スポーツ観戦は「高級な趣味」に?

ことしも国内のJリーグが開幕し、基本「春~秋」制の日本のスポーツはシーズンインとなりましたが、楽しんでおられますか?

プロ野球にしろ、サッカーにしろ、一部のいわゆる「熱血サポーター」以外の方は、ホームゲームを見に行ったり、都市圏であればその範疇でスタジアム観戦をされ、またはTVなどの中継を観る方がほとんどでしょう。
しかし、いわゆる「無料放送」の地上波TVからはスポーツ全般の中継が減少してきている。考えられる理由はいろいろあるのでしょうが、やはり裾野のファンを増やすには、「誰もが目に触れられる環境」が必要なはず。しかしスポーツ番組の視聴率はあまり取れないという話も聞く。

なぜ、このような事になったのか考えられる要因を上げてみよう
①個人の趣味や価値観が多様化しているため、時間やお金をかける趣味やエンターテイメントへの選択肢が増え、スポーツエンターテイメントを楽しむファン数が減少してるのではないか
②TV局の運営が昨今厳しいなか、制作人数や機材設営など多くの手間がかかるスポーツ中継は、採算が取りにくいのではないか
③各種目のスポーツエンターテイメント運営が放送等の権利料を高騰させていて、有料チャンネルや配信が主流になってきている
④各競技のコアなファン層は対戦カードの選択肢が増えるなど大きなメリットがあるが、有料サービスのため一般の方が目にする事はほとんどない
⑤TV放映時(制作時)や権利関係の制約が厳しくなり、参入するスポンサーも大手以外は難しい要件が増えてしまった
⑥スポーツ運営団体は高利益化構造となり、参加チームへの分配も増加している一方、広告料やTV放映権、入場料の高騰になり、スポーツを観るか観ないか程度のファン層にとっては敷居が非常に高くなった

モータースポーツの最高峰といえる FORMULA ONE (以下F1)について考察してみよう。
日本でのF1人気が高まったのは1987年からといってよい。それまでも1976年と1977年に富士スピートウェイでF1開催はあったが、死亡事故もありこの2年で中止。その後TVではTBSがダイジェスト形式でF1選手権の様子を放映していた。当時TBS系列はモータースポーツ中継が活発で、国内のF2なども中継していた。
その流れが変わったのが1987年。フジTV系列がF1シリーズ全戦放映(おもに深夜帯でしたが)を開始。そして日本人発のレギュラーF1ドライバー・中嶋悟選手の参戦、HONDAエンジンが当時はF1界を席捲していた時代。
そして鈴鹿サーキットでの10年ぶりの日本F1開催。そしてバブル経済期。
すべての条件が整ったといえた。

当時はサーキット開催権のみ統括団体が管理していたから、サーキットの広告もそこに通常出している企業はTV放映に映し出される。チームスポンサーになれば、レーシングスーツや車体にロゴが掲示されこれも放映されるし、TVCFもマシンの走行時の映像や画像を扱う事には敷居が低かった時代。
EPSONやPIAAなどのTVCFでますますF1が巷に情報発信される。そして1988年には日本人がF1チーム買収してオーナーとなったレイトンハウス・マーチが大活躍。それよりもHONDAエンジンを積んだマクラーレンが16戦15勝の圧倒的勝利。ドライバーのアイルトン・セナもTVCFで話題になり、のちにはTVのエンターテイメント番組に出演するほど、人気が高まった。

21世紀に入り、HONDAが再度エンジン供給からチーム買収してオールHONDAチームを作り、またTOYOTAもエンジン・シャシーとも独自開発のチームで参戦し、F1ドライバーもニューエイジの佐藤琢磨・中嶋一貴・小林可夢偉など表彰台にのる活躍を見せた事もあったが、成績の波が大きく長期継続参戦に至らなかった。
2006年には鈴木亜久里が主催するSUPER AGURIを作り参戦するが、スポンサーが付かず、またスポンサーの契約不履行などもあり、2008年5月に資金がショートして撤退。またこの年はリーマンショックという世界的な株価下落、金融不安がおこり、HONDAはこの年で参戦終了。TOYOTAは2009年も参戦継続するも優勝するという結果が出せずに2009年末でF1撤退。
2011年にはフジTVが地上波での放映を終了し、以降は有料CSチャンネルのみの放映となった。

この間にF1興行のマネジメントは大きく変化した。
F1開催希望国が多くあり、フォーミュラ・ワン・マネジメント(以下FOM)
は各サーキットへの開催権料を大幅に引き上げた。開催サーキットも開催時はすべてF1が貸し切る、という内容に変化し、いつも広告を掲げているスポンサーの看板を白く隠し、FOMが契約したメガスポンサーだけがサーキット内の広告掲示が出来るようになる。TVCFも基本F1カーの走行シーンは権利料が高くなり、以前のようなTVCFを作る事は到底できなくなった。これで日本企業はF1チームへのスポンサードのメリットはほとんど無くなってしまった。
TV放映も今やすべてF1が映像制作を担当し、それをTV局に放映権利を売るというスタイルに変化し、基本中継局の独自カメラ映像は使えなくなった。
サーキットの入場料も開催権料が大幅に高騰したため、当然チケットは高額になる。F1は「パドッククラブ」なるセレブ向けのサービスを展開し、これが売り切れるありさま。お金のあるところは無くならない、一般人には無縁のサービス。これもF1に高利益をもたらす。

いまやF1ビジネスは統括団体と参加しているチームにのみ「高利益」を生み出しているのであって、それ以外には利益をもたらさないのだ。
これは一部上場の優良企業のみ、高い業績を上げるが、庶民には見返りが反映されず、経済格差が開く一方なのと同様の構図である。多少表現が乱暴なるが、FOMはサーキットに観客が入らなくても、別に困らない収益構造(チケット料は開催サーキットの利益)になっているのだ。

利益は統括団体に偏り、チームはその恩恵を受けるために資産としての価値はウナギのぼり。かつてのような貧乏チームは存在しなくなりつつある。
その利益を支えているのは、サーキットやいち個人のファンである。
高いチケットを買わなければ観る事ができず、放映を観るにしても有料サービス契約しないと観る事ができない。

日本のサッカーもDAZNが大型独占契約をしたことで、各チームへの分配金は増加しているが、それ恩恵を受けるのはトップカテゴリーがほとんど。
DAZNのおかげで、TV放映は一般の人たちからは観る機会が減ったといえる面もあるだろう。また地上波TV放送からの利用者離れもあり、TV業界が大変なことも理解できなくはないが、チケットの高騰が起きない事を我々は祈るしかない。スポーツは一部熱狂的なファンのものでは、本来ないのだ。



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