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経営指標、一人当たり売上高の考え方

経営者は企業経営をするにあたって、様々な指標に囲まれています。売上高や経常利益率といった基本的なものもあれば、資本や生産性、収益性などの用途によってより細かな指標がたくさん存在しています。
大きな会社、上場企業、または複数の出資者がいる会社などでは、こうした指標に基づき高度な経営判断をしていることと思いますが、社員数十人の中小零細非上場オーナー企業では、実際にそこまで細かくみているわけではないと思います。
今日はそんな経営指標について振り返ってみたいと思います。


私を取り巻く経営環境について

私はまさに社員数(パート従業員含めて)40人余りの非上場中小企業の雇われ社長という立場でした。また財務については銀行からの融資も基本的には受けることなく、他に出資者もいないという状況。将来的に上場を目指す方針もありませんでした。そのため、売上の推移と利益率が安定してさえいれば、特段問題になることはないという状況でした。

決算書類などをみれば数字としては様々な指標が自動的に示されていたりもするので、一応はそういう数字もみてはいましたが、幸いにも財務的にも経営的にも大崩れはしなかったこともあり、あまりリアリティのある数字として考える必然性も少なく、また誰かに明確に成果を示さなければならないという状況になることもなかったのです。

そんな環境であったこともあり、B/SやP/Lの基本的な数字を抑えていればよかったのです。その意味では恵まれていたかもしれません。

一人当たり売上高について

そんな状況ではありましたが、売上や利益額、利益率以外で追っかけていた指標はありました。
そのひとつが「一人当たり売上高」でした。

その名の通り、売上÷従業員数で割り出す数字です。従業員一人当たりいくらの売上を上げているかを示す指標であり、主に生産性を見極める指標とされています。

この数字は業界によって大きく異なります。
調べてみるとこんな一覧が出ていました。

出典:一人当たり売上高の計算式・業種別の目安をわかりやすく解説 (zaimani.com) 

石油石炭製品の1.6億円強に対して陸運は2.4千万と大きな開きがあります。
なので、一概に比較できるものではありません。
ちなみに私がいる通販業界については、その括りで資料を見つけることはできませんでした。
そこでいくつかの代表的な企業の売上と従業員数を検索して自分で計算してみました。

ベルーナ(総合通販)1.9億円
ジャパネットたかた(TV通販)1.7億円
新日本製薬(化粧品健康食品通販)1.1億円

各企業ページを基に坂田が作成

と軒並み1億円以上という数字が出てきました。
これは上記の業種別一覧に当てはめてみると、かなり高い数字の指標が出る業界と言えそうです。
もちろんもっと調べれば異なる数字の会社もたくさんあるとは思いますので、これが一般論でも定説でもないことはご理解ください。

しかしその一方で、実際に私自身も業界内では一人当たり1億円が目安という数字をよく耳にしていたものです。その根拠は?と聞いても余り明確な数字的根拠を聞くことはなかったので、結構いい加減な目安だと思っていたのですが、こうしてみるとまあまあ妥当な数字なのかもしれません。

そんなこともあり、私はこの一人当たり売上1億円というのを結構重要な指標として常に追っかけていたのは事実だったのです。

通販業界の一人当たり売上高が高い理由

ちょっと横道にそれますが、通販業界の生産性について触れておきます。

通販業界の一人当たり売上1億円という数字が確かであるとするならば、業界としては非常に生産性の高い業界に位置することになります。果たして実際にそうなのか?と聞かれたならば、私は「おそらく、その通りです」と答えることになります。

なぜか?

