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日本酒は辛口と甘口に「分かれない」【日本酒を飲ませろ!No.1】

僕は毎日、日本酒のことばかり考えている。
こういうとまるでアル中のようだが、悲しいかな当たらずも遠からず、
「吾輩は酒飲みである、診断はまだない」というところだ。
個人的にはヨボヨボの爺さんになるまでなるべく問題なく飲んでいきたい、というのが偽りのない本音ではあるのだが、そもそも飲酒という行為が残念ながら欠点だらけの行為なので、いつも耳をふさいでいる。
が、耳をふさいでは飲めないので、耳から手を外し、元気に両手で毎日酒を注いでいる。

さて、日本酒は間違いなくうまいと思うのだが、日本酒自体は(日本においてですら)消費量が特に多い酒でもない。
違いを感じようにもワインのようにわかりやすく赤だの白だのと色が着いているわけでもない。
実際、日本酒の味は本当にわかりにくい。
ただ、日本酒の瓶を眺めてみると多くのラベルには辛口と甘口という表記がキチンと書いてある。味もわかりそうなものだ。
それなのに今回のタイトルは『日本酒は辛口と甘口に「分かれない」』である。
せっかくメーカーの方々が味わいを表現してくれているのにふてえ態度とも取られかねない(製造者の皆様ホントいつもありがとうございます)。

それでも今回のテーマは日本酒の辛口と甘口についてだ。
ちゃぶ台を返すようだが、日本酒に辛口と甘口が「ない」わけではない。
わざわざカッコ書きという保険をかけてあるから強気に出るが、辛口と甘口に「分かれない」のである。
さて、それではラベルに書いてある「辛口」「甘口」とはどういう意味なのか。

もったいぶりすぎてそろそろ怒られそうなので白状すると、日本酒の辛口甘口は一本のベクトルのように「辛⇔甘」で単純に表現できないというのが正確な表現となる。辛い、甘いの2択ではないということだ。

そこで、日本酒の「辛さ」について考えてみる。
例えば一般的に「辛さ」といっても「唐辛子辛い」とか「わさび辛い」などと表現されるように、辛さにもいろいろな種類がある。
そのうち、日本酒の辛口甘口については「甘さがあるかないか」という表現に尽きる。甘くないことを「ドライ」と表現されることもある(ビールなどもそうで、日本酒に限らないが)。
「この日本酒はドライに感じる」と表現した方が直接的ではあるかもしれない。

ともあれ、メインとなる基準は「辛」ではなく「甘」なのである。

つまり、「甘く感じたら甘口、甘く感じなかったら辛口」ということだ。
いわゆる、「辛さ」は厳密にはない。
そもそも日本酒には糖分が含まれているので当然といえば当然である。
とはいえ、「甘くない口」と表現するのもいささか収まりが良くないので「辛口」というのだ。

ところが、平成の初め頃に日本酒の「辛口ブーム」というブームともいえないひっそりとした傾向があった。有名漫画のこち亀で両さんが日本酒を密造していたのもこの頃だった気がする。
日本酒の好きなおじさん(とくにその頃から日本酒を飲んでいた今の50代以上)あたりは「日本酒は辛口しか飲まねえ!」と大きく声を上げているのだ。
そうなると甘党は肩をすくめてひっそりとしていたのだろう。多分。
そのせいで日本酒の辛口甘口はわかりにくくなったと僕は考えている(別におじさんが悪いわけではないけど)。

「なんだ、結局糖分の量じゃねえかこのアル中め!」という声が聞こえてきそうだが、前半部分は間違いである。
糖の含有量の多寡については別の表現があって、「日本酒度」という。
マイナスの数字が大きいと糖含量が高く、プラス数字が大きいと糖含量が低いということになる。これは15℃の酒と4℃の水と比べたときの比重を用いて表されるのだが、そんなことはまあどうでもいい。
結局のところ、日本酒度はあくまで辛口甘口の一要素にしか過ぎないということだ。

他の要素のうち、数値として表せられるのが「酸度」である。細かい話はしないが、酸度が高いと辛口に振れ、低いと甘く感じる。
そして、加水やアルコール添加も重要な要素である。味の調整として「醸造アルコール」という、わかりやすくいえば度数の高い焼酎のようなアルコールを日本酒に加えることで味の調整をすることがある。これも糖度を薄めるので、日本酒を辛口に振らせる要素の一つだ。

そして製造方法のうち、火入れ(60℃程度で数十分温めて味を安定させる)という工程を踏むかどうかも大きい。通常二度する火入れを一度もしていない、いわゆる「生酒」は甘く感じ、火入れをすると辛く感じる。
個人的にはやはり生酒のフレッシュ感はたまらないので、管理が行き届いているのであればやはり生酒を飲みたい。

これら、「アルコール添加」「火入れ」は辛口甘口を左右する大きな要素と僕は考えている。そして、これらを複合的に、どう組み合わせるかによって酸度などに影響を与え、味と香りにバリエーションを作っている。
もっと細かくいうと、「温度」や「米、酵母、水」などの原料なんかもそれぞれが要素である。
つまり、日本酒度がマイナスで糖含量が高いことを示していても、アルコール添加や火入れをすることでスッキリとした辛口に振れることも大いにある。

今回は辛口甘口の総論みたいなところでもあり、このあたりのニュアンスを深掘りするといささか冗長になってしまうので別稿に譲るが、日本酒の味をその「辛口」「甘口」の文字だけで判断するのは難しいし、もったいないということだけは伝えたいところである。

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