貸本屋三代目店主、いよいよ立退きへ!どーする? どーなる!?〜Vol.3〜

こんばんは!

貸本ゆたか書房、3代目店主のマリです。

お初にお目にかかる皆様、そして引き続き読んでくださっている皆様、
どなた様もありがとうございます!

ちょっと間が空いてしまいましたが、
今夜も貸本屋三代目店主の実録物語、
第3話を始めさせていただきましょう。

今回は、「貸本屋を引き継いだのちの、お客さんとの攻防戦」
についてお話して参りたいと思います。


さてさて、この貸本屋は都内某所で50年続いているので、
お客さんの中には小学生から通っていたという方もいらっしゃいます。

また、前店主のともこさんのファンであったり、
前々店長である、ともこさんの叔母にあたるえつこさんのことを懐かしみ、
何十年ぶりかに現れる人などもいます。

また、前店主さんの息子さんは某カードゲームの世界チャンピオンだったので、強いカードを求めてやってくる方などもおりました。

それはさておき、この店の常連さんの層は本当に幅が広く、
小学生からおじいちゃん、おばあちゃんまで。
(ちなみに、初期の2〜3年間は週6、15時半からやっていたので
離れずに来てくださる方も多かったけれど、
現在は不定期に休み、開店時間も18時半からのため、
常連さんの中心は20代〜40代となっています)


まあ、それでですね、ほとんどの方は本当にいい方なのですが、
店というものをやり始めるとですね、
実にいろんな方々が登場するものなのですよ。

以前にも述べましたが、私の本業はライターであり、
それはつまり、いわゆるマスコミ系です。
物事を俯瞰し、大きな流れの中で次の方向性を示すことが大事と
それまでは手前勝手に思い込んで編集会議に参加していたものの・・・。

現実は、そのような勝手なイメージとは一切違っていたのです!



地上はるかから全体を俯瞰していたつもりが、
地上0メートル地点で商売をするともなれば、
自分が思いもしない人々が、思いも寄らない主義主張を抱え、
それを正当のものとして激しく主張してくるのでした。

さて、ここから先は、やはり自己責任でお読みいただきましょう。
私という人間の「こうと決めたら、こうである」という
鉄の魂(もしくは鉄の異常性)に対しては、
一切、苦情も反論も受け付けませんので悪しからず。。。

よろしいですか? どなた様もご了承いただけましたか?



では、ここからは様々な攻防戦をご紹介していきます。

例えば、とある20代後半の女性。
「自分は毎日、午後2時にここを通るんだから、
これまでどおりに2時に店が開いてないのは許せないっ!!」
激昂しながらそうおっしゃるのでした。

そこで、私はこう答えました。
「あなたが午後2時から無給で働いて店を開けてくれるなら
もちろんOKですよ。私はそれを許しますが、いかがですか?」と。
彼女は絶句して去って行きましたが、
その後も午後2時をとっくに過ぎた時間帯に何度も現れるのでした。。。



また、小学生の娘さんを連れた、40代前半とおぼしき主婦の方は、
どんなにこちらが「こんにちは」と声をかけても
一体何をそんなに守りたいのか、ずっと無視し続けていらっしゃる。。。
ですから私は、答えるまでしつこく「こんにちは」と言い続けましたが、
無言で背を向け続けるのみ。お子さんはそんな彼女をじっと見ていました。
そうしてこの方は、数カ月間の攻防の果てに、来店しなくなったのです。

私としては、先祖代々の言い伝えを守るかのごとく、「絶対に挨拶をしない」のに、なぜか逗留時間は長いことが実に不思議でありました。


一方、やはり何度「こんにちは」と言っても
一切答えてくれない30代男性もいました。
しかし、諦めずに何度も何度も声をかけていくうち、
いつしか、「こんにちは」の形に口を動かしてくれるようになり、
やがて、「こんにちは」と声に出して答えてくれるようになり、
さらには、「僕、甘いものが苦手だから、会社でもらったお菓子をどうぞ」と、定期的に差し入れまでしてくださるようになりました。

