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学生帽から思いを馳せて

ある朝、駅に向かって急ぐ人たちを見ていて思った。
学生帽がないなあと。
そうだ、最近は学生帽を見かけることが少なくなった。
僕の生活する範囲では、皆無と言ってもいいかも知れない。
それも、そうだろう。
学生帽の下は、普通は詰襟だ。
その詰襟が減ってきてきているのだから、学生帽も減っていく。

ぼくが中高を過ごした1970年代は、男子の制服は詰襟に学生帽が普通の時代。
当時は漫画の登場人物も詰襟に学生帽だった。
「夕焼け番長」の赤城忠治。
「ハリスの旋風」の石田国松。
「ど根性ガエル」のゴリライモ。

せいぜい、黒ではなくて紺色がいいなあとか、学習院のように前がジッパーになってるのは格好いいなあとか、その程度。

若い人からすると、おしゃれができなくてかわいそうと思うかもしれない。
しかし、その決められた制服でも、みんなそれなりに頑張っていた。
学生帽の前を潰してハンチングみたいにかぶる奴。
後ろを潰してベレー帽みたいにしている奴。
庇を斜めにして、花形満の前髪みたいにしている奴。
僕なんかは、隣町の帽子屋で、あのモコモコした生地ではなくて、ツルッとした生地の学生帽を見つけて、それが気に入ってかぶり続けていた。

学生服もそうだ。
ズボンはボンタン。
僕のところでは、ボンタと呼んでいた。
スリータックやフォータックのダブっとしたやつだ。
高校に入ったころに、「嗚呼!花の応援団」のヒットもあり、学ランが流行?した。
さすがにあんな長ランは、応援団くらいしか着ていなかったが。
僕たちは、普通の?中ランだ。
中ランとは、ノーマルな学生服よりも少し丈の長い、学ラン。
僕たち野球部は、そんな学ランでも既製服ではなくて、テーラーであつらえていた。
そもそも学ランに既製服があるのも変な話ではあるけれども。

店に行くと、まず生地を選ぶ。
カラーの高さを指定する。
裏には朱糸で刺繍が入る。
「〇〇高等学校硬式野球部
 マー君」
仮縫いの時には、もうすっかり大人の気分だ。

そして、出来上がった学ランの胸ポケットにはキキララの櫛をさして歩いた。
丸坊主のくせに。
( それを見て、きゃーかわいいと反応してくれる女子もいたのです )

それらは、丸坊主や制服に閉じ込められた青春の、ささやかな抵抗であったのかも知れない。

そんな学ランもとんと見なくなった。
六大学や高校野球の応援団くらいだろうか。

今ではブレザータイプのものがほとんどだろう。
それに、最近の中高生は、甲子園で優勝した慶応ナインのように爽やかだ。
それは、それでいいことなのだろう。
ただ、そんな爽やかな生徒の中にも、ヤンチャな奴は昔と同じようにいるはずだ。
昔のヤンチャは、ひと目でそれとわかる格好をしていた。
今の若い子を見ても、おじさんにはその区別が難しい。
本当に悪い奴の姿が、これは子供に限らず、様々な権利を盾にして見えなくなってきた。
それも、みんなの望んだ姿なら、仕方のないことかもしれないが。

もちろん、俺たちの頃はそれでやってきたんだと言うことではない。
時代を逆戻りさせようなどと考えているのでもない。
むしろ逆だ。
制服がいつまでも残り続けるのはなぜなのか。
ブレザーであれ、一流デザイナーによるどんなにオシャレなものであっても、制服は制服だ。
もちろん、制服のない学校も増えてはいるが、まだまだ一部ではないだろうか。

そもそも何故制服を着なければならないのか。
多分、自衛隊や警察、一部のサービス業でもない限り、何故丸坊主なのかと問われた時と同じような回答しか出てこないだろう。
貧富の差をなくすためと言われるかもしれないが、それはむしろ貧富の差を制服で押し隠しているだけではないのか。
それに貧富の差というのなら、髪型もそうだ。
お金のある子は高級な美容室に行けるが、お金のない子は美容室にも行けない。
その髪型が自由であれと言うのなら、服装もそうであって然るべきだと思うのだけれど。

中高生の制服だけではない。
リクルートスーツもそうだ。
あれも、同調圧力と言う名の制服の一種ではないか。
大学は自由だなんだと言いながら、結局は建前に過ぎないことが、これでわかる。
大学がそうしなさいと、就職する学生に教えているのだから。

いつまであんなものを着せ続けるつもりなのだろうか。
おそらく、企業側が、面接にはスーツ以外の私服で来てくださいとでも言わない限り、なくなることはないだろう。
先日も企業の内定式の様子が流れていたが、どこの国の集まりだ思ってしまう。
まるで国民服のようにみんな同じいろのスーツ。
いろいろな権利、多様性が叫ばれているなかで、どうしてあのようなものが許容されているのか。
僕は不思議でならない。
この国には、まだまだ考えなおすべきことがたくさんある。

制服というと、松田聖子の「制服」を思い浮かべる人が多いかもしれない。
しかし、ここは、吉田拓郎の「制服」で。
昭和の香りぷんぷんの歌ですよ。

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