📗【文書版】✴️礼拝メッセージ「人をモノ化する世界で、『人間』にしてくれる声を聞く」新約聖書　ヨハネの福音書第10章1～15節

📗昨日2023年4月30日(日)の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ「人をモノ化する世界で、『人間』にしてくれる声を聞く」
新約聖書　ヨハネの福音書第10章1～15節

1「まことに、まことに、あなたがたに言います。羊たちの囲いに、門から入らず、ほかのところを乗り越えて来る者は、盗人であり強盗です。
2しかし、門から入るのは羊たちの牧者です。
3門番は牧者のために門を開き、羊たちはその声を聞き分けます。牧者は自分の羊たちを、それぞれ名を呼んで連れ出します。
4羊たちをみな外に出すと、牧者はその先頭に立って行き、羊たちはついて行きます。彼の声を知っているからです。
5しかし、ほかの人には決してついて行かず、逃げて行きます。ほかの人たちの声は知らないからです。」
6イエスはこの比喩を彼らに話されたが、彼らは、イエスが話されたことが何のことなのか、分からなかった。
7　そこで、再びイエスは言われた。「まことに、まことに、あなたがたに言います。わたしは羊たちの門です。
8わたしの前に来た者たちはみな、盗人であり強盗です。羊たちは彼らの言うことを聞きませんでした。
9わたしは門です。だれでも、わたしを通って入るなら救われます。また出たり入ったりして、牧草を見つけます。
10盗人が来るのは、盗んだり、殺したり、滅ぼしたりするためにほかなりません。わたしが来たのは、羊たちがいのちを得るため、それも豊かに得るためです。
11わたしは良い牧者です。良い牧者は羊たちのためにいのちを捨てます。
12牧者でない雇い人は、羊たちが自分のものではないので、狼が来るのを見ると、置き去りにして逃げてしまいます。それで、狼は羊たちを奪ったり散らしたりします。
13彼は雇い人で、羊たちのことを心にかけていないからです。
14わたしは良い牧者です。わたしはわたしのものを知っており、わたしのものは、わたしを知っています。
15ちょうど、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同じです。また、わたしは羊たちのために自分のいのちを捨てます。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　皆さんは、ギバー、と、テイカー、と、マッチャー、というのをお聞きになったことがあるでしょうか？
　これは組織心理学がご専門のアダム・グラントさんによって提唱されたもので2年前くらいから日本でもよく言われるようになりました。最近は少し下火のような気もしますけれども、人間関係で悩む人向けに、避けた方がよい人、という文脈で語られることが多いかもしれません。
　まぁクリスチャンがですね「そういう人は避けた方がいい」という風に考えるのはあんまり良くないかもしれません。やはりクリスチャンにとって、できるだけ全ての人を愛し、できるだけ全ての人と平和を保つことを目指すのが大事ですし、人をあまりカテゴライズして枠にはめ込めすぎるのもどうかとも思いますけれども、しかし色んなことを見分ける、色んな人の声がどんな声なのかを聞き分ける、という文脈では役に立つことがあるかと思います。
 
　まずギバーというのは、ギブする人。与える人、ということですね。他者を中心にとらえ、相手が何を求めているかを注意深く考えるタイプの人ということで、他人の利益を考える利他の心、と言ったらいいでしょうか？聖書に「受けるより与える方が幸いである」とありますけれども、そういう人と付き合う方がいい、あるいはそういう人になる方が実は幸せになれる、などと言われることが多いです。
 
　そして、マッチャーというのが、マッチということで、公平になるように考え、行動する人だそうですね。ギブアンドテイク、これはよくあることだと思いますね。やってもらったらお返しに親切にする。こういったよくあるパターンですね。
 
　そして、テイカー、というのがありまして、常に多くを受け取ろうと行動する自分の利益を最優先に考えるタイプだそうですね。テイカーの人は、世の中を競争社会だとみなしていることが多く、競争社会、つまりマウンティングの中で自分が他人よりも上にいたいという欲が強く、自分が上にいること＝豊かさだと考えている人が多いということだそうですね。こういう人は避けた方がいいですよ、ということですね。
 
