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食中毒になって出会った幸せ

メキシカン・レストランでの楽しい夕飯の後、友人のお腹がキューキューと小さく言っているのが聞こえた。大丈夫か聞こうかな、と話しながら思ったけど、なんとなくタイミングを逃して別れた。

後日、ふたり揃って食中毒発症。私の方が遅く発症し、症状は下痢を繰り返すのみで済んだ。(友人は嘔吐もあった。)色々注文したので、何に当たったのかわからない。しかも二夜連続でふたりで外食したので、どちらの店からなのかもわからない。サーモンとか鶏肉とか、そういう食中毒の定番食品は頼んでいなかったので、謎は謎のまま。


下痢だけど、お腹すいた

さあ、こういう時って何を食べていいの?むしろ食べない方がいいの?前に食中毒になった時はどうしたっけ?思い出せない。日本語と英語両方で、ネットで調べる。「下痢が落ち着いたら、胃に負担の少ないものを食べましょう」と書かれている方もいれば、下痢が落ち着いたらなんて待たずに、胃に負担の少ない物なら食べてよいという意見も。どちらがいいんだ。ここは体の声に正直に、ちょっと食べてみることにした。

色んな方が共通して挙げているのは、白食パンのトーストと、お粥、煮詰めたりんご。他にもあるが、まずはこの3つを試すことにした。


レンジを使った簡単調理で回復食

体調の優れない時に、調理に時間がかかる料理は気がのらない。リンゴを煮てみるかと思ったが、「調理時間30分」の表記を見て悩む。焦げないように見守ってなきゃいけないのか、とか、鍋とか洗わなきゃいけないのか、とか。結局、皮のついたままのリンゴを小さく切ってレンジで2分、というレシピを採用。なるほど、生で食べるより消化に良さそうなしんなり具合。軽く塩を振ると甘みが増す。洗い物が少ない点も気に入り、リピートした。

米も食べてみよう。少量の米に多めの水を加えて、これ位ならお粥になるかな、と思ったら、もっと水が必要だったよう。普通の炊きあがりになってしまった。(日本で炊くときは計量カップを使っているが、ニュージーランドでは目分量の米に手の関節の位置で水量を計って炊くのが気づけば私流になった。)しかし少しでもふやけていた方が消化に良いのなら、と考えた結果、器によそった米にお湯をかけ、またレンジへ。思ったほどお粥風にならなかったが、この見た目、何かを思い出す。そうだ、お茶漬けだ。お茶漬け食べたいな。でも、お茶漬けに出来るような材料は持っていないし、下痢の回復食は刺激を避けるためシンプルであるべき。結局塩で済ませる。ちょっと物足りない。

冷凍保存していた丸いシンプルな食事パンをちぎってお湯に浸して、これもレンジでチン。パンを牛乳に浸したレシピが美味しいという記事をいくつかみたが、私は下痢。乳製品は避けた方がよいというアドバイスがあったので、ここもシンプルにお湯。塩を振って食べたら、お茶漬けにもお粥にもなれなかった米より、こちらの方が美味しかった。


スーパーの宅配サービスデビュー

コロナがまだ騒がれていた頃あたりだったと思うが、メジャーなスーパーのチェーン店が宅配サービスを始めた。いったいどういう人が利用するんだろうと漠然と思っていた。子育て中の忙しい家庭か、体の不自由な人かな、なんて。そして今回気づいた。車を持たない私が酷い下痢の時、スーパーと自宅を徒歩で移動するのは心許ない。そうだ、病人にも有難いサービスだ、と。昨晩ひと晩中トイレとベッドを往復していて、気付いたらトイレットペーパーが残り4つ。これ、明日持つかな?心配。どっちにしろ明後日の分は足りなさそうだから買わなくちゃ。

私の自宅から最寄りのスーパーはWoolworth。早朝4時に思い立ちオンラインショッピング開始。時間指定ができ、9時から11時半の配達の注文に間に合った。せっかく持ってきてもらえるならと、24ロール入りのトイレットペーパーをふたつ注文。日本にいる一人暮らしの親友が、いつ病気になっても災害に遭っても対応できるようにと、なんでも5個ストックを常備してる、と話していたのを思い出す。ハンドーソープも5個。1個開封したら、1個補充、といった感じ。5個は多くないか、と正直思ったが、終わりが見えないとそれ位は欲しくなる気持ちが今はわかる。


シンプルなトーストの神々しさ

普段は白い食パンは買わないことにしている。精製されている小麦だからだ。少しでも健康的なものを選ぶように心がけているので、もしパンが欲しかったら穀物入りのパンやサワードウ・ブレッドだ。しかしお医者さん方は下痢の時は消化によいという白パンをこぞって押している。私は逆らわない。

普通の食パンを買うなんて何年ぶりかな?トイレットペーパーと共に届いた大きな食パン一袋。海外の食パンの一袋は、ちゃんと数えなかったけど20枚くらい入っている。こんなにひとりで食べきれるかな?トーストすると良いそうなので、トースターで焼く。ちょうど良い焼き色を待つ。他におかずを用意する必要はないので、トースターの前でただじっと焼きあがるのを待つ。なんてシンプルなひととき。段々パンの香ばしい香りが広がってくる。いい香り。きつね色の焼きたてのトーストは美しくて、わくわくした。すぐにかじりつく。さくっ。美味しい。油っこいものや砂糖も下痢には良く無いそうなので、素トースト。ちょっと塩を振ってみた。美味しい。食べられる喜び。シンプルな美味しさ。結局3枚食べた。

不調の時は、少しでも食べられることに希望を感じる。こんな時こそ、シンプルな食べ物の美味しさが身に染みる。普段は少しでも栄養を取るべく様々な具材を足して足して足して食べているので、こういう食べ方は新鮮だった。下痢でなくても、時々はシンプルな食べ方でもいいのでは、なんて感じた。体が休まる感覚がする。そして食材そのものの美味しさを感じるって幸せなことだ。


こうして私の回復食生活は一週間続いた。日に日に、蒸したじゃがいもや茹でた鶏のささ身など、食べ物の種類を増やしていった。食べられる品目が少しずつ増えていくのは回復へ向かっている証明のようで誇らしかった。


大量にあった食パンを無事完食し、下痢に悩まされた一週間は終わった。マラソンを完走したようだった。今後の課題は免疫力アップ。言うは易し。でも、以前の私より少しでもマシになるための小さな努力をしていこう。






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