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その家は終の住処ですか?

先日テレビを見ていると、タレントが東京都内で家を探すのを密着取材するようなバラエティー番組があった。
そのタレント本人と司会者、コメンテーターのタレントに加えて、不動産の専門家が数名、何とかコーディネーターとか、何とかコンサルタントとか。

紹介される物件は、港区や皇居が見えるような場所の、まあ真っ当に生きていれば?絶対に買えないような物件ばかりだ。
内装も広く豪華で、もうため息も出ない。
もちろん、こんな時庶民はこう言う。
「こんな家、掃除が大変やで」
本当は「こんな家」に住む人は掃除も人に任せられるような人なのだろうけれども。
そのタレントは最近売れてきて、少し前に結婚して子供もいる。
充分稼いでいるのだから、頑張って買えるのなら、買えばいい。
その素敵な部屋で、家族で楽しく暮らせばいいのだ。

しかし、専門家から出てくるのは、
「この物件は、これから資産価値が上がりますよ」
「このあたりは、これからも地価がどんどん上がっていくと言われています」
そんな話ばっかりだ。
そこで暮らせばこんないいことがありますよ。
こんなに便利ですよ。
ここなら、子供が増えても困ることはありませんよ。
そんな話は一切出てこない。

普通の人、つまり売れっ子芸能人でもなく、IT系の社長でもなく、日々、スーパーの特売をチェックし、スマホ決済のクーポンが出れば逃さず使い、7の日にはセブンイレブンに、5と8の日にはauペイで支払い、ポイントをせっせとためているような普通の人は、生涯に何回家を買うのだろうか。
はっきりしたデータは出てこなかったので、周りの状況からの推測でしかないが、ほとんどの人は1回、せいぜい2回くらいではないだろうか。
人生で1回、あるいは2回目で、自分や家族がこの先も住み続ける家、つまり終の住処を購入するのだ。
僕の実家は、父が2回目に買った家だ。
僕の家は、僕が30代の時に買って、恐らくここが終の住処となる。
そんな人にとっては、そこの地価が上がろうが下がろうがはっきり言って関係ない。
それよりも、問題になるのは生活のしやすさだ。
むしろ、地価が上がれば、固定資産税も上がるし、相続税も上がるし、ひとつもいいことはない。
僕は専門家ではないので、それくらいしか思い浮かばないが、何かいいことはあるのだろうか。

地価が上がるということは、そこが住みやすくなっていることの反映だとする意見もあるようだけれども、そうだろうか。
銀座の一等地がとても住みやすいとは思えない。

銀座と言えば、鳩居堂の11代目の社長が、相続税の負担を苦にして自殺するということがあった。
当時は、バブル前夜。
他にも、相続税が払えずに、同じように自殺をしたり、土地家屋を売り払って自分たちはアパート暮らしをしている、そんな話はいくつもあった。
相続税は必要なのだろうけれども、人が死ぬような法律はいかがなものか。
その後、改善はされたのだろうか。

先ほどのテレビ番組の専門家たちは、人の住む住宅を投資対象としか考えていないのだろう。
だから、普通なら出てくるはずの、
「ここは交通のべんも良くて買い物も便利ですよ」
「小学校、病院も近くにあります」
そんな話はひとつも出てこなかったのだ。
あの人たちは、もしこれがテレビドラマなら、法律すれすれで金儲けする、ちょっとイライラする役回りだ。
いやいや、あの人たちはあれで生活をしておられる。
別に法を犯しているわけでもない。
たかがバラエティー番組のネタに、いちいち目くじらを立てる必要もないが、でも、何か違うような気がする。

最近は、どう見たって、はなから投資目的での購入をあてにしているようなマンションもある。
ただでさえ、空き家が問題になっている昨今。
そんな誰も住まない物件を作ってどうするのだろうか。
あと50年もすれば、人口減少も重なり、空き家に空きマンションがゴロゴロ、もしかすると本当にゴロゴロ倒れている、そんな光景が目に浮かぶ。
一度も住まわれることのなかったマンションが、皇居に向かって倒れていく。
資本主義なので、政府がコントロールするのもおかしな話かもしれないが、そうであれば、これが資本主義の限界というものなのかもしれない。

今朝NHKでこんなニュースがあった。
「晴海フラッグ 法人所有4分の1以上の街区も 投資目的の実態は」
東京都の担当部長は、
「現在のような投資目的で多数の部屋が買われるような状況は想定できず、販売において制限は設けていなかった。急激に状況が変化したと捉えている」
そんなことはない。
計画当初から懸念されていたはずだ。
この発言が本当なら、この人は間違いなく適任ではない。

とにかく僕は今の家で過ごしていく。
僕と妻の後は、娘のものになるが、娘がどうするのか。
それは知ったこっちゃない。
せいぜい処分しやすいように、中のものは少なくしておいてやろう。
でも、何かサプライズも仕掛けておきたいなあ。
違うか。

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