見出し画像

高校野球がデスマッチだった頃

世間はオリンピックで盛り上がっているが、またまた高校野球の記事でごめんなさい。

高校野球と言えば、延長戦。
延長戦と言えば、高校野球。
しかし、今は10回から、ノーアウト一塁二塁でスタートするタイブレーク制が導入されている。
こうなると、実力ではなく運に近いので、いっそジャンケンでもいいのではと僕は思っている。

この延長戦、1915年に第1回全国中等学校優勝野球大会として開催された当初は、何回までの規定はなかった。
つまり、決着がつくまでやるデスマッチ。

昭和8年、1933年の全国中等学校優勝野球大会(現在の全国高等学校野球選手権大会)、準決勝第二試合、中京商(現中京大中京)対明石中(現兵庫県立明石高校)の試合は、延長25回の大会最長記録となった。

史上初の3連覇がかかる中京商。
エースの吉田は、一回戦でノーヒットノーランを達成した好投手。
一方の明石中のエースは楠本。
それまでの3試合で24イニングを投げて、奪三振38、失点0。
しかも、春の選抜では準決勝で中京商を3安打完封している。
しかし、楠本は大きく体調を崩しており、この日先発したのは二番手の中田。

午後1時10分に始まった試合は、両投手の好投で投手戦となった。
9回表までで、中京商は安打0、明石中はわずかに1本。

9回裏、中京商はノーアウト、ランナー二、三塁とサヨナラのチャンスを迎える。
明石中は次の打者を敬遠して満塁策をとる。
誰もが試合終了を予想した筈だ。
しかし、続く打者の打球は快音の残すがピッチャー中田のグラブへ。
中田は落ち着いて、飛び出していた三塁ランナーを併殺。
続く打者も三塁ゴロに打ち取り、試合は延長線に。

その後、両校チャンスは作るものの決定打が出ずに、スコアボードには0が並ぶ。
15回あたりからは、観客も静まり返り試合の行方をじっと見守っていたという。
17回からは、スコアボードが足りなくなり、「0」の表示を人が手で持っていた。
この試合は、ラジオ中継されていたが、アナウンサーの高野国本が1人で担当した。
途中他のアナウンサーが交代を申し出るも、「選手が頑張っているのに、自分が交代する訳には行かない」と頭に鉢巻きをして実況を続けたという。
まさに昭和の魂だ。

そして迎えた運命の25回裏。
中京商はノーアウト満塁のチャンス迎える。
バックホームに備えて明石中の内野は前進守備。
中京商の打順は一番に戻る。
ツーストライクからの打球はセカンドゴロ。
三塁ランナーがホームに突っ込む。
一瞬ランナーが目に入ったか、しっかりと捕球できないままにセカンドはバックホーム。
焦った送球は一塁方向に大きく逸れた。
試合終了を告げる高野アナ。
「あっ。セーフ、ホームイン、ホームイン。ゲームセット、ゲームセット。6時3、6時4分。遂に延長25回1アルファ対0。満塁の時の、大野木君のセカンドゴロ、セカンドバックホーム致しましたが、歴史的この大試合、遂に中京勝ったのでございます。1アルファ対0、1アルファ対0」
史上初の甲子園夏3連覇の瞬間。
そして、未だに3連覇を果たした高校は他にない。

試合時間は4時間55分。
名古屋でこの試合の中継を途中まで聞き、東海道本戦で大阪駅に着いた人が、ラジオ放送の音声を耳にして「まだ続いているのか」と驚いたという。
当時、名古屋〜大阪間は約3時間かかっていた。
今なら、5時間あれば東京〜大阪を往復できる。

中京商吉田は336球、明石中中田は247球で共に完投。
20回を越えた時に大会本部は両校に試合中断を打診。
答えは両校ともに「相手がやめないのなら、うちもやめない」
しかし、大会本部は勝負がつかなくても25回で打ち切ると決定していた。

この試合の後も、無制限の時代は続き、延長戦が18回までとなったのは1958年。
この年の春季四国大会で、徳島商の坂東英二が対高知戦で延長16回、翌日の対高松商戦で延長25回を、いずれも完投。
これを見た高野連は、急遽その夏の第40回大会から「延長18回を終えて同点引き分けの場合はその時点で試合を終了し、後日再試合を行う」とルールを制定した。
そしてこのルールが初めて適用されたのが、その第40回大会の準々決勝、徳島商対魚津高戦。
もちろん、徳島商の投手は坂東英二だった。
坂東英二、すごい人やったんやなあ。

延長戦のルールは、その後2000年からは15回までに、そして2018年からタイブレークが導入されている。
タイブレークは当初は13回からだったが、2023年からは10回からとなった。

高校野球の楽しみ方も変わってきている。
死闘、激闘の時代は遠くなりつつある。
練習で泣いて試合で笑えなんてのも、もう古い。
練習で笑って試合でも笑う。
勝っても負けても笑顔、笑顔。
そんな高校生の姿を楽しむのが、新しい高校野球観戦だ。

過去のものになるかもしれない延長戦での名勝負。
機会があれば、また書いていきたい。
とりあえずは、こちらの記事もどうぞ。

※タイトル画像はWikipediaから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?