ちなみにこの方は、どんなに私がやさぐれていた時期でも
うちの店を義理堅く、実に義理堅く応援してくれ続けてきた方で、
今となっては、本当に大好きなお客さんです。

(実のところ、私は酒飲みのため、甘いものがあまり好きではなく、
お客さんからいただく差し入れは、他のお客さんにおすそ分けしています。
そして、それをもらったお客さんがまた旅先でのお土産にお菓子を持ってきてくれて、それをまた配って・・・というエンドレス状態が続いています。
血糖値が著しく下がった時以外には、自分が口にすることはあまりないのですが、こういう好循環は嬉しくもありがたいものです)


さらに、お金をチャリーンと投げるように置く40代の男性には、
「今からお釣りを渡す時に同じことをやるから、どう思うか言ってみて」
と、実際にお釣りをチャリーンと投げて見せようとしたこともありました。

すると、彼いわく、
「若い女性の手に触れたら嫌がられると思っていたから。すみません」と。

ああ〜〜! なるほど! そういう考え方もあるのですね。
こちらこそ、誤解しちゃってごめんなさい。

けれど、当時の私、すでに30代後半です。
ある程度、トウの立っている女性の場合には、
そのようなことは一切思わないものなのです。

手を握るのは困りますが、手に触れるなんて全然オッケー!
そう伝えて以来、彼もまた、楽しく長話をするお客さんとなりました。



また、ある時には小指のない、いかにも、な風体の方が
「おいネエちゃん! この店、ヤ●ザの本、売ってねえか?」
と現れたこともあります。

私とて六本木時代には昇り竜の刺繍が入ったネクタイを締めているお客様に
「お前は俺と同じ中卒だもんなー!」と本指名をいただき、
「(先々月に大学を卒業したばかりだけど)中卒さいこ〜う!」と
テンション高く答えてきたので、今更そんなことではビビりませぬ。

「う〜ん、ヤ●ザの本は置いてないなあ」とニッコリ笑顔で答えると、
そのお方、「そうかあ。すまねえな! ネエちゃん!!」と
爽やかに去って行きました。

この時、私が感じていたことといえば、
「自分は別に怖くはない。けれど、他のお客さんが怖がるかもしれないから
関係性が続く貸本に興味を持っていたら困ることになった。販売の方でよかったなあ」という安堵の気持ちでした。


しかし、その数日後。
再び彼は店に姿を現したのです。

「ネエちゃん! 貸本って、本を貸してくれんのか!」

相変わらず、彼の両手には小指はございません。

そこで私は、
「そう、本を貸しているけど、会員になる場合には、
ご近所にお住まいか、お勤めの方のみなんだけれど」
と、誰にでも同様にしている笑顔で答えました。

すると彼は真剣な表情で、こう言います。

「お勤めって、ヤク●じゃダメか・・・?」

・・・・ああ、なんて正直な方なのでしょう!

実のところ、そのような正直さを非常に好ましくも思いましたが、
ここは他のお客さんのためにも心を鬼にいたしましょう。

「うーん、ヤク●はお勤めじゃないかなあ」

そうです。ある意味、この方も「お務め」をしたことはあるかもしれない。
けれど、「お勤め」と「お務め」の、たった一文字の違いには、
男と女の間を流れる川のごとく、深くて暗い国境があるのです!
その事実を、ここははっきりとお伝えしなくてはいけません。

笑顔のまま、じっと彼の目を見つめていると、
「そうか、やっぱダメかあ・・・」と頷いたのち、
「ごめんな!」と、彼は笑顔で手を振りながら去っていったのでした。

ああ、こういう方には、本当は会員になっていただきたかった!
暴対法や、他のお客様のことがなければ、
彼のことをとても好きなお客さんだと思うこともあったかもしれません。


さて、こうした嬉しいことがある一方。

ご近所に「お勤め」であっても、
「無礼だから会員には絶対にしない」というケースもございます。

入店時にご本人が醸し出す空気感から
「明らかに会員にしない方がお互いの未来のためだ」とわかる方がいます。

そんな時は、どんなに疲れていても、
「ふう、やるか!」と心のふんどしを締め直し、
どこまでもその戦いに付き合うことにしております。

しかし、そうした皆様というものは、
こちらの話など一切聞かないのが常。。。

「客に対してその態度はなんだ!」との言の果てに、
なぜだかそのほとんどの方が、出口付近で「脱出ルート」を確保したのち、
何らかの「捨て台詞」を吐くのです。

一時期は、「せっかくの機会だから、捨て台詞コレクションを集めよう」
と思ったこともありました。

でも、残念なことに、捨て台詞を吐かれる方というものは、
「お前なんか! バカーー!!」「ふざけんなよ!」等々、
「お前の母ちゃん、デベソ!」的な台詞ばかりなのです。。。。
私としては、ふざけているつもりなどなく、大まじめなのですよ?

