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No.6 「RAIN DANCE MUSIC」

第六回は、ファーストアルバム『君が笑うとき君の胸が痛まないように』の二曲目、「RAIN DANCE MUSIC」をご紹介します。

「歌の履歴書」で、槇原にしては珍しく歌詞から作った曲ではないことが明らかになりました。まあまあ、でも無理矢理にでも解釈していきましょう笑。

これがなかなか手強い曲です。詳しくは後述しますが、時間を行き来するんですよね。結論から言ってしまうと、前々回紹介した「夏のスピード」の直前の出来事であり、前回紹介した「pool」をサンドイッチしている、そんな曲だと考えています。???って感じですよね。

百聞は一見に如かず。早速見ていきましょう。

君は誰かの胸の中で そんなに早く泣きたかったの
やっと伸びた髪も濡れて 雨の日のさよなら

舞台は雨の日。「夏のスピード」を見た僕たちは、もうそれが夕立のことだとわかると思います。まだ雨が降っているということは、前回に照らして考えれば別れの最中ということですよね。注目ポイントは二つです。

一つ目は「誰かの胸の中で そんなに早く泣きたかったの」というところ。「夏のスピード」に「さよならの場所を選ぶ ~ 僕ら何を急いだの」っていう部分、ありましたよね。そこと同じ心情を描写しています。

今回確定的に明らかになったのが、「君」は他の誰かを好きになってしまったが故に「僕」のところから離れていくということです。「何を急いだの」と言っていたのは、本当に意味がわからないのでなくて、ある種の皮肉というか、忸怩たる思いの表現だったわけですね。

二つ目は「やっと伸びた髪も濡れて」です。これ伏線なんです。この後の歌詞との対比によって、「RAIN DANCE MUSIC」が物語全体のどこに位置づけられているのかが明らかになる、鍵表現になります。

明日の朝水たまりに 映る雲さえ流れた後
僕には何が残る 16の自分が泣いている

またまた「夏のスピード」と被ってますね。前回は「夕立の後の空を逃げるように流れる雲」でした。ただ、「僕らの明日もこんな風ならいい」と言っていたのに対して、今回は「明日の朝」「流れた後何が残る」と言っています。

こんな気持ち、早く流れ去ってほしい。それは当然でしょう。失恋はあまりに辛いものです。しかし、否定的な形ではあっても、この辛い気持ちは「僕」と「君」を繋ぐ最後の紐帯なのです。

辛い気持ちが流れ去るということは、その辛さの原因であった「君」との思い出の重みも、自分の中から消えていってしまうということです。辛さから逃れたい、でもまだ少しでも君と繋がっていたい...。「夏のスピード」と重ねて読むことで、なんともアンビバレントで詩的な表現に化けましたね。

めちゃ大事なのは「16の自分」。poolにも出てきましたよね?これ、現在(フラれてる真っ最中)の「僕」の年齢を言ってるのでしょうか。僕は違うと考えます。理由は後述。

Dancin' in the rain
僕とは踊れない
濡れた髪が気になって
踊れない

「踊れない」というのは、文字通り踊るという意味ではないですよね。(HAPPY DANCEみたいに本当に踊ってるのかもしれませんが...)

ここに関してはラストでも出てくるので、そこで。

確か初めて会った時も こんなにひどい雨の日だった
今じゃすたれたわけで 髪を切ったばかりの君だった

タイムトラベルが始まります。

「初めて会った時」...。ここは過去に戻っていることがはっきりわかりますね。まず答えを言ってしまうなら、ここが「僕」の「16」の時だと考えられます。

「髪を切ったばかりの君だった」。さて、これはいつの「君」でしょうか。「今じゃすたれたわけで〜」との繋がりで考えると「今」な気もしますよね。でも、これ昔の「君」じゃないかと思うんです。

前に出てきましたよね、「やっと伸びた髪も濡れて」と。つまり、「今」の「君」は「髪」が「伸び」ているわけなんです。「すたれたわけで」はちょっと独特な語用なので解釈が定まりませんが、まあ「今」は当時の「切った」髪ではなくなっていることを示している、ぐらいの理解でいいでしょう。

「16」の僕は、「髪を切ったばかりの君」と、「雨の日」に出会った。そして今は「君」の髪は伸びている。とりあえず次に進みます。

夏休みの子供たちは 少し眠いプールの帰り道
突然の夕立踊るように びしょ濡れになっても笑っていた

さて、これはいつでしょうか!

そろそろ「今」の描写に戻っているでしょうか。残念、まだ昔です。

それに関連して、ここからいよいよ「pool」とも絡めて解釈の総整理に入ります。さらにややこしいので気張ってついてきてくださいね!笑

まず。この描写は一体いつに位置するのでしょうか。「君と初めて会った」(=16歳だと確定している)時点でもなく、逆に別れの時点でもない、その間の出来事だと僕は解釈しています。ちょっと無理を感じる人もいるかもしれませんが、冒険的な解釈ということで悪しからず。視覚的に整理してみましょう。

「初めて会った時」...「16歳の自分」←RAIN DANCE MUSIC

「夏休みの子供達」…「16の時のガールフレンド」←pool(!)

「雨の日のさよなら」←RAIN DANCE MUSIC

「夕立の後の空」←夏のスピード

時系列としてはこういう感じです。対応する曲も並べて書いておきました。序文で言っていた「サンドイッチ」とかの意味、分かりましたか?

歌詞のキーポイントは三つ。「夏休み」と「プールの帰り道」、そして「突然の夕立」です。

前回の「pool」の描写を思い出してみてください。太陽ギラギラの中、プールで彼女と遊んでいる男の子の話でした。「夏休み」の出来事であると考えてもおかしくないですよね。

続いて、「少し眠いプールの帰り道」。「眠い」のは誰でしょう。当然「子供達」と読むのが自然…ですが、実はこれ、「僕」とも読めませんか。

「僕」と「ガールフレンド」は、プールでひとしきり遊んだ後の「少し眠い帰り道」、「突然の夕立」に遭います。プールで遊んでいた時は晴れていたことを考えても、辻褄は合いますよね。

もちろん「pool」と同じ日である保証はないのでここに部分に関しては補論的な性格は濃厚なのですが、なかなか面白い解釈だと思うんですけどいかがでしょう。

Dancin' in the rain
傘の咲いた街を
君は誰と踊って歩くの

ラスサビ。ここから、「踊って」というのは、連れ立って歩くくらいの意味であることが読み取れるのではないでしょうか。

サビについては、他にはそれほどツッコミどころはないと思います。

Dancin' in the rain
僕とは踊れない
濡れた髪が気になって
踊れない

サビを繰り返して終了。雨の日のお出かけは、よくこの曲をお供にしています。ほどよいガチャガチャ感と哀愁のマリアージュなんですよね。

以上、三曲にわたって続いた大解釈終わり!おそらく従来なかった読み筋だと思うので、賛成も反対も、是非色々考えてみていただきたいところです。

次回はファーストアルバム三曲目、「80km/hの気持ち」をご紹介します。ファーストアルバム屈指の名曲、とても楽しみですね。

それでは。

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