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いじめ問題をきっかけに生まれた孤独な優等生と不良少年との絆に今年最大級に泣いた『少年の君』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:5/160
   ストーリー:★★★★★★★★★★
  キャラクター:★★★★★★★★★★
      映像:★★★★☆
      音楽:★★★★☆
映画館で観るべき:★★★★★

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
いじめ
受験戦争

【あらすじ】

進学校に通う成績優秀な高校3年生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)。全国統一大学入試(=高考)を控え、殺伐とする校内で、ひたすら参考書に向かって息を潜め、卒業までの日々をやり過ごしていた。

そんな中、同級生の女子生徒がクラスメイトのいじめを苦に、校舎から飛び降り自らの命を絶ってしまう。少女の死体に無遠慮に向けられる生徒たちのスマホのレンズ、その異様な光景に耐えきれなくなったチェン・ニェンは、遺体にそっと自分の上着をかけてやる。しかし、そのことをきっかけに激しいいじめの矛先はチェン・ニェンへと向かうことに。

彼女の学費のためと犯罪スレスレの商売に手を出している母親以外に身寄りはなく、頼る者もないチェン・ニェン。同級生たちの悪意が日増しに激しくなる中、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、とっさの判断で彼シャオベイ(イー・ヤンチェンシー)を窮地から救う。

辛く孤独な日々を送る優等生の少女と、ストリートに生きるしかなかった不良少年。2人の孤独な魂は、いつしか互いに引き合ってゆくのだが…。

【感想】

今年一番泣きました。。。やってくれるぜ、中国映画。。。本当にアジア映画って、たまにずば抜けて面白い感動作に当たりますよね。あー、思い出しただけで涙出そうです。

<受験戦争が激しい中国>

舞台となるのは"高考"を控えた高校3年生のクラスです。高考とは中国において全国一斉に行われる大学入試のことですね。毎年1,000万人ぐらいが受けるようです(ちなみに、日本のセンター試験の受験者数は令和3年は53万人ほど)。中国って全部で1,300校ほどの大学があるようなんですけど、ほとんどの人は国家重点大学と呼ばれる88大学を目指すそうです。この国家重点大学とは、要は政府お墨付きってことで、こことそうでない大学とでは天と地ほどの差があり、その後の人生に大きく影響する様子。もはや現代版"科挙"といっても過言ではなさそう。。。なので、生徒たちにかかるプレッシャーはハンパなく、劇中でもひたすら勉強勉強勉強です。

<浮かび上がるいじめ問題>

受験を控えている中、ひとりの女子生徒がいじめを苦に校舎の屋上から飛び降り自殺してしまうんですよ。あまりに突然のことで学校中が騒然となるんですが、まわりはスマホで写真を撮り、誰も何もしようとしないんですよね。そこで、主人公のチェンはそっと自分の上着をかける優しさを見せるんですけど、それがいじめの主犯の気に障ったのか、今度は彼女がいじめの標的になります。

椅子には血のような赤い水を撒かれるし、階段からは突き落とされるし、体育の授業ではボールをぶつけられるし、詐欺師まがいのことをしている母親のことがクラスのLINEに上がる始末。いじめの内容そのものは、日本でもありそうなことではあるんですけど、まわりは受験勉強に忙しくて、見て見ぬフリってのが残酷なんですよね。本当は助けたいんだけど、、、みたいなそぶりすらなく、他人にかまっている暇すら惜しいっていうのが伝わってきます。

<決して交わることのない2人の出会い>

学校に友達はおらず、母親も出稼ぎで家にいないので、誰も頼る人がいないんですよ。まだ15歳かそこらの女の子が。それでも勉強だけは続けなくちゃいけないっていうのもまた、中国の受験戦争の激しさを物語っている気がします。

そんなときに、ひょんなことから不良のシャオベイと出会います。素行は悪いけど、根は優しく、彼を助けるときに壊されたチェンのスマホの修理を自ら請負うほど。盗品を売りさばくために修理のスキルがあるようで(笑)

優等生だけど孤独かつ受験勉強に捉われ自由のないチェンと、自由気ままだけど何も持っていないシャオベイっていう、普通だったらまったく接点がなさそうな2人だからこそ、お互いに欠けている部分を補え合い、自然と距離が縮まっていったと思うんですよね。

シャオベイって「学校は意味がない」と言って行ってないんで、受験と何の関係もないんですよ。だから、フラットにチェンと付き合えるのかもしれません。チェンからしてもそれが居心地よかったんでしょうね。いい大学に入って、いい会社に入ろうとしているチェンを見て、シャオベイは世界を守るかもしれない彼女を、自分が守ろうと思うようになります。やがて、シャオベイがボディガードのように彼女を離れたところから見守るようになるんですが、これがまたラストに大きな意味を持ってくるんですよ。。。

<いじめの主犯格>

チェンの告発により、同級生を死に追いやったいじめの実行犯は見つかって停学処分となります。自分をいじめてくるんだったら、あの自殺した子もこいつのせいかもしれない、、、っていうのは真っ当な見方ですね。ただ、この実行犯のリーダーであるウェイって子がまたね。。。顔はかわいくて目立つタイプなんですが、親が金持ちで娘を溺愛していて、甘やかされて育てられた感満載の、典型的ないじめ主犯格タイプなんですよ(笑)先生とウェイの親の会話を聞いていると、「この親にしてこの子あり」みたいなのを感じます。で、こういうタイプって自分が上じゃないと気が済まないんですよねー。チェンへの報復を決め込んで、彼女を複数で襲うんですよ。こういうバイオレンスな展開も躊躇なく入れるところが、この映画の見どころあります。

<ラスト30分のためにだけにそれまでがある>

そして、終盤が近づくにつれて、チェンとシャオベイの関係性も熟成されていき、、、それであのオチですよ。もうね、どういう着地の仕方をするのか全然わからなかったんですけど、まさかそうくるなんて。。。ネタバレになるから言えませんが、いじめをきっかけとして、まさかここまで感動ストーリーになるとは思いませんでした。お互いを想い合っているがゆえ決断。愛を超えて人として尊い選択。もう涙が止まらなくて、マスクびちょびちょです。

<その他>

いじめ問題、受験戦争、優等生と不良の交流など、情報量は多いんですけど、それらがうまく嚙み合って、とても素晴らしい作品になっていました。題材的には日本でも作れそうな気はしますが、あの感動っぷりは中国映画ならではかもしれません。とにかくこれはオススメします。マジで。


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