　まぁ、あの人はテイカーだとか口に出して、あるいは心の中でレッテル貼りすることは単純化しすぎのきらいもありますし、あまり良くないことかもしれませんが、見方としては興味深いですね。今日のメッセージに通奏低音のように流れているテーマはですね、「声を聞き分ける」相手の声がどんなものなのかを聴き分ける。これは特に今の時代、大事なことではないかと思うわけですね。テイカーと言いますか、こちらからテイクしようとして来る声がますます多くなっていると思います。特殊詐欺もますます盛んになってきているようですし、なんといってもカルトなどの声ですね。これらは全部テイカーの声だと思います。あなたやあなたの家族の幸せのために、などと、おためごかしと言いますけど、「あなたのためなのよ」と言いながら、深入りしていくと、財産というような有形のものだけでなく、心や内心の自由といった無形のものも搾取・収奪されていく、ということがあるわけです。
 
　ここをもうちょっとだけ深く考えるために、少し話は飛ぶように見えるかも知れませんけれども、最近ジャニーズ事務所の創設者の方からのジャニーズJrの少年への性的加害のことがメディアなどでも報道されるようになりました。被害を訴えた方は、仕事をもらったり、エンターテイメントにおいて育ててもらったこと、さまざまなことで感謝はしているけれども、しかし、彼がした「性的加害については」、悪いことだと思っている、と述べているんですね。
 
　で、これは、実に被害の声が上げにくい心理にされているんですね。というのは、金銭的あるいは物質的なものをもらったり、仕事や将来へのチャンスをもらったりと、一見ギバーのように沢山お世話をしてくれると。けれどもそれと引き換えであるかのように、性的に搾取されると、そして、実は性被害だけじゃなくて、「内心の自由」も奪われているんですよね。嫌という権利、断る権利、自分の気持ちを言葉にする権利、こういったものがもともと生まれながら人間にはあるのに、それらを奪われてしまう、ということですね。ギバーのように見せて実はテイカーであった、とも言えるわけですね。（暴力性が見えにくくなっているので、見方によっては、より悪質かもしれない。）
　で、私も、誰からも「性的被害には」遭ったことがないんですけれども、しかし、内心の自由、というものを、有形無形のものでお世話をされる代わりに、奪われた、ということが人生で何度かありますので、そういう内心の自由というものは、（これは人によっても違うかもしれませんけれども）私にとっては、もう何千万円積まれても差し出したくないものですし、人間は誰も奪ってはいけないものですね。
　マルティン・ブーバーという人が「我と汝」という本を書いています。私も20代の若い頃に読んだんですが、この本によれば、我と汝、というのは、IとYouの関係ですね。わたしとあなた。ところが、良くない関係というのは、「我とそれ」の関係だというんです。Iとitなんです。有形無形のものを相手の意志などを無視して奪うことは、相手を、利用できる「それ」と見ることであり、最初に言ったテイカーと重なるんですね。ところが、我と汝、私とあなた、という人格と人格の対話、ということを通して、人間は本当に人間としての豊かな関係を経験することができるのだ、ということですね。モノ扱いしない、人格と人格としての交わりを通して本当に人間になって行く、と言い換えてもいいかも知れないですね。
　まぁこれには色んな要因があって、資本主義が変な方向に進みすぎますと、人間を使い捨てできる「モノ化」してしまうというのがあるんですけれども、まぁもちろん資本主義のせいだけではありません。人間の罪というものがそのように人をitとして見る目を与えてしまうわけですが、それがまさに、パリサイ人たちが、やっていたことなんです。
 
　ところがイエス・キリストは、まさに、我と汝、わたしとあなた、という関係で、利用できるモノではなくて、一人の人間として扱ってくださって、人がモノ化されがちな世界においても、神のかたちとしての私たちの、人間としての尊厳ある姿を回復してくださって、ともすれば息苦しくなりがちな世界の中で、生き生きとのびのびと解放してくださるんですね。
 
