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愛を歌う人、川村カオリ 2009.7.10

 私が川村カオリを久しぶりに見たのは、吉川晃司のドキュメンタリー番組「キッカワコウジ苑」だった。彼女は吉川が路上ライブを行うためのバンドコーディネイトをしていた。
スタジオで音合わせか何かで行き詰まった吉川が、クィックイッと手を動かし「何か飲みたいな、コーヒーか何か・・・」というような仕草をした。草色のツナギを着た川村カオリは2回頷いて用意をしようとした。吉川がその肩を掴んで「いいよいいよ、自分でやるから」風な動きをした。
彼女が映し出されたのは、そんな、10秒くらいのひとコマだったが、なぜか彼女のことが強く印象に残っていた。同年代の彼女のかっこよさのせいかもしれないし、吉川との信頼関係を垣間見ての嫉妬だったかもしれない。
しばらくして彼女が乳ガンのため左胸を切除していることを知った。彼女はまだ就学前の小さな娘を一人で育てている。辛い選択であっても左胸を切除することで生きられるのならいるのならと安堵した。時々、彼女のブログを訪れては母娘の暮らしを微笑ましく思ったものだ。また、乳房を切除するというが実際は脇の下から背中にかけても切除され、術後のリハビリは筆舌に尽くしがたい過酷なものだと聞いたことがある。そんな地獄をくぐり抜けて、川村カオリはアーティストとして母として毎日を生きているのだという現実に、一日も早い回復を祈らずにはいられない気持ちだった。

しばらくして、彼女のガンが再発・転移したことを知った。本人が発表したのだ。
リンパ節・骨・肺の3ヶ所に転移していた。
それから私は何度ため息をついたかしれない。病気で苦しんでいるのは、なにも彼女だけに限ったことではないが、それでも「私が知ってしまった」人だ。テレビの番組でハーフ故の辛い少女期や病気のことなどが取りあげられ、川村カオリ自身もテレビへの露出度が増えた。彼女のブログのコメントは、転移を発表する前の10倍の300を越えたがそれと反比例するように、アップする記事は減っていった。体調優先、治療優先、当然のことだ。
いつか彼女が書いていた。「自分の病気を案じて娘が一緒に寝るのを遠慮する。ガンが転移した骨が痛んで娘を抱いて眠ることもできない。」と。

5月27日に発売された13年ぶりのフルアルバム「K」を聴いている。(セルフ・ライナーノーツも読んで欲しい)ロッカーのCDではない、「川村カオリ」のCDだ。全て彼女の詞で、楽曲提供者には浅井健一、片寄明人、鈴木祥子、布袋寅泰、渡辺俊美、など豪華アーティスト、もちろん吉川晃司も!彼の書いた「LOVE REAL ACTION」はデュエット曲でやっぱり吉川節だけど、川村カオリの歌声を輝かせるカッコイイ曲。彼女も「一番楽しくできた」と書いていた。吉川からのメッセージは「吉川作ってみました。詞、カオリの等身大の声を 言葉を 待っています。」やさしい。
彼女のデビュー曲「ZOO」がセルフカバーで入っていて、初回限定で同梱されていた「ZOO」のPVを何度も何度も観た。ソファの横たわる川村カオリ、その後ろの壁に大きく映し出されるのは21年前に「ZOO」を歌う彼女。
「愛をください、って歌っているけど、実は「愛をあげたい」って気持ちで歌っている」メイキングの中でそう言っていた。
最後の曲は「LIFE」。何も言うことはないけど、これだけ。このメッセージがついていたことだけ。

「みなさんが自分の生きる道とそして幸せの為に一日一日大切に生きてくれる事を願ってやみません。」

THIS IS MY LIFE ......

THIS IS YOUR LIFE TOO........


7月1日、ブログでガンの新たな転移が見つかったことが報告された。活動を休止して治療に専念すると書かれていた。 

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