小説こころ⑪ 打ち上げ

 小説こころ⑪ 打ち上げ
 
 ライブの熱気が終わり、僕らはいつもの練習倉庫に引き上げてきた。車には三人と、観にきてくれたアヤ、そして謎の男が座っていた。
 
「ってか誰?」
とみんなが驚きながらその男を見る。
「実は俺がこっそり呼んだ、大学時代の軽音楽部の先輩なんだ」
 
「俺がいなくなってからのぺガすずのプロデュースをお願いしようと思ってさ」
「いや~観させてもらったけど良かったよ。けっこうプロ意識高いね」
そうなのだ。リカもマドカもプロ意識が高い。
「こちらの美女はどなた?」
「俺がお世話になっているメンクリの臨床心理士のアヤです。ライブ観に来てもらったんだ」
「そうでしたか。俺も病院の外で個人的にカウンセリングしてもらおっかな。個人的だと料金はいくら?」
「15分3000円です」
「一時間で12000円か!高いな!」
「ふふ、冗談ですよ」
 
 
 それから僕たちは本番では時間の都合で泣く泣く引っ込めたS.T.U.Dを二人のオーディエンスの前で披露した。熱いロックが夜の倉庫に響き渡る。
 
「よし最後のミーティングだ。君たちは最高だった。これからもがんばれよ!じゃあ最後にS.T.U.Dを唱和するよ、はいS!」
 僕らは人生の指針をSからDまで三人で唱和した。
「よし、オーケーだ。先輩は俺より全然音楽に詳しいから安心して大丈夫だ。はったりでも胸を張って行ってこい!元気でな」
「達也も元気で」
 
「では先輩、後は頼みましたよ」
「おう」
 
 僕らは思い出の倉庫を後にした。アヤは先輩が車で送って行ってくれるとのことだった。
「それじゃあアヤ、今までお世話になりました。元気でね」
「あなたもまたいつでもカウンセリングにきてね」
 
 僕はみんなに手を振り、その数日後に町を出た。
 
 潮風が吹くこの町では、今も音楽が鳴り止まないと言う。
 
 エンディングテーマB’z「さよならなんかは言わせない」
 
 
 
 
 
 完
 

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