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子役にここまでさせるってのがすごいジェンダーとアイデンティティの模索映画『トムボーイ』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:69/193
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
ラブストーリー
ジェンダー
アイデンティティ

【あらすじ】

夏休み、家族と共に新しい街に引っ越してきた10歳のロール(ゾエ・エラン)。引っ越し先で「ミカエル」と名乗り、新たに知り合ったリザ(ジャンヌ・ディソン)たちに、自分を男の子だと思い込ませることに成功する。

やがて、リザとは2人きりでも遊ぶようになり、ミカエルとしての自分に好意を抱かれていることに葛藤しつつも、お互いに距離を縮めていく。

しかし、もうすぐ新学期。夏の終わりはすぐそこまで近づいているのだった…。

【感想】

日本では今年公開だけど、実際は2011年の映画です。『燃ゆる女の肖像』(2019)のセリーヌ・シアマ監督が撮った2本目の長編映画です。正直、その映画は個人的にハマれなかったので、今回の作品はどうかな~ってちょっと心配ではあったんですが、いやはや、十分に楽しめました。

<美少女にも美少年にも見える主人公の中性的な顔立ちが魅力>

本作は、主人公のロールが「ミカエル」と名乗り、男の子として夏休みを過ごす話です。男の子に扮しているっていうことは、、、そう、このポスターの子は女の子です。女優さんです。美しい顔立ちの人って男性にも女性にも見えるときがあるじゃないですか。だから、美は(生物学的な意味での)性別を超越するって僕は思ってるんですけど、子供だと余計にわからなくなりますよね。このポスターを最初に目にしたとき、ずっと男の子だと思ってましたから。作中で女の子だと知ったときには衝撃でした。

<単なるトランスジェンダーの話ではない面白さ>

この映画の何が面白いのかってことですが、僕はロール(ミカエル)の言動すべてだと思いました。これ、女の子が男の子に扮しているけど、単にトランスジェンダーの苦悩を描いた話ってわけでもなさそうなんですよね。体の性と自分の思う性が一致していなくて悩むとか、そういう描写はありませんでしたし。いや、幼いがゆえに、そこまでの苦悩にまだ達していなかった可能性もなくはないですけど。

どちらかというと、好奇心の方が強いんじゃないかなって思いました。ちょっと女の子の格好をしてみたいとか、男の子っぽいことをやってみたいとか、小さい頃にそういう願望があった人って意外と少なくないんじゃないですかね。それに近しいものなのかなって個人的には感じました。もはや男とか女とかそういうの関係なく、やりたいことをやってみようという肯定的な印象さえ受けます。

<ミカエルの徹底的なカモフラージュ>

ロール自身、性の不一致があったかどうかは定かではないんですけど、彼女自身、男の子に対する憧れ自体はあったと思います。だから、サッカーで遊ぶときは、まわりを真似して上裸になり、ツバを吐きます。水着を着るときは、わざわざ上半身の部分をハサミで切ってパンツ状にし、さらに股間部分には粘土で作った棒状のものを入れ込むという細かい工夫もするほどでしたから。子供って異質なものに対する排除意識が激しいですからね。なるべくみんなと同じようにしなくちゃっていう心理もあったんじゃないかと思いますが。

<不安定なジェンダーとアイデンティティの中で構築される人間関係>

そんな中で、急に距離が縮まり出すリザとの関係。同性愛と呼べるものほどロール自身も自分のジェンダーやアイデンティティをはっきり認識できていません。ただの好奇心なのか、それとも性の不一致が起こっているのか、作中での明言はありませんから、ちょっと観客はモヤモヤを抱えたままになるかもしれません。そして、実は女の子だとバレたときのまわりからの扱い。そこはもう終盤なので、あまり掘り下げられることはありませんでしたが、終わり方は救われるような感じだったかなーって思います。

よくあるトランスジェンダー系の映画だと、登場人物がある程度の年齢のために自分で責任を取れますけど、今回はまだ小学生ですからね。ミカエルを含めた子供たちがどういう人間関係を築いていくのかは、とても興味深く観ることができます。

<親目線でも学びがあるかも>

また、もし自分の子供が同じ状況になったら、親としてどう接するべきかなど、親の人はいろいろ考えるきっかけにもなりそうです。今作の母親はなかなかにナンセンスかなと個人的には感じましたけどね。もっと子供に寄り添って、子供の言うことに耳を傾けてもいいのでは、、、と、ロール(ミカエル)がちょっと不憫に感じました。まあ、母親も妊娠中だったので、あまり余裕がなかったのかもしれませんが。

<その他>

それにしても、一番すごいなと思ったのは、ミカエルを演じたゾエ・エランですよ。微妙に体つきが女性っぽくなり始める年頃なのに、体のすべてをカメラの前で露わにしていましたから。だから、彼女が女の子だったっていうのもわかるんですけど。このぐらいの年頃だったら、そういう体の変化って外には見られたくないと思うのだけど、、、よくやったと思います。

あと、ミカエルの妹がかわいすぎなのが、個人的には一番の推しですね。6歳なのにもう顔が出来上がってるかわいさもあるんですが、素直に姉の言うことを聞いて、兄として慕っているところが健気でね。娘に欲しい。。。(笑)


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