　今日のヨハネの福音書第10章は、イエス様が比喩を話されたとありますけれども、前の翻訳ではたとえを話されたとありました。羊と牧者というのが出て来ましたね。牧者というのは「まきば」の牧に、者と書いて牧者ですが、羊飼いのことですね。羊飼いと羊、これらが、何を指しているのか、ということがそれぞれあるわけです。
　で私たち日本人は、羊であれば、まぁ六甲の牧場などに行けば触ることはできるんですが、ところがこの羊飼い・牧者という職業の方々に、外国旅行でもしない限り日本ではめったに会うことはないんじゃないでしょうか。だから身近ではないと思います。
　ところがイエス様が「羊飼い・牧者」と言った時にですね、聞いていたのはユダヤ人ですが、皆ピンと来たんですね。イスラエルでは身近にいるから、というのもありますけれども、羊飼いと羊というのはある別の一つのイメージを持ったことばだったんです。
　それはユダヤ人は皆、旧約聖書をよーく読んでいますから、旧約聖書でどんなふうに、羊飼い、っていうことばが使われるかと言いますと、民の指導者なんです。王様、政治家、宗教家、そういった権力をもった、民の導き手のことなんです。で、イエス様はここで、悪い羊飼い、悪い指導者のことを念頭に置かれながらお語りになっています。悪い羊飼いのことは、旧約のエレミヤ書、エゼキエル書、ゼカリヤ書などにそれぞれ出て来ますけれども、おそらくヨハネ第10章の一番念頭に置かれているのはエゼキエル書の第34章だと思います。そこからいくつか読んでみたいと思うわけですね。
　
旧約聖書　エゼキエル書第34章1～2節
1次のような主のことばが私にあった。
2「人の子よ、イスラエルの牧者たちに向かって預言せよ。預言して、牧者である彼らに言え。『神である主はこう言われる。わざわいだ。自分を養っているイスラエルの牧者たち。牧者が養わなければならないのは羊ではないか。
 
　つまり当時、政治家たちがですね、ここで羊と言われているのは国民のことですね。国民を養わなければならないのに、自分を養っていると。そして、国民を搾取して、食い物にしているっていうんですね。
 
旧約聖書　エゼキエル書第34章3～4節
3あなたがたは脂肪を食べ、羊の毛を身にまとい、肥えた羊を屠るが、羊は養わない。
4弱った羊を強めず、病気のものを癒やさず、傷ついたものを介抱せず、追いやられたものを連れ戻さず、失われたものを捜さず、かえって力ずくで、しかも過酷な仕方で彼らを支配した。
 
　まさに自分を生かすために、国民をモノ扱いしていると言えると思います。そこから、神ご自身が羊飼いとなって、このイスラエルの民を養う、と言われているんですね。その後をいくつか抜粋して読んでみます。
 
旧約聖書　エゼキエル書第34章11節、16節
11　まことに、神である主はこう言われる。「見よ。わたしは自分でわたしの羊の群れを捜し求め、これを捜し出す。

16わたしは失われたものを捜し、追いやられたものを連れ戻し、傷ついたものを介抱し、病気のものを力づける。肥えたものと強いものは根絶やしにする。わたしは正しいさばきをもって彼らを養う。

　そして、23節、24節で少し調子が変わってきます。
 
旧約聖書　エゼキエル書第34章23～24節
23わたしは、彼らを牧する一人の牧者、わたしのしもべダビデを起こす。彼は彼らを養い、その牧者となる。
24主であるわたしが彼らの神となり、わたしのしもべダビデが彼らのただ中で君主となる。わたしは主である。わたしが語る。
 
