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第105回日本陸上競技選手権大会10000m観戦記

2021年5月3日に、小笠山(運)静岡スタジアム(静岡県袋井市)で行われた東京五輪代表選考を兼ねた男女10000mレースをYouTubeで観戦しました。その観戦記を残します。

【男子10000m】

男子は持ちタイム別にA組、B組にわかれたタイムレースで行われました。五輪代表を目指す有力選手はA組で出走しました。

既に参加標準記録(27分28秒00)を突破している伊藤達彦選手(ホンダ)が初優勝。レース序盤から好位置につけ、残り750mから渾身のスパート。ラスト2周を62”、59”で上がる圧巻の強さを見せつけました。

伊藤選手は静岡県浜松市の出身で、地元開催の日本選手権での五輪代表内定に喜びもひとしおでしょう。高校時代、全国的にはほぼ無名の存在ながら、東京国際大学進学後に急速に力を付け、トップランナーへと成長しました。

2019年ナポリで行われたユニバーシアードのハーフマラソンで銅メダルを獲得。2020年の箱根駅伝では、花の二区で同学年のライバル、相澤晃選手(当時東洋大学4年)と抜きつ抜かれつの名勝負を演じました。2020年12月の日本選手権10000mでは、日本新記録をマークしたものの、優勝した相澤選手(旭化成)に敗れての2位でした。

今大会、伊藤選手は、「参加標準記録を突破する選手が出ず、出場選手中の3位までに入れば五輪代表内定」という有利な条件でしたが、レース後のインタビューで優勝しか考えていなかったと言い切りました。2021年1月のニューイヤー駅伝で大腿骨の疲労骨折を起こし、一時は五輪を諦めたと言います。その苦境を乗り越えての快走は見事でした。

2位と3位には、駒澤大学の田澤廉選手(3年)、鈴木芽吹選手(2年)が27分台をマークして入りました。学生長距離界のエースと言われる田澤選手と、名門・佐久長聖高校出身で伸び盛りの鈴木選手は、積極的な走りでペースメーカーが作るハイペースに食らいつき、最後まで粘って快記録を達成しました。コメント欄に書き込まれた

"大八木さん、マスク外しての声援許す!"

には笑いました。実際、大八木監督の特徴ある甲高い声が音声実況に混じって場内に轟いていました。

このレースを先導した、オープン参加のケモイ選手(愛三工業)、カンディエ選手(三菱重工)のペースメイクは見事でした。参加標準には一周66”のLAPでの周回が必要でしたが、5000mあたりで後続選手たちが付いてくるのが難しいと感じるや、ペースを67~68”へ修正するナイスアシストでした。

個人的に気の毒だったのは、鎧坂哲哉選手(旭化成)です。速さも強さも兼ね備えた日本有数のランナーでありながら、過去2回のオリンピックは、後一歩のところで代表入りを逃しました。31歳のベテランとなった今回は期するものがあったと思いますが、無念の途中棄権という結果に終わりました。

鎧坂選手は、世羅高校3年生時に5000m高校ランク1位のタイムを持ちながら、全国高校駅伝を故障で欠場。明治大学4年生時の箱根駅伝も、二区での快走が期待されながら、故障の影響で出走を回避(十区で出場)するなど、大舞台で持っている実力に見合う結果が残せていない悲運の選手です。是非気を取り直して別日程の5000mに挑んで欲しいです。

【女子10000m】

大器と言われる20歳の廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)が、参加標準記録(31分25秒00)を突破して優勝し、五輪代表内定を勝ち取りました。

レースは途中から、マラソンランナーの安藤友香選手(ワコール)とのマッチレースになりましたが、廣中選手は8600m過ぎからスピードを上げて突き放し、堂々たる優勝でした。10000mを走るのはこれが二度目ながら、素質の高さを感じさせるレースで、非常に勢いのある強い選手です。

長崎県出身の廣中選手は、中学生で出走した京都での全国都道府県対抗女子駅伝の3区で区間賞を獲得して注目されました。長崎商業高校時代は、トラックでの全国大会優勝はないものの、クロスカントリーや駅伝には滅法強く、連続出場した全国都道府県対抗女子駅伝では三年連続区間賞(2018年は区間新)、3年生で初出場した2018年の全国高校駅伝の1区ではスタートから独走し、歴代3位に相当するタイムをマークして区間賞を獲得しています。2019年に日本郵政グループに進んでからも毎年順調にタイムを伸ばしてきています。

2位に入った安藤選手も参加標準記録を突破し、五輪代表に内定しました。岐阜県出身の安藤選手は、現在27歳。2017年の名古屋ウイメンズマラソンで、初マラソンながら日本歴代4位、初マラソン日本最高記録をマークして注目されました。上下動の少ない「忍者走り」と言われる独特の走法で、安定感には定評があります。

マラソンの五輪代表有力候補でしたが、2019年のMGCでは中盤から失速して後退し、選考圏外に沈みました。最終選考レースとなった2020年名古屋ウイメンズマラソンでは好走したものの、惜しくも届きませんでした。マラソン代表を逃した悔しさを、トラックの10000mにぶつけての激走でした。

女子10000mは、2020年12月の日本選手権で新谷仁美選手(積水化学)が日本新記録をマークして、代表内定を獲得しており、これで3枠が確定です。

印象に残ったのは、長年女子長距離界を牽引してきた福士佳代子選手(ワコール)です。出場選手中の最下位に終わったものの、大ベテランながら明るく走り続ける姿は素敵です。

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