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♯︎5 【お惣菜屋のつぶやき】初心に戻るお手紙

惣菜屋をスタートさせたとき、私は自分の作る料理に自信を持つことができませんでした。それまで自由に作ってきたお料理も、お友達は美味しいと褒めてくれていたけど、お店を出してお客様からお金をいただくとなると急に「完璧なもの」を出さないといけない気がして、怖くなってしまったのです。
もし美味しくないって思われたらどうしよう、たくさん食べ残してたらどうしよう。お食事のペースがゆっくりのお客様がいたら、おくちに合わなかったのかも・・・なんていちいち心配になってしまうので、お食事されているお客様の様子をまともに見ることができませんでした。

自信を持てなくても、それでもお店を初めた以上は毎日必死に作るしかなくて、慣れない厨房で肩に力を入れまくって、いろいろな料理を作り続けていました。休憩するタイミングもわからなくて、定休日も仕込みをしないと間に合わなくて、体力的にも精神的にもしんどくて・・・「え、こんなに大変だったなんて。続けられるのかな・・・」なんて不安でいっぱいだったあの頃。

そんなある日、お客様の食べ終えた食器を片付けていると、お皿の横に小さな紙が添えてありました。見ると、お客様からのこんなメッセージ。


お手紙くださった方、勝手に公開してごめんなさい。私の宝物です

この手紙を読んだとき、厨房で泣きました。私の料理に満足してくれて、その気持ちをわざわざ紙に書いて伝えてくれたことが嬉しくて嬉しくて。直接お礼を言いたかったけど、この手紙に気づいたとき、お客様はもうすでに帰られていました。

このお手紙で、私はひとつ覚悟が決まった気がします。私の作る料理は、100人中100人を満足させることはできないかもしれないけど、こんな風に「気持ちがすっきりした」と言ってくださる方がいる。私が美味しいと思うものを、美味しいと感じてくれる人たちのために、自信をもって作って行こう。
このお手紙は今も厨房の冷蔵庫に貼っていて、初心を忘れないための大切な役目を果たしてくれています。

お店をやっていると、食後に「おいしかったです」とか「今度友達連れてきます」とか、感想を伝えてくれるお客様がいらっしゃいます。これは本当に、嬉しいし、ありがたい。おそらく皆様が思っている以上に、ものすごく大きなパワーをもらえます。

この場を借りて・・・お声をかけてくださるお客様も、心の中で「美味しかった」と思ってくれたお客様も、本当にありがとうございます。
そしてお手紙をくださったお客様、おかげさまでお店も6年目です。直接お礼を伝えたいです。この気持ちが、どうか届きますように・・・!



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