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第54回全日本大学駅伝 備忘録

本日(2022/11/6)行われた第54回全日本大学駅伝対校選手権大会(熱田神宮西門前スタート~伊勢神宮内宮宇治橋前ゴール、8区間106・8㎞)を、テレビ観戦しました。備忘録としてレース展開と極私的寸評を残します。

戦前予想

大学駅伝開幕戦の出雲を制し、実力No.1の駒澤大学、主力の佐藤選手、岸本選手が復帰し、チーム力の上積みが期待される青山学院大学、学生トップクラスの強力な四本柱が揃い、着実に強豪校への階段を登っている國學院大学、スーパーエースを中心に戦力強化が著しい古豪の順天堂大学と中央大学、新興の東京国際大学と創価大学あたりが注目校です。地方勢では、二枚看板を擁する関西学院大学が関東勢の一角崩しを狙います。

1区(9.5㎞)熱田神宮~名古屋

前回8位までに入りシード権を持つ8校、各地区の予選を勝ち抜いた17校に、オープン参加(全日本学連選抜・東海学連選抜)の2チームを加えた全27チームが号砲とともに熱田神宮前をスタートしていきました。

スタート早々、優勝候補の一角、青山学院大学の目片選手が飛び出し、ハイペースで飛ばして集団を引き離します。レース後半になって大集団から抜け出したのは、大東文化大学の留学生、ワンジル選手で、先行する目方選手をスピードを上げて抜き去り、区間新記録で首位通過を果たしました。抜かれた目片選手も粘って10秒差の2位、3位には好調を伝えられた中央大学・千守選手が15秒差で続きました。駒澤大学は4年生の円選手が17秒差の4位と好位置で中継しました。

区間賞 ピーター・ワンジル(大東文化大②)26'58" 区間新

2区(11.1㎞)名古屋~桑名

学生長距離界でその名を知られる各校とっておきの実力者が顔を揃えました。豪華メンバーです。

先頭を行く大東文化大学・菊地選手を、区間中盤までに後半から追い上げてきた佐藤選手と創価大学のエース格、葛西選手がかわし、並走します。更にその後方からは、オリンピアンの順天堂大学・三浦選手、進境著しい中央大学・山平選手、早稲田大学の10000m27分台ランナー井川選手、中央学院大学のエース・吉田選手、明治大学の実力者・児玉選手らが一団となって追走します。

ここで誤算だったのは青山学院大学で、学生駅伝初登場の二年生・白石選手が精彩を欠き、序盤で後方から追い上げてきた集団に吸収されると、その後もズルズルと引き離され、区間16位、3区中継では2分11秒差の14位まで転落してしまいました。一昨年、昨年に続く二区のブレーキが響きます。

残り1㎞を切って、佐藤選手が引き離しにかかったものの、中継所手前で猛然とスパートした葛西選手が1秒先着し、創価大学が4位から首位へと踊り出ました。3位には23秒差で順天堂大学、以下明治大学、中央学院大学、早稲田大学と続きます。

1区18位と出遅れた國學院大学は、四本柱のひとり、山本選手が11人抜きで7位まで挽回してきました。東京国際大学も、日本人エースの丹所選手が16位から8位にチーム順位を引き上げました。

区間賞 葛西潤(創価大④)31'12" 区間新

3区(11.9㎞)桑名~四日市

前半の勝負所の3区。駒澤大学は、ハーフ日本人学生最高記録保持者で駅伝経験豊富な主将の山野選手をこの区間に起用。先行する創価大学の吉田選手にすぐさま追い付いて先頭に立つと、じわじわ差を広げていきます。終始落ち着いた安定した走りで区間5位にまとめ、2位に上がった順天堂大学・野村選手に38秒差をつけました。3位には石塚選手の区間3位の好走で早稲田大学が上がってきました。創価大学は4位に転落したものの、後半区間に控える有力選手の活躍次第ではまだまだチャンスの残る位置(56秒差)で踏み止まりました。

後方では、14位から挽回を図りたい青山学院大学の主力・佐藤選手に、関西学院大学のエース、上田選手が食らいつき、更に後方からは長らく故障に苦しんでいた東海大学のエース、石原選手が割り込んでの接戦が展開されました。石原選手は、復活の区間賞を獲得しました。

区間賞 石原翔太郎(東海大③)33'48"

4区(11.8㎞)四日市~鈴鹿

ここまで順調なリードの駒澤大学は、この区間にルーキーの山川選手を起用。実績十分な選手達の中で、唯一の不安区間かと思われたものの、そんな不安を一掃する堂々の走りで首位を快走。区間賞を獲得する殊勲の走りで、2位に上がった早稲田大学との差は1分1秒へと広がりました。3位は順天堂大学、4位には國學院大学が続きます。

青山学院大学は、副将の横田選手が区間2位の爆走で6人を抜いてようやくシード圏内の5位に進出してきたものの、首位との差は2分4秒と思うように追撃体制が整いません。

区間賞 山川拓真(駒澤大①)33'41"

5区(12.4㎞)鈴鹿~津

中盤の4〜6区は繋ぎ区間と考えられているものの、有力校はチームの実力者を配してきています。創価大学は嶋津選手、青山学院大学は岸本選手とエース格の選手が走ります。

先頭の駒澤大学は、今季トラックレースで大幅に自己記録を更新している伸び盛りの二年生、篠原選手を当日のメンバー変更で起用。スピードランナーらしく軽快にピッチを刻みます。気温上昇で発汗量も増える中、区間2位でガッチリと首位固め。駒澤大学は盤石のレース展開です。

嶋津選手、岸本選手の区間賞争いかと思われたものの、國學院大学のルーキー、青木選手が好調で、先行する早稲田大学、順天堂大学を抜き去り、4位で受けた襷を2位へと押し上げました。