それは基本的には労働集約型の産業ではなく、敢えて言えば知識集約型の産業でないかと思うからです。

通販というのはひとつのヒット商品でヒット広告を生み出すことができると、一気に売上を伸ばすことができます。
なぜなら売上を増やすために必要なのは、人員数ではなく広告の出稿量に起因するからです。簡単に言えばヒット商品のあたり広告を作れれば、あとはその広告の出稿量を増やせば自動的に売上は増え続けるからです。そして多少乱暴な言い方ですが、出稿量を増やすために自社の人員を増やす必要がないのです。
ひとりの担当者が1週間に10本の広告を出稿するのと100本の広告を出稿することは業務量としては実はそんなに変わらない。つまり業務効率が高いのです。

もちろん受注数が増加すれば電話のオペレーターも出荷の梱包作業は比例して増えますが、そうした業務は外注先に委託しているケースが多いので固定費とはならない。

ブームが下火になれば広告出稿を減らし、業務委託を減らして対応するので社内の人員の増減に影響を与えることなく対応が可能なのです。

こうした背景が業界としての一人当たり売上高、即ち生産性を高めている一つの要因だと言えると私は認識しています。
通販業界を目指す人がいたら、参考にしてみてください。

一人当たり売上の活用

話を戻して、この指標をどのように活用したか?について記していきます。

ヒット商品が生まれると社員数を増やさずとも売上を伸ばすことができるのが通販業界です。例えば社員10人で10億円だった会社がヒット商品の誕生によって15億円、20億円と売上を伸ばせたとします。

確かに受注や出荷の労力は確かに増加しますが、経営としては業務量の増加は作業の効率化や外注の活用で対応する方向性を目指します。外注先が増えれば業務の難易度も相応に高くなるので、そこはきちんと対応していかなければならないことは言うまでもありません。サービス品質に与える影響は大きいからです。

しかしそれ以上に求められるのは次にヒット商品、ヒット広告を作るアイデアの創出なのです。

私の考えでは、アイデアの量は考える人の数に比例します。一人の人間が永遠によいアイデアを出し続けることはできないと思っています。そうすると次のアイデアのためには、考える人を増やさなければならないのです。だから人を採用する、という選択をしました。

たとえ優秀なアイデアマンでも、アイデアの源泉には限りがありますし、波もあります。絞れば絞る程その泉は枯れてしまう。枯れた泉をまた潤すには情報の再インプットという時間が必要なのです。その再インプットの時間を待っていては、新しい企画は停滞してしまう。だからその間に別のアイデアマンが必要になります。

アイデアマン(またはアイデアを出す社員)を増やすことで、ひとりひとりのアイデアの枯渇と波を吸収して、組織としてのアイデアの創出量を安定させる必要があるのです。しかしやみくもにアイデアマン、というか人員を増やせるわけでもないのも確か。

そんな時に一人当たり売上を指標に、何人増やすかを考えます。また増やした人材がアイデアマンとして成果を出せるようになるまでの育成時間も考慮します。

一人当たり1億円の売上を目安とした場合、10人の従業員で20億円まで業績が伸びたら、後は10人は増やせる計算になります。一気に10人採用するわけではないですが、20億円の売上を維持しながら、社員数を増やし、教育し、経験を積んでもらうことで、数年後に20人の従業員で売上20億円を維持(できればその上での増を期待)を目指します。そうするとアイデアを出す人が増えて、アイデア量も増えて次のヒット商品、ヒット広告を生み出す確率が上がる。そして実際にヒット企画を作ることで、今度は20人で25億、30億の売上を目指していく。
こんなサイクルを実行しました。

売上は少なくとも維持、或いは多少なりとも増やせているのであれば人員の増加には財務的には耐えられるのです。上手くやれれば余力を残しつつ組織を大きくできます。

社員としては業務量が増えれば人員の増強を求める声も高まります。しかし一方で人員ばかり増えてしまうと、それはそれで不安を招くものです。中小企業の場合は特にです。急速な社員像は業務の品質を落としかねませんし、企業文化が荒れてしまうケースも多々あります。また業績が悪化した場合に社員数が多過ぎるとしたら、今度は賃金カットやリストラのリスクが高まりかねないからです。
そんな不安に対して、一人当たり売上高のロジックを用いた説明が可能になります。

「一人当たり売上1億円は崩さずに出来ている、むしろ人員を増やさないと追いつかない」と。

その指標に沿って人材の採用と育成を行ない、余力を残してチャレンジを継続する。その継続によって次なるヒット商品を創出し、売上を伸ばしていく。

このサイクルは一人当たり売上という指標があったからこそ作り上げることができたと私は思っております。

2024年2月14日に関連記事をアップしましたので追記します。


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