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鬼気迫る父親のキャラクターに圧倒されながらも、怒りのぶつけどころがない状況に精神をすり減らされる『空白』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:32/196
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
娘を亡くした父親の暴走

【あらすじ】

ある日突然、まだ中学生の少女(伊東蒼)が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。

娘のことなど無関心だった少女の父親(古田新太)は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。

【感想】

これはものすごいキャラクターの立った映画でした。今年観た邦画の実写映画の中では5本の指に入るぐらい見ごたえがありますのでオススメです!

<行き場のない怒り>

僕の中で、この映画における印象的なところが2つありました。まずは、責任の所在が明らかにされていないことです。確かに娘は車に轢かれて亡くりました。じゃあそれが誰のせいかと言うと、ひとりの人に100%非があるわけではないんですよ。そこがモヤモヤするところでもあるんですけど。

急に飛び出した娘が悪いのか。執拗に追いかけたスーパーの店長が悪いのか。そもそも本当に娘は万引きしたのか。だとしたら、そうさせる要因が学校や家庭にあったのか。

どれもそうだと言えるし、そうでないとも言える。この怒りのぶつけどころがないのがね、精神的に苦しいところでした。。。

<癖のあるキャラクターたち>

次に印象的だったのは、登場人物の問題行動、、、というよりコミュニケーションの取り方の下手さですかね(笑)

父親はとにかく言葉が乱暴な上にしつこいんですよ。もうね、ヤクザかってぐらい威圧的な態度で。それでも憎めないのは、娘を亡くしたという事実ともうひとつ、「不器用さ」を感じるからです。妻と別れ、年頃の娘を男手ひとつで育てている漁師ってことで、性格は荒いけど、悪い人ではないことがわかります。

そして、スーパーで働くパートのおばちゃん(寺島しのぶ)。この人は善意の押し売りが過ぎるのがキツくて。。。満身創痍な店長を励まそうとはしているのはわかります。でも、自分のペースだけで「あれやろう、これやろう」の連発。実際にいたら、一番タチが悪いのはこの人だろうな。。。悪いことはしていないですよ?むしろ、正しいことをしている。ただ、その正しさをそれとなく強要してくるんですよ。。。正論ばかり言う人って疲れるじゃないですか。あんな感じですね。しかも、自分はいいことをしているつもりですから。関わると一番疲れるタイプかも(笑)

あとは学校側もちょっとね。。。事なかれ主義というか、責任を別に押し付けたい校長の態度がイラッとするというか。実際にその立場だったらわかりますが、、、もうちょっと誠実な対応をしてくれてもいいのではって思います。

この映画で強いて悪い人を挙げるとすれば、マスコミですね。恣意的な報道ばかりして、父親にも店長にも悪いイメージを植え付けていたので。まさにマスゴミと呼ばれる典型的なやり方でした。

<父親が娘と向かい合おうとする変化>

この映画、全体的にものすごくシリアスなんですけど、終盤からそのトゲトゲしさが和らいでくるんですよ。父親がこれまで無関心だった娘と、初めてちゃんと向き合おうとしますから。死んでからじゃ遅いのに、死が向き合うきっかけになるなんて皮肉ですよね。タイトルの『空白』ってのは、生きているときに娘に関心を寄せなかった時間を指しているんですかね~。まあ、現実にも亡くなって初めて「もっとちゃんと話しておけばよかった」なんて思いますから。いつだって後悔の連続ですよ、そこに関しては。

<その他>

父親の狂気ばかり押し出されていますが、個人的には理解できる範囲でした。もちろん、言動には問題あるものの、娘を失った父親としては当然のことかと。出てくる人みんな何かしら癖のある感じもありますが、そんな人たちが織り成す人間ドラマはやっぱり面白いです。これはぜひ映画館で観て欲しいですね。


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