　ダビデ、というのは、預言者エゼキエルの時代は、イスラエル王国がダビデ王様の統治だった時から何百年も経っています。ですからここはダビデ本人ではなくて、ダビデのような、いやそれにもまさった指導者、王、というのが、ダビデ王の子孫として生まれる、という預言なんです。これがまたメシア預言と呼ばれることもあるところです。
　でこれが、メシアとして世に来られたイエス・キリストを指す。真の羊飼い、真の指導者、良い牧者はまさに、イエス様がご自身のことを指して言っておられるわけです。
　ここでイエス様は、良い牧者は、「自分の羊たちを、それぞれ名を呼んで連れ出します。」と語っておられますけれども、ここがまさにですね、何でもないことのようですけれども、羊飼いというのは、本当にそれぞれ羊に名前を付けているそうですね。日本風につけるとメーコとか、クロとかシロとか、分からないですけど、一匹一匹が今どういう状態かいつも心にかけていて、その一匹一匹の名前を呼ぶ。十把一絡げではないんです。それ、とは呼ばないんです。その羊、とは呼ばないんです。ひとりひとりを大事にされて、あなた、とお呼びになって、我と汝、わたしとあなた、という関係の中で、ひとりひとりを人格として大切にしてくださる、ということなんですね。
　そして、羊はその良い羊飼いの声をちゃーんと聞き分けて他の人にはついて行かない、とおっしゃる、そして、「羊たちの囲いに、門から入らず、ほかのところを乗り越えて来る」盗人であり強盗である者もいる、とイエス様はおっしゃっています。
　ところが、この比喩をイエス様がお語りになったら、「彼らは、イエスが話されたことが何のことなのか、分からなかった。」
　というんですね。ここでイエス様のお語りになった比喩が分からなかった「彼ら」って誰のことを言っているんでしょうか？
　これは実は、第10章だけを読みますと、前後のつながりが分からなくなります。聖書は前後の文脈で読むことがとても大事でして、実はこれは第9章から文脈が続いているところなんですね。ヨハネの福音書の第9章はどんな話だったでしょうか？
 
　イエス様が生まれつき目の見えない人を、「これは神のわざがこの人に現れるためだ」とおっしゃって、お癒しになった。そのことで、宗教指導者であるパリサイ人たちが、安息日に癒すことは、自分たちが決めた安息日律法に反している！と言って腹を立てて、ついにはこの目の見えなかった人を会堂から追い出してしまった！と言われても、私たちには大したことないように聞こえるかも知れませんが、これは、会堂追放というのは酷いんですよ。文字通りユダヤ人の会堂であるシナゴーグに来ちゃいけませんよということだけでなく、ユダヤ人コミュニティから排除するという意味で、嫌な言葉ですけど村八分なんです。そうなると目が癒されても、どこも雇ってくれないどころか、様々な権利を奪われて、生きて行かれなくなる、ということを意味します。それでイエス様が、
 
ヨハネの福音書第9章38節
「わたしはさばきのためにこの世に来ました。目の見えない者が見えるようになり、見える者が盲目となるためです。」
 
　こう言われますと、そこで聞いていたあるパリサイ人たちが、自分たちへの当てつけだと察してですね、「俺たちも盲目だって言うのかよ？」と言ったら、イエス様が、「自分たちは見える、と言っていること自体が、見えてないってことなんだよ」要するにそういうことをおっしゃって、その続きのことばが、この羊飼いと羊の比喩なんですね。
　見えてない、というのはどういうことか。現に今、苦しんでいた羊であるひとりの男を、会堂から追放したではないか。囲いから追い出したではないか。生きる権利を奪ったではないか。それこそが、あなたがたが、エゼキエル書で預言されている、悪い羊飼いだという証拠ではないか。今、神ご自身が、あなたが囲いから追い出した羊を養われる。神が遣わし、ダビデの子孫として生まれさせたまことの羊飼いとは、このわたしのことなのだ！そうイエス様はおっしゃる。
 
　ちなみに、イエス様はご自身のことを「わたしは、羊たちの門です」ともおっしゃいました。これは少し説明が必要かと思います。

　この絵をご覧ください。【画像2枚目】
 
中東ではこういうふうにしてですね、夕方暗くなって、羊が囲いの中に入ると、この開いているところに、羊飼い自身が、横になるのだそうです。そうすると、羊は羊飼いの身体を乗り越えてでないと外にはいけないし、狼も羊飼いの体を越えない限り、中へは入れないんですね。まさに羊飼い自身が、羊の門となるんです。もうあなたを食い物にはさせないと、狼や盗人から命がけで羊を守るんですね。そしてイエス様の囲いの中にいるこんにちの私たちもまた、本当の羊飼いの声を聞き分けて、本当の羊飼いの声が呼ぶ声に応えてついて行くんです。
　羊は弱い動物なんです。でもひとつだけ特殊能力があるんですね。それは耳がいいっていうことなんです。本当に羊飼いの声を聞き分けるんです。ためしに、観光に来た人が、羊飼いの服を借りて、呼んでみたところ、全然反応しないそうなんですね。逆に本物の羊飼いが、スーツに着替えて、呼んでみたら、ちゃーんと来るそうなんですね。
　また、あるところでは、何人かの羊飼いが同じ場所で共同でそれぞれの群れを飼っている。それぞれの羊飼いが呼ぶと、ちゃーんと間違えないで、自分の羊飼いのもとに行くんだそうです。これらのことから、羊は抜群に耳がいいっていうことがうかがい知れますね。
 
