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【通信販売・私論】価格決定権を持ち続けるために必要なこと

中小企業の経営を行う上で「価格決定権」を持っているか否か、という観点で語られることがあります。価格決定権とはその言葉通り、自社の商品の価格を自社が自らの意思決定で決められるということです。中小企業の多くは競争力が乏しいことが多いことから、下請けであったり、小売業においても大規模小売店との価格競争において劣位になりがちだと考えられています。
では私が携わってきた通信販売の価格決定権はどうであったか、について今日は振り返ってみたいと思います。

通信販売は価格決定権を持てるビジネスか?

試しに今話題のchatGPTに聞いてみました。

質問の仕方によって変わるとは思いますが、上記の質問に対しては「通信販売は価格決定権を有している」との回答が得られました。

ある意味上記の回答で、今回のテーマは終わってしまったとも言えますw
しかし私の振り返りということもあるので、このままもうしばらく続けることに致します。

私は学生向けのリクルートサイトや会社説明会などで、自社のことを次のように説明していました。

「我が社は通販業界、健康関連商品業界におけるSPAモデルです」

SPAとは日本語でいうところの製造小売業を意味しており、ユニクロに代表されるビジネスモデルで、小売業が自社で商品企画を行ない、製造可能なメーカーに生産を委託して自社で直接顧客に販売するというものです。

前職の会社では、基本的には自社で商品企画を行ない、時にはメーカーと共同で企画開発して自社オリジナルの商品を作り、自社の販売ルートのみで市場に直接販売するという方式を取っていました。これは自社に限らず、多くの通販企業もそうであったと思います。健康食品で言うならば〇〇の青汁とか、〇〇のにんにく卵黄とか、同じ商品であったとしても、ブランドとしてはそれぞれが自社ブランドで販売し、価格も各社が自社で意志で値付けをしています。

全くの同一ブランドで価格競争をするのではなく、各社がそれぞれに特徴を出して差別化し価格勝負だけでなく品質やサービスといった価格ではない特徴を競い合うという事例が多いと認識しています。

同一ブランドを仕入れて利益を削って安く販売する通販を行なう会社もありますが、安さを売りにする通販では、安さを求める顧客が集まります。そうした顧客層は他にもっと安い価格を提供する事業者を見つけたら、そちらに流れてしまう傾向が強く、いわゆる自社リストとしての資産になりにくい。

私は通信販売の強みはリストの強みという定義をしていますので、価格訴求の商売には基本踏み込みませんでした。

つまりは、価格決定権を自社でしっかりと握れるビジネスモデルを追求してきたということになります。そしてそのモデルは通信販売では可能である。というよりもむしろ通信販売こそ価格決定権を持つことができる。そして中小企業、零細企業であったとしてもその可能性が非常に高い領域であると考えていました。

学生向けにこうした話をすると、結構受けがよかったのです。なんとなく参加してみましたという学生であっても、利益率が高い企業でその裏付けも理解できたとなると、実際に選考に進んでくれる人は多かったのです。

これは学生に限らず、異業種の友人などに話したとしても「目から鱗」に感じることが多かったようで、通信販売が実はそうしたモデルでもあったと知って驚かれることが多々ありました。

もちろんその価格で実際に購入してくれるお客様がいてこそ成り立つモデルでもあります。価格決定権を持っていたとしても、その価格で誰も買ってくれなければ意味がありません。

そこで大事になってくるのが、先にもちょっと書きましたが「リスト」となります。私は価格決定権を発揮させる裏付けとして、自社リストをしっかりと構築させるということを、ビジネスの両輪として認識し、そして実行してきました。

リストがあるということ

自社の顧客リストがあるということは、一定の販売力を有するということです。自社から過去に購入経験のある人は新規の人よりも購入いただける可能性は高くなります。一度買った実績というのは非常に大きい。

もちろん初回購入時に何かしらの不満や疑問を感じた方はそうはなりませんが、一定の満足感を感じた方であれば、顧客として今後も購入していただける確率は高くなります。実際にリストを定義する場合は、購入回数(業界的にはフリークエンシーとして定量分析します)が多ければ多いほど常連さんと位置づけることができますので、その確率は上がっていきます。そしてその常連さんの比率が多ければ多いほど、自社のファンとも言い換えられますので、通販会社としての販売力も高まります。

つまりリストがあるということは、価格競争に巻き込まれることなく自社の価格決定権を発揮しやすくなるのです。しかしその商品が提供する価値に見合わない高価格であったり、逆に品質が疑わしく感じられるような低価格では買っていただくことはできません。その辺を見極める値付けスキルは必要です。
しかし、安さだけの訴求以外の価格設定をしやすくなるのは確かです。

通信販売会社が価格決定権を有する、そして維持し続けるためには自社リストを構築し、そのリストの顧客数を増やしていくということが大切であるということは間違いないと私は思っています。

価格以外の価値を提供する

価格決定権を有するということは、売り手としては安売りせずに出来れば高い値付けを可能にしたいということでもあります。お客様に少しでも安く販売するというのも、企業のひとつの戦略ではありますが、利益を削ってギリギリで経営するとなると会社としては正直苦しい。高い品質やお客様へのサービスを維持するためには、社員の賃金水準も考慮しなければならないし、人材育成にも投資が必要です。そもそも利益を出せずに破綻してしまうのも、ファンとなってくれたお客様に対する裏切りとも言えるわけです。そのためには他社との価格競争に出来るだけ飲み込まれることなく、適正な利益水準を維持することは欠かせません。そのための価格決定権でもあるのです。

しかしその権利を維持するためには、お客様にとっての価値をきちんと提供しなければならない。お客様が求める価値とは何かを考え、商品スペックやサービスに活かし、その情報や使い方を提供してご満足いただくための努力は必要です。

そのためには「安さ」だけではないお客様の求める価値をどのように会社全体で調べ、分析し、仮説を立てて、商品や広告を作りお客様に問いかけ続けていくことが大事になります。過去にも繰り返し述べてきましたが、テストマーケティングを繰り返すことの必要性はここに起因しているわけです。

お客様が何に不満を感じ、どんな状態を解決し、そして解決した後に叶えたい望みはなにか。商品の機能を高めることも大事ですが、その機能が果たしてそのお客様の叶えたい望みの実現にどのように働くのかを伝えることが大切だと思うのです。

「高機能になりました」「新しい素材・技術を用いています」といった言葉で語るスペックの向上は売り手、作り手からすれば、ぜひ伝えたい価値ではありますが、肝心の消費者がそれを求めているかどうかは別です。機能が向上したことで、結局自分の望みにどのように役立つかが伝わらなければ買ってはいただけませんし、どんなに高機能でもご満足いただけないのです。

言い換えれば、お客様の望みにどう役立つかを分かりやすく伝えて興味を持っていただくことに力を注ぐことが大事だと思います。このアプローチを丁寧に行なうことも、価格決定権を生かした通信販売の強みにすることができると思います。


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