マー君、まかれるの巻 # 絶望のメリークリスマス
時は1980年代初め。
僕は大学3年生だった。
大学も冬休みに入り、帰省する者はもう帰っていた。
そんななかで、いまだに下宿やアパートでうだうだしている奴、実家でのんべんだらりと過ごしている奴、そんなヤロウども、メロウどもが集まってクリスマスに飲もうぜとなった。
決してパーティーなんかではないが。
なんだかんだで、10人くらいは集まっただろうか。
夕方、大学に近い駅前に集まったのはいいが、誰も店を予約していない。
誰が言い出したのか、下高井戸まで移動した。
駅前の数軒を覗くが、なかなかその人数の席が空いていない。
そりゃ、クリスマスだ。
あたりも結構ごった返している。
「俺たちはここで待ってるから、お前ら探して来いよ」と後輩数人で探しに行かせた。
そして、僕は、どこかの壁の段差に腰を下ろして、煙草に火をつけた。
煙草の吸い殻は、足元にひとつふたつと増えていく。
隣に座った奴と、「おせえなあ」とぼやいていた。
いつの間にか、足元には、張り込み中の刑事のように吸い殻が散らばっている。
「まだかよ」
返事がない。
ちなみに、その頃の僕は、東京では関東弁を話していた。
新幹線に乗って、関ヶ原の向こうとこっちで、関西弁と切り替える。
「まだかよ」
繰り返すが返事がない。
隣を見ると、さっきまで座っていた奴がいない。
振り返ると、誰もいない。
立ち上がって、見回すが、誰も見えない。
通り過ぎるのは、知らない人ばかり。
孤独だと思った。
もちろん、その頃はまだ携帯なんか未来の道具だ。
ジングルベルの流れる通りを、何周もしてみるが、もう誰の姿も見えなかった。
え?
これって、放置?
まかれた?
俺って、もしかして、嫌われてる?
そんな思いを抱えながら、諦めて帰る。
下宿近くの店で、ひとりで飲んだ。
煮込みとビールのクリスマス。
下宿に帰ると、大家さんが、
「何度も友だちから電話がかかってたよ」
よかった、僕は嫌われてなかった。
そのあと、数人があらためて飲み会を開いてくれたのだった。
こちらの企画に勝手に参加させていただきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?