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振り回していたはずが振り回されていた『うみべの女の子』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:110/191
   ストーリー:★★★☆☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
ラブストーリー
閉塞感
思春期
中二病

【あらすじ】

海辺の田舎町に暮らす中学2年生の小梅(石川瑠華)は、憧れの三崎先輩(倉悠貴)に手酷いフラれ方をしてヤケになり、同級生の磯辺(青木柚)を誘って衝動的に初体験を済ませる。なぜ相手が自分だったのかと問う磯辺に、「一年のときあたしに告ったじゃん」と言い放つ小梅。気持ちはまだ変わっていないと改めて告白する磯辺だったが、小梅にその気はなかった。

しかしそこから、2人は体の関係を繰り返すようになる。曖昧で奇妙な付き合いを続けるうちに、セックスはいつしかお互いにとって日々の生活の一部になっていった。

ある日、磯辺のパソコンのデスクトップにビキニ姿の少女の写真を見つけた小梅。嫉妬にも似た感情を覚えた彼女は、勝手にそれを削除してしまう。自分からフッたはずの磯辺の気持ちを今さら試す小梅に、「生きてるだけで息が苦しいってやつらの気持ちなんてわかんねーだろ?」と詰め寄る磯辺。磯辺は実の兄を自殺で亡くしていた。

磯辺に拒絶されたやるせなさから、三崎先輩に拠りどころを求める小梅。性行為を強いられそうになり、傷ついて押しかけてきた小梅を、磯辺は「帰れ」と突き放す。親友だからこそ、家族だからこそ言えない焦りや苛立ちも、磯辺にならぶつけられる。それぞれにねじれた喪失を抱え、心の穴を埋めるように激しく交わる2人。

文化祭を前にして、会えないほど磯辺に執着していく小梅と、死んだ兄の幻影にとらわれていく磯辺。離れていく磯辺の心をつなぎとめようと小梅は手紙に思いをしたためる。

しかしその頃、磯辺はポケットの中にスタンガンを握りしめ、夜道に足を踏み出していた……。

【感想】

浅野いにお先生による漫画が原作の映画ですね。2巻しかないので、そっちを読んでから観てもいいと思います。もともとが短いのでほぼまるっと映像化されていました。

<思春期真っ只中の少年少女の好奇心と惰性>

全体的に閉塞感を感じる映画です。おそらく、田舎町という環境がそう感じさせているんだと思いますけど。そこで展開していくちょっと暗い青春物語。中学2年生という心も体も大人へ近づいていく多感な年頃。そこから芽生える性の目覚め。好奇心によって、頭や心よりも体が優先されますよね。性への興味と快感が、曖昧な関係性への違和感を中和しているように感じられました。だから、ズルズルダラダラ続いちゃうんでしょうね。

<相手の好意を利用するちょっとズルい小梅>

そもそものきっかけは些細なことですよ。小梅が憧れの先輩にフラれ、ヤケクソで磯部とのセックス。相手に彼を選んだのは、かつて自分に告白してくれたから。自分を好きな人のことって、自分も好きになりやすいですよね。だから誘うハードルも低かったんだろうなって思います。磯部側からしたら、好意を利用された形にはなるので、ちょっと可哀想な気もしますけど、まあ男性目線からしたら結果オーライですかね(笑)

ただ、あれだけセックスを繰り返しながら、小梅はなかなか磯部への好意を認めないんですよ。ヤケクソでヤッてしまったこと。一度フッた手前、体を許したからといってホイホイついていく安い女に見られたくなかったこと。先に体を重ねてしまったことで、心が追い付いていなかったこと。理由はいろいろあるんでしょうけど、これじゃ磯部がいつまで経っても小梅のこと忘れられないから、生殺し状態泣きもします。まだ中学2年生ですから、そこまで考えているとは思えませんが、事象だけ見ると、小梅ってズルい女の子ですよね。

<曖昧な関係性に満足する磯部>

とはいえ、磯部もあんまり強く「付き合って」とは言わないんですよ。もともとそんなに自己主張の激しいタイプではないってのもあると思いますが、単純にこの関係をなるべく維持したかったんでしょうね。中学2年生の男子なんて、ねぇ。もう猿みたいなもんですから。片想いの子とヤリまくれるなら、変に相手を刺激してこの関係を崩したくはないですよね。ただ、両想いになって、付き合って、セックスするっていう一応の順序がある中で、いきなりゴールまで行っちゃったわけですから、やや小梅に対する扱いが雑な気はします。ありがたみが薄いというか。

<立場の逆転劇>

最後の最後で、ようやく小梅は自分が抱いていた気持ちと向き合います。が、、、そこは切ないシーンでしたね。みなまで語りませんけど、タイミングが違えば、もっと早く素直になっていれば、違った未来が待っていたかもしれないって思うと、小梅からしたら悔やんでも悔やみきれないでしょうね。まあ恋愛ってそういうもんだとも思いますけど。

一方、磯部はよくやったと思いますよ。自分の尊厳を保ち、相手のペースに巻き込まれずに済んだので。ここが立場逆転が最も明確化されるところですね。これまでずっと小梅が磯部を振り回していた状況が、逆に振り回されてしまいますから。

<曖昧であるがゆえの中毒性>

でも、2人にとっては、この曖昧な関係ってのはお互い心の隙間を埋めるのに最適な形だったのかもしれないなーとも思います。家族や恋人、友達という決められた関係性だと、言うに言えないこともあるじゃないですか。気まずくなったり、それを避けて本音を言えなかったり。小梅と磯部の関係って、そのどれにも当てはまらないから、逆に居心地がよかったのかなって。何も決めないからこそ、逆に何でもアリみたいな。お互いに都合がいいんですよね。なんか中毒性高そうな関係性です。生産性はないかもしれませんが、取り急ぎの平穏と快感は得られるっていう。まあ、「セフレ」っていう見方をすれば、上記のような決められた関係性の範疇に入ってしまいますが、もともとセックスを楽しむことを目的としているわけではないので、セフレとも違うと個人的には思います。

<その他>

この映画、何と言っても、小梅を演じた石川瑠華さんの体当たり演技がすごかったです。彼女は『猿楽町で会いましょう』でも素晴らしい演技を見せてくれましたが、今回もすごく印象に残ります。24歳で14歳の役ですからね。これはぜひ映画館で観ていただきたいです。彼女、しばらくこういう暗い青春系の映画に出そうな気がします(笑)


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