区間賞 青木瑠郁(國學院大①)35'50"

6区(12.8㎞)津~津

後半に控える二つの長距離区間に良い流れで繋げるかを左右するポイント区間です。

1分38秒差のリードを保つ駒澤大学は、以降の区間は昨年と同じメンバーが走ります。この6区は、駅伝経験豊富な三年生、安原選手が堅実に走り、区間4位ながら、キャプテン西澤選手の区間新記録の快走で2位に進出してきた順天堂大学に1分58秒差をつけて、大エースの田澤選手に繋ぎました。
國學院大学が3位、青山学院大学が6位から4位へ、5位は創価大学です。

この区間の注目は、今年の箱根駅伝1区で鮮烈な区間新をマークしMVPに輝いた中央大学の大エース、吉居選手でした。吉居選手は藤原監督の6区起用の期待に応え、西澤選手のタイムを上回る区間新記録の走りで、チーム順位を9位からシード圏内の6位へと押し上げました。

区間賞 吉居大和(中央大③)37'01" 区間新

7区(17.6㎞)津~松阪

各チームの大黒柱が、この7区にこぞって起用されてきました。駒澤大学のエース、田澤選手と青山学院大学のエース、近藤選手は、昨年の全日本から四大会連続での直接対決になります。

最初からハイペースで突っ込んで走る近藤選手に対し、首位を走る田澤選手はやや抑え気味にレースを進めます。『近藤選手はライバルだとは考えていない。自分の競うべきライバルは、相澤晃選手や伊藤達彦選手』と自信満々の田澤選手に対し、『自分はエリートではない。田澤選手は雲の上の存在』と謙虚な近藤選手。後半ペースを上げ、さすがの貫禄を示した田澤選手が区間記録で14秒先着したものの、ともに49分台の驚異的な記録をマーク。なかなか興味深い対決でした。

2位は近藤選手の力走で青山学院大学、3位には学生ハーフ王者の平林選手が走った國學院大学、4位には10000m28分一桁の記録を持つ伊豫田選手が走った順天堂大学、5位には、今年の出雲3区で二人を抑えたムルワ選手が走った創価大学がつけています。

区間賞 田澤廉(駒澤大④)49'38" 区間新

8区(19.7㎞)松阪~伊勢神宮

駒澤大学のリードは、8区中継時点で2分27秒となり、ほぼ勝負は決定的と思われましたが、二年連続アンカーを任された花尾選手は、攻めの姿勢で積極的に走ります。全く危なげのない走りで、伊勢神宮内宮のゴールに飛び込みました。駒澤大学の優勝は三大会連続、通算15回目(歴代最多)で、自身の持つ大会記録も4分以上更新しました。

2位には、國學院大学四本柱の一人で昨年この区間の区間賞を獲得している伊地知選手が入り、過去最高順位を更新しました。青山学院大学は、主将の宮坂選手が、順天堂大学のアンカー、四釜選手の猛追を1秒差で振り切り、3位を確保しました。

区間賞 花尾恭輔(駒澤大③)57'30"

チーム成績

優勝 駒澤大学 5時間6分47秒=大会新記録
2位 國學院大学 5時間10分8秒=大会新記録
3位 青山学院大学 5時間10分45秒=大会新記録
4位 順天堂大学 5時間10分46秒=大会新記録
5位 創価大学 5時間12分10秒
6位 早稲田大学 5時間12分53秒
7位 中央大学 5時間13分3秒
8位 東洋大学 5時間13分10秒

勝手に寸評

各区間に起用された選手が順当に実力を発揮した駒澤大学の完勝でしょう。従来の大会記録を4分以上も更新し、2位の國學院大学にも3分以上の差をつける盤石のレースでした。駒澤大学は、これで出雲駅伝に続く二冠達成となり、箱根駅伝で同校初となる三冠の偉業に挑むことになります。

エース格の鈴木選手を怪我で欠いたものの、1区の円選手が好位置で滑り出すと、2区のスーパールーキー佐藤選手が額面通りの強さを披露、3区の山野選手で首位に立つと、4区で大学駅伝デビューのルーキー、山川選手が区間賞、5区篠原選手、6区安原選手が実力者らしい安定感ある走りで繋いで差を広げ、7区で大エース、田澤選手が決定打となる圧巻の区間新。そして、二年連続アンカー起用の花尾選手も積極的な走りで危なげなくゴールテープを切りました。破格のスーパーエースの存在が絶大で、『強いな』という印象が残りました。

出雲に続く2位に入った國學院大学は、チームの柱になる選手が各学年に着実に育っています。高校時代の準トップ級レベルの選手の実力を確実に引き上げており、前田監督の育成手腕が光ります。

3位の青山学院大学は、1区を無難に滑り出したものの、2区の不調で波に乗り切れず、不完全燃焼のような結果に終わった感じです。

4位の順天堂大学は、優勝可能な戦力が揃っているので、要注目のチームです。箱根では、これまで結果を出していない三浦選手の出来がカギを握りそうです。5位の創価大学も着実にチーム力が向上していることを証明したレースでした。6位の早稲田大学、7位の中央大学は、名門の復活途上との印象を受けました。一方で、東洋大学や東海大学には、レースの流れを変えられるだけの爆発力ある選手がチームに不足しているように感じました。

今回観ていて、全日本大学駅伝のコース設定は、なかなかトリッキーで面白いと感じました。距離が短い前半のスピード区間でいかに良い流れを作れるかが、結果に大きく影響するように思います。鍛えられた学生ランナーならば、7区、8区程度の長距離区間はこなせます。むしろ、10㎞前後の距離を、状況に応じて戦略的に走れるクレバーな選手を育成することが、全日本攻略のカギになると感じました。

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