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No.1 「ANSWER」

初回である今回は、ファーストアルバム『君が笑うとき君の胸が痛まないように』の一曲目、「ANSWER」を紹介したいと思います。

槇原自身が語るところによれば、この曲は彼にとって大きな恋愛が終わってしまった後、それを思い出しながら作った曲。17歳で書いたらしいです。バケモノかよ...。

もし本当に相手のことを好きなのであれば、デート終わりの別れ際、地下鉄の改札でそのまま見送るのでなく、「離したくない」と抱きしめるはずではないだろうかと考えたことが歌詞の核になっています。次回紹介する「EACH OTHER」に大きく関係するモチーフになっていますが、それはまた後の話。

では早速歌詞を見ていきましょう。

あの日地下鉄の改札で 
急に咳が出て 涙にじんで 
止まらなくなった
君と過ごしてたさっきまで
嘘みたいだね もう帰る時間だよ

切なげなピアノの旋律から始まるこの曲。デート終わりの名残惜しさに、地下鉄の改札でしんみりと佇む恋人たちの姿が浮かんできますね。付き合いたての頃とか別れ際すごい寂しいよなあ...。

「咳が出て」というところが少し気になります。咳き込んで涙出てるだけじゃん、というのも無粋だし...(ネットの記事で、主人公かその恋人が病気なのだという解釈をつけている人もいましたが、流石に違うのではないかと思います笑)。

同じフレーズが最後にもう一度出てくるので、この謎の解決は最後に譲ることにしてとりあえず次にいきましょう。

君と僕の腕時計 一緒に並べて
君と僕の手のひらを そっと重ねて
愛という窮屈を 
がむしゃらに抱きしめた

君と僕の腕時計を一緒に並べる。このフレーズには(槇原自身が意図していたかどうかは別として)二通りの捉え方があると考えています。

① 単純に次のフレーズにつながっているという解釈。つまり、腕時計を並べながら、手を重ねるということ。次の歌詞が「愛という窮屈を抱きしめ」るにつながっていることからも分かるように、「僕」は「君」を抱きしめたのです、それも多分後ろから。そうでないと、通常同じ腕につけている腕時計は並びません。

「君」という「愛」(の対象)を後ろから抱きしめ、手のひらを重ねたとき、自然に腕時計が並ぶ。そのような情景を歌っているのだと思います。だいぶイチャついてますね笑

また、これは腕時計は左腕につけるものという前提で書きましたが、右腕につけていてもダメというわけではありません。左利きの人だと特にそうかも。つまり、デート中手を繋いだり、ベンチに座っている時手を重ねたりすれば、腕時計が自然に並ぶこともあるわけです。ちょっと苦しいかもしれませんが、その解釈もなしではない。

② 隠喩が隠れているという解釈。時計は時間を刻むものです。家の置き時計が夫婦や家族の時間を象徴するとしたら、腕時計は個人の時間を表すと言えるでしょう。そうだとすれば、腕時計を並べるとは、「君」の時間と「僕」の時間を並べる=共有している、あるいは合わせているというニュアンスがあるのではないでしょうか。時間を共にしているという感覚を、視覚的に表現していると考えられるのです。

個人的には①が妥当かなと考えていますが、Cメロの内容とパラレルになっていると捉えれば②もない解釈ではないと思います。

そして、「愛という窮屈をがむしゃらに抱きしめた」。この曲のハイライトです。ここはもうあーだこーだ言わずに、この余韻を大事にして済ませるのが一番いいです笑

強いて言えば、窮屈ってどういうことなんでしょうか。これは一意に定めることができませんが、今寂しいとか悲しいという気持ちになっていることそのものじゃないでしょうか。愛しているが故にマイナス(とも言い切れないけど)の感情、例えば寂しいとか悲しいとか嫉妬とか、そういうものに苛まれるわけですから。

でも、愛する君と一緒にいられるのなら、全部ひっくるめて「がむしゃらに抱きしめ」るんですね。上述の通り、肉体的にも精神的にも、二重の意味で。

二人会える日が少ないから
いつも別れ際で ため息ばかりついてる
何も言わないで 君の姿 
消えてしまうまで 見送ってあげるから

序盤と同じ、改札で佇む二人の姿が浮かんできます。

ため息の主語は、頭の「二人」だと思いますね。「二人会える日」とも読めますけど、会える日が少ない→二人でため息ばかりついてる、という流れだと思います。日本語の語順って流動的で難しい!