　そんなふうに、イエス様の羊であるクリスチャン、つまりイエス・キリストを信じる者は、ほんものの声、というのを聴き分けることができるんですね。
　偽物の声ってなんでしょうか？テイカーの声ですよね。おためごかしの声ですよね。そういう声を聞くと、なんか変だな、という感覚が働くんですよね。
 
　このヨハネの福音書が書かれたのは紀元90年代だと言われています。実はこの福音書は、その90年代の教会の状況が反映されている、とよく言われます。言い方を変えれば、これを書いた使徒ヨハネは、90年代の状況に置かれたクリスチャンたちが、よくその状況を乗り越えて行くことができるようにと、イエス様のことばを取捨選択して書いているというところがあります。
　で、90年代と言えば、もちろんローマ帝国からの迫害も多かったですけれど、もう一つの問題は、教会に入り込んできた偽教師たちの問題があるわけですね。ですからイエス様の「羊たちの囲いに、門から入らず、ほかのところを乗り越えて来る者は、盗人であり強盗です」ということばに、羊の囲い、つまり教会に入り込んでくる偽教師の姿を、重ねて書いている、ということなんですね。
　偽教師とは異端のことです。今の私たちの身近なことばで言えば、私たちの近くに忍び込んでくる異端・カルト、と言ってもいいと思います。キリスト教と自称する異端・カルトは現在もいっぱいあります。統一教会、エホバの証人、モルモン教、全能神教会、摂理、新天地、救援派（クオンパ）、タラッパン、その他もろもろ、中には既存の教会に忍び込んで教会乗っ取りをするグループまであります。けれども紀元1世紀のヨハネの時代の偽教師もそうなんですけれども、イエス・キリストの十字架の罪の赦しによる救いを否定するんですね。完全には否定しないかもしれない。イエス・キリストの十字架によって９９％はなされました。けれど、それだけじゃだめですよ。律法を守りなさい、割礼を受けなさい、そうすることによって救われますよ。でも、それは結局、９９％だとかなんとか言っていても、結局自分の努力によって救われよ、ですので、神の恵みではなくて、律法を守ることによって救われるという律法主義になってしまうわけですね。パリサイ人と一緒なんです。
　統一教会は、神の９５％と、人の５％と言います。彼らはイエス・キリストの十字架自体も否定しないんですよ。でも不完全だったと言います。神が、あるいは文鮮明氏が、９５％してくださったから、あなたは救いのためにあと５％努力しなさい。その５％を達成するために、万物復帰をしなさい。献金をしなさい。先祖解怨をしなさい。でも、その５％がどれくらいか、というのはいくらでも設定できてしまうので、いくらでも収奪できてしまう、という仕組みなんですね。財産を奪うよりもひどいことは、その人の心や魂までズタボロにされてしまうということですね。
　キリスト教でなくても、カルトあるいはカルト的と呼ばれる宗教は皆そうなんですけれど、みんな広い意味では律法主義なんですね。何かをすることによって上がって行く、あるいは救われる、という構造がどこかにあります。ある宗教では、教祖の書いた本を買えば、魂のランクが上がって行く、と言うんです。それで生まれ変わって行って、魂の修行を積んで行くんだとかなんとか言ってですね、上昇志向があるわけですね。こういう上昇志向がありますと、どっかで誰かをモノ化して「ソレ」と見て、マウンティングしたり、搾取したり、収奪したりと、ゆがんだ支配構造がどこかで出て来ることが多いわけですね。でそこで響いてくる声は、「あなたはまだ赦されていない。」「もっと頑張んなきゃ」「あなたはダメだ」っていう偽の羊飼いの声なんです。
　イエス様の羊はその声を聞き分けます。このまことの牧者の声は「罪のゆるしの声」だと、ある人は言っています。その通りだと思います。羊である私たちは、その完全に無条件で赦されたっていう、ほっとする、安心の声を、あ、これが本物だな、って聞き分けるんですね。そうでない声は、なんか変だな、なんか具体的にこうと言えないけれど、凄く違和感があるな。あるいは終末論などで必要以上に不安をあおって、コントロールしようとしているな、とか、相手の動機が透けて見えることがないでしょうか？ですから主イエスは言われます。

