述べた通り、この曲には後日談と捉えられる曲があります。歌詞解釈の最後のところの文言で、少し心当たりがあったという人もいるのではないでしょうか?

そう、「彼女の恋人」です。明確なアンサーソングというわけではありませんが、この曲と同じ人間関係を歌っているのではないかと僕自身は考えています。

というわけで、次回は少し時間を飛ばして、「彼女の恋人」を紹介したいと思います。

乞うご期待。


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