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何度目かのマイ・ブーム:YES『危機』

最近になって、夜中にひとりでイエス(YES)『危機 Close To the Edge』(1972)を聴く機会が増えています。過去にも何度か、集中的に聴いていた時期がありました。それは、停滞期からの転機が訪れそうな気配が漂い、次の挑戦を考え始めた時期が多かった気がします。そういう心境の時には、この曲の魔力に引き寄せられるのかもしれません。折角なので、大切に聴き続けてきたこの曲の魅力を言語化しておこうと思います。

遠すぎたプログレッシブ・ロック

最初に断っておきます。私は、プログレッシブ・ロック(Progressive Rock)、通称”プログレ”のマニアではありません。

私にとってこの分野の音楽は、凡そ自分の手には届かない、自分の手には負えない、と思うもので、心理的距離が遠い位置にあります。プログレの熱烈な愛好家には、マニアックで深みを感じさせる人が多く、私のような中途半端な知識の持ち主が、軽い気持ちで踏み込むべきではない、迂闊に近寄ると大怪我をする、と躊躇させる空気感があります。プログレ作品及びそのファン層には、ある種の閉鎖性を感じます。

勿論、ロック愛好家の端くれとして、ごくごく有名な作品には触れてきました。ピンク・フロイド(Pinke Floyd)、イエス(Yes)、キング・クリムゾン(King Crimson)、エマーソン、レイク&パーマー(EL&P)をプログレ四天王、そこにジェネシス(Genesis)を加えて英国プログレ五大バンドと呼ぶ、というくらいの基礎的知識は持ち合わせています。それに、私が洋楽ロックにのめり込むきっかけになったのは、これら最高峰のプログレバンド出身のスーパースター達が結集して誕生したエイジア(Asia)なので、プログレから全く影響を受けていない訳ではありません。

典型的なプログレの楽曲は、扱うテーマが重厚かつ高尚で、メンバーの高度な演奏技術に裏打ちされた複雑なリズムや摩訶不思議なメロディーを持ち、目まぐるしい転調を繰り返すのが特徴です。重厚感があり、長い曲が多いです。マニアを惹きつけるこれら要素が、私には重た過ぎる、というのが正直な感想なのです。

『危機』は数少ない例外

そんな苦手意識のあるプログレッシブ・ロックで、初めて聴いた時から強い衝撃を受け、以来唯一例外的に聴き続けることができているのが、本日語る『危機』です。

イエス全盛期のメンバーである、
ボーカルのジョン・アンダーソン(John Anderson 1944/10/25-)、
ギターのスティーヴ・ハウ(Steve Howe 1947/4/8-)、
ベースのクリス・スクワイア(Chris Squire 1948/3/4-2015/6/27)、
キーボードのリック・ウェイクマン(Rick Wakeman 1949/5/18-)、
ドラムスのビル・ブルーフォード(Bill Bruford 1949/5/17-)
という五人の名手とプロデューサーのエディ・オフォード(Eddie Offord 1943/2/20-)が、持てる力を結集し、難産に次ぐ難産の末に産み出した一世一代の名作です。

タイトルチェーンとなるこの曲に『同志 And You And I』『シベリアン・カートゥル Siberian Khatru』(これらも実にカッコいい!)の三曲で構成されているアルバム『危機 Close To The Edge』(1972)は、ロック史上に残る名盤とされています。

イエスというバンドやその楽曲には数々の伝説があり、私がこれ以上生半可な解説を加えるのは、不毛というものでしょう。例えば、最近偶然手にした馬庭教二『1970年代のプログレ - 5大バンドの素晴らしき世界』(ワニブックスPLUS新書 2021)の中でも 、この曲の魅力が思う存分語られていますので、信頼できる情報としてこちらを参照されることをお薦めします。

毎回、ハマる所が違う

さて、現在は私に人生何度目かの「『危機』ブーム」が来ているのですが、今回は、四部構成の四番目、”人の四季(Seasons of Man)”のドラマチックな展開と、複雑怪奇で理解不能な歌詞に、改めて魅了されまくっています。

ジョン・アンダーソンの声には独特の魅力があります。一度聴いたら耳を離れません。「ジョンの歌っていないイエスの楽曲は、イエスではない」と言われているのも納得の圧倒的な存在感です。突き上げるような「I get up, I get down」という熱唱で締め括られるラストに痺れます。

18分を超える大作なのに、今夜も、もう四回目のリピート中です。この記事もSpotifyの2003年リマスター版で聴きながら書いています。まだ、しばらく「『危機』ブーム」は続きそうです。

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