ああ、しかし。何というボキャブラリーの貧困さでしょうか・・・。
例えばヒーロー番組を見た時で言えば、
あなたは、アッというまに淘汰されるクラスの悪者を
「どーでもいいな」と思って眺めるでしょう。
だのに、あなた自身がそれと同様、
誰かから「どーでもいいな」と眺められているこの事実には、
一体なぜ気づかないのかと不思議に思うばかりなのです。
もう少し気の利いた台詞を吐いてくだされば、
ここに書くこともできたでしょうに。。。


また、この街にたまたまやってきた酔っ払いの若い男の子もいました。
当店では、小指のない方にもお伝えしたように、
基本的に近場に住む方、もしくはお勤めの方であることを
入会の基準としておりましたので、
「いつまで本棚を見ていたって、会員にはできないんだから帰りなさい」
と私は言いました。


彼は、舌打ちしながら(もちろん出口を確保しながら)店を出て行きましたが、
「会員にしない」と言われたことがよほど悔しかったようで、数分後に戻ってきたのです。

表に出てタバコを吸っていた私に向かって、
「あんたのその態度、なんなんだ!」と、
彼は酔っ払うがままに、その思いの丈をぶつけてきたのです。

私は、「そうか、そんなに悔しかったのね。ごめんね」と思いましたが、
「しかし、こちらとて、この空間の主としてやらねばならぬことがある!」『帯をギュッとね!』くらいに、心のふんどしをギュッと締めましたとも。

まずは「そんな気持ちにさせてごめんね」と正直に謝りましたが、
「でも、あなたのそんな態度も『なんなんだ』という話になるよね?」
と続け、そこからは彼の話にじっくりと答えていくことにしました。

そして、30分後。彼はこう言いました。

「僕が悪かったと思います。ごめんなさい」と。

酔いが覚めてきたという事情もあるかもしれませんが、
意固地にならずにちゃんと理解しようとしてくれた
彼のその気持ちをとても嬉しく思いました。
そうして、最後には握手して「またおいで」「また来ます!」と、
互いに心からの別れを告げたのでありました。


このほかにも、選挙前にお客さんを装ってやってくる
某宗教の青年部の皆さまなどもおりましたねえ。

全店主のともこさんは、「適当にスルーしなさい」と言っていましたが、
なんといっても一切大人気のない自分なので、
もはや性分としてそんなことはできませぬ。。。

「店と客という構図を笠に着て、
投票を促す行為をするなど、なんたる卑怯者か!」と思います。

ですから、すでに貸本屋の会員として入り込んでいるケースの場合、
そのようなことを言い始めた瞬間に。

「今からあなたのその話を聞いた上で、あなたを軽蔑するパターンと、
一切その話を聞かずに、これまでどおりにお付き合いをするパターン、
あなたはどちらを選んでもいいけれど、どちらがいい?」と聞きました。
すると、彼らは後者を選ぶのです。これもまた不思議な話ですよね。


また、貸本屋に興味のあるような空気を装い、
一見さんで来店する場合には、その話が始まった瞬間に。

「じゃあ、その人に投票すべき理由について、300字以内で話してみて。
それを聞いて、投票するかどうか決めるから」と言うことにしました。

すると彼らは、
「と、、とにかくっ!すごい人なんです!!投票お願いします〜っ!!」
300文字どころか、30文字程度の回答しかしてくれないのです。

待てど暮らせど一向に言葉が出てこないので、
「うん、わかった。じゃあ、投票するかどうかは自分で決めるね」
と答えると、
「はいっっ!!」と、元気なお返事でみなさん帰っていくのでした。。。

そんなことを数年間重ね、選挙前の楽しみが一つ増えたと思ったものの、
いつしか選挙前になっても、投票を乞う人々が一切訪ねてこなくなってしまった当店なのでした。。。。

当店においては、『人間交差点』のごとく、
この他にも様々な人間模様や椿事が日々発生しておりますが、
長くなりましたので、今宵はこのあたりまで。

次回は、当店の「まあまあいい方」の特徴についてお話したいと思います。

それでは皆さま、おやすみなさい!

つづく・・・

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