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駒澤の大学駅伝三冠に思うこと-2023

1月2、3日に行われた箱根駅伝で2022-2023の大学駅伝シーズンは終了し、駒澤大学が史上5校目の三冠を達成しました。2大会振り8度目の総合優勝を達成した箱根駅伝終了後には、1995年のコーチ就任以来、熱血指導でチームを屈指の強豪校に育て上げた大八木弘明監督(1958/7/30-)が、2023年3月末での監督退任を発表しました。まさに、有終の美を飾っての勇退となりました。今シーズンの駒澤大学の強さについて、私見をまとめておきます。


強さ①:ブレーキなく、勝ち切る強さ

今季の駒澤大学の強さは、各区間で起用された選手が誰一人ブレーキを起こすことなく、区間上位で走り切っていることでしょう。以下は、三大会での駒澤大学の起用選手の区間順位と、区間賞との差をまとめたものです。

【出雲】《大会新》52秒差
1区 花尾=2位(△9秒) 
2区 佐藤=1位《区間新》(+4秒) 
3区 田澤=2位(△14秒)
4区 山野=2位(△19秒)
5区 安原=1位(+10秒)
6区 鈴木=1位(+7秒)

【全日本】3分21秒差
1区 円=4位(△19秒)
2区 佐藤=2位《区間新》(△1秒)
3区 山野=5位(△13秒)
4区 山川=1位(+3秒)
5区 篠原=2位(△10秒)
6区 安原=4位(△26秒)
7区 田澤=1位《区間新》(+14秒)
8区 花尾=1位(+3秒)

【箱根】 総合1位 1分42秒差 往路1位 30秒差 復路1位 1分12秒差
1区 円=2位(△9秒)
2区 田澤=3位(△12秒)
3区 篠原=2位(△7秒)
4区 鈴木=3位(△60秒)
5区 山川=4位(△41秒)
6区 伊藤=1位(+17秒)
7区 安原=5位(△35秒)
8区 赤星=4位(△21秒)
9区 山野=3位(△59秒)
10区 青柿=2位(△36秒)

最も低い区間順位が5位であり、同一区間で区間賞を獲得チームに1分以上負けたのは、東京国際大学・ヴィンセント選手が驚異的な区間新記録を叩き出した箱根駅伝の4区だけです。2022‐2023年シーズンの駒澤大学チームは、起用された各走者がいかに安定感があったかの裏付けであり、選手層の厚さとチームの総合力の高さを物語ります。

箱根では、出雲、全日本を好走していた、エース格の三年生・花尾選手とスーパールーキーの佐藤選手という主力になるべき大砲二枚を欠きながら、往路・復路・総合を制す完全勝利でした。主力級の選手の欠場を埋められるだけの遜色ない実力を持つ選手を、多数育成できていた層の厚さも特筆されるべきでしょう。

強さ②:大エースの存在

総合力に秀でていたとはいえ、大エースの存在は大きかったと思います。2022年のオレゴン世界選手権10000m日本代表で、日本人学生No.1ランナーの呼び声が高い田澤廉選手の存在は、駒澤の強さを語る上で見逃せない要因でしょう。

田澤選手個人としては、体調が十分に整わないまま出走した出雲と箱根の走りはやや不本意だったかもしれませんが、それでもエース区間で区間賞獲得者と僅差にまとめる走りは、さすがでした。チームの大黒柱として、駅伝では絶対に外さない、という信頼感が、チームに有形無形の安心感を与えていたことは間違いありません。

強さ③:選手の覚悟と指導者の熱量の融合

シーズンイン前、主将の山野選手が、大八木監督に大学駅伝三冠を目標とすることを直訴し、チームにスイッチが入ったと言われます。大八木監督は、大学駅伝界屈指の厳しい熱血指導で知られるものの、近年は選手個々とのコミュニケーションを重視しながら、より選手の個性や自主性を重視する指導へと変化していたようです。

駒澤大学の三大駅伝通算27回優勝は大学最多であり、それは全て大八木監督(コーチ、助監督時代を含む)が就任して以降に成し遂げられたものです。学生三大駅伝で初優勝を飾ったのは、1997年の出雲。全日本はその翌年の1998年。箱根の総合初優勝を果たしたのは、2000年でした。2002年から2005年には、箱根四連覇も果たしており、この頃が第一期の黄金時代でした。大学駅伝三冠だけは、1998‐1999年、2013‐2014年とチャンスがあったものの、箱根ではいずれも2位に終わって逃していました。三冠は平成の常勝軍団と呼ばれた時代を経て、令和の常勝軍団となりつつある駒澤大学チームに唯一欠けていた勲章でした。今季は、悲願成就のシーズンとなりました。

チームの歩みは順風満帆だった訳ではなく、2010年代半ばには深刻な低迷期も経験しています。2017年の箱根駅伝ではシード権を喪う12位に沈み、予選会からの再スタートも経験しています。また過去には、強化方針の違いなどから、途中退部してしまった有望選手も散見します。大八木監督の育成手腕に疑問を呈されたことも度々あり、その度に指導法の見直しに着手し、パワーアップを図ってきての今日があります。

レース中の大八木監督の声掛けは、最早大会名物となっています。特徴のある甲高い声で、有名になった『男だろ!』の檄を聞くと、選手は奮い立つとも言われます。大八木監督によれば、選手の性格やレースの状況に応じて、掛け声の種類を細かく調整しているようです。

今後の大学駅伝の展望

大八木監督の後任に就くのは、駒澤OBでチームのヘッドコーチを務めている藤田敦史氏です。駒澤大学が強豪校への階段を昇っていく過程で、大きな足跡を残した名選手であり、卒業後の富士通でもマラソン選手として活躍したレジェンドです。もう何年も前からチームの強化に携わっており、満を持しての登板となります。名将の後を受け継ぐのは重責でしょうが、混乱は少ないでしょう。

大エースの田澤選手は卒業するものの、新チームには、10000m27分台の記録を持つ鈴木芽吹選手や怪物ランナー・佐藤圭汰選手など、学生有数の走力を持つ選手が多数残ります。強力な戦力は引き続き維持される見込みで、来シーズンも駒澤大学が優勝争いの中心になることでしょう。

駒澤大学を追うライバル校の動向も見逃せません。箱根で2位に食い込んだ名門・中央大学は、2区区間賞の吉居大和選手、3区区間賞の中野翔太選手ら、エース級が残り、次回大会は優勝候補の筆頭に挙げられそうです。表彰台常連の強豪校になった國學院大學も、大八木監督の教え子である前田監督が、悲願の箱根駅伝優勝を狙って強化を図ってくるでしょう。強力な四年生が大量に卒業し、戦力ダウンが囁かれる青山学院大学も虎視眈々と巻き返しを狙ってくるでしょう。群雄割拠の大学駅伝からは、当面目が離せません。


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