そして、ここの解釈が次で効いてくるんです。

つまり、「何も言わないで」です。「何も言わない」のはどっちなんでしょう?(君に)「何も言わないで」とお願いしているのか、(僕が)「何も言わないで」見送ると言ってるのでしょうか。

前者だと捉えるのが妥当でしょう。ため息の主体が「僕」にフォーカスしているのなら後者が素直ですが、二人でため息をついてると解するなら、「まだ言いたいことはたくさんあるだろう、でも何も言わないで。見送ることはしてあげるから」と、こう言ってると解せるわけです。

「咳が出て」との絡みに気づいた人は勘がいいですね。さて、次。

君と僕の思い出は まだまだ少ない
ずっとずっと歩こう 道を探して
愛という窮屈を 
いつまでも抱きしめて

再びハイライト。ここはほぼ歌詞通りです。

春の強い風も 夏の暑さも
秋のさみしさも 冬の寒さも
二人でなら 歩いて行けるさ

Cメロです。毎年毎年、辛いことも一緒に乗り越えていこう、という理解でいいでしょう。時間を共にする、というニュアンスがここで前面に出てきます。腕時計の隠喩を考えるなら、腕時計を並べ続けることがここでは二人で歩いていくことと対応しているわけです。

最後。

あの日地下鉄の改札で 
急に咳が出て 涙にじんで 
止まらなくて
手すりを越えて 君を抱きしめた

やはり、何も言わず見送ることはできませんでした。手すりを越えて、抱き寄せるわけです。「離したくない」と。

ここまで読む中で、まだ「僕」(あるいは「君」、どちらが見送る側でどちらが見送られる側なのかは正直はっきりしません。)は改札を通ってないというイメージでいたのですが、「手すりを越えて」ってことはもう通ってたんですね笑

2021/10/27追記
恥ずかしながら今日、平井堅に槇原が提供した「一番初めての恋人」という曲の存在を知りました。歌詞を一読すればわかるように、明らかに「ANSWER」で描かれている物語を意識していると思われます。この曲も併せて解釈するならば、「改札」を通って電車で去ろうとしていたのは「君」ではなく、「僕」のようですね。

「咳」の答え合わせです。「涙が止まらな」いことに注目して下さい。咳き込みすぎて涙が出ることは確かにありますが、涙が止まらず溢れ出ることってあんまりないですよね。つまりこれは純粋に、寂しい・悲しいから流してる涙なわけです。でもそれってちょっとダサくないですか?特に男が、デートの別れ際くらいで泣くって...。

そこで「咳」です。咳き込んだふりをしたわけなんですね。槇原が描く主人公は、本心は結構なよなよしているのに、あるいはそれゆえにこそ、強がって見せることが多いです。ここでもそれが発動してます。

「何も言わないで」と言ったのも、泣いてしまうからでしょう。泣きそうな時って、喋ろうとしたら涙があふれそうになって何も言えなくなりますよね。「君」が喋りかけてきた応答しなきゃいけない。そしたら泣いちゃう。だから、もう何も言わず行ってくれと。

でも最後の最後で耐えられなくなって、素直に「君」を抱きしめる。帰したくない。ここが本当に沁みる...。

そして多分それが、「僕」の出した答え=ANSWERだったのではないでしょうか?あるいは「何も言わないで」ということは逆に言えば、「君」はすでに少し喋っていたのかもしれない。「帰りたくない」とか「寂しいね」とか。そして抱きしめたことが、それへの応答=ANSWERだったのではないでしょうか。ここは断定はできません。


「ANSWER」解釈、いかがだったでしょう。お付き合いいただきありがとうございました。

果たして「僕」の「ANSWER」はどのようなものだったのか。素直になりきれていたのか。

次回扱う「EACH OTHER」が、答えを教えてくれます。

それでは今回はこの辺で。



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