10盗人が来るのは、盗んだり、殺したり、滅ぼしたりするためにほかなりません。わたしが来たのは、羊たちがいのちを得るため、それも豊かに得るためです。
 
　盗人はあなたをitと見て、盗んだり殺したり滅ぼしたり、つまり食い物にするために来るって言うんです。けれどもイエス・キリストは、羊が、あなたが、いのちを得るため、それも豊かに得るに来たって言うんです。
　そこには何の下心もありません。あなたのためよ、っておためごかしを言って、親切にしておいて、後から無形のものをテイクしていく、という匂いは、一切感じられません。ギブしかない。そして、こう言われる。

11わたしは良い牧者です。良い牧者は羊たちのためにいのちを捨てます。
 
あなたのためなら死んでもいい。あなたのためなら死ねる。口先だけでそう言ってのける人はたまにいるかもしれません。でもそれはtakeの下心がある人ですね。しかし神である主イエス・キリストは、本当に死んでくださった。わたしのために、あなたのために、十字架で、本来は背負わなくてもいい私たちの罪をその背に背負って、十字架で身代わりの死を遂げてくださいました。ここに本物の愛があるのです。
 
主イエスはこのように語られながら、ある人が指摘していることですが、「この聞いていたパリサイ人たちをも、この羊の囲いの中に、招いておられる」ということなんです。罪の自覚がないと、悔い改めも起こらない。だからこそ主イエスは、比喩でもって、パリサイ人たちの罪を指摘しておられるわけですが、それほどに一所懸命に、パリサイ人にも、わたしが本当の羊飼いとして立つから、あなた羊飼いを降りなさい。そして愛されている一匹の羊として、囲いに入っておくれと、招いておられると言うんです。
それは私たちにとっても、ある意味で良き知らせだと思います。私たちはイエス様の囲いの中の羊であるけれども、同時に、パリサイ人でもあるのではないか。人をitと見て、見下したり、踏み台にしたり、利用しようとすることが、全く無いとは言えない。でも私たちのその罪をもその背に背負ってくださって、十字架の上で、永遠の彼方に葬り去って下さいました。
この良き羊飼いは、1匹の羊が囲いから迷い出たら、残りの99匹を野に残して、見つかるまで捜し歩いてくださいます。そして見出したら、その名を呼んで、その両肩にあなたをかついで、天の家まで連れて帰って下さるのです。「おかえり、つらかっただろう、傷ついて来たんだろう、もう大丈夫だ。大丈夫だ」って、そう言って、あなたが、他の誰でもない、あなたとして生きられるようにしてくださるのです。私たちは、この、「あなたとわたし」の豊かな関係の中で、ほんとうの人間にしてくれる、その神の声にこそ、その主イエスの声にこそ、これからもずっと、ついて行くのです。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
私たちはこの傷ついた世界の中で、傷ついた存在として、自らを肥やしたり、養ったりするために、人をモノとして利用しようとすることがあります。それは、権力者にだけある罪ではないでしょう。人が、弱い羊であり、寄る辺のない存在であることに起因します。主よあわれんでください。しかしあなた様は、そのような人間のみじめさにはらわた痛めるほどにあわれんでくださって、羊飼いたちの足りなさや不完全さを見て、またそのような羊飼いによって傷ついている民衆を見て、ひとり子をお送りくださいました。真実の羊飼いとして。この真実の羊飼いにこそ、その羊のために十字架で命を捨てる無限の愛にこそ、人間がその本来の神のかたちである尊厳を取り戻させていただけます。私たちは、いのちを奪う声ではなく、いのちを与える声を聞き分けて、その御声に、ついて行きます。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。