見出し画像

AI時代に必要な"のび太"力 〜B2B AIトップランナー砂金信一郎氏(LINEヤフー)が語る日本とAI

2023年10月4日、SoftBank World 2023にてLINEヤフー株式会社 生成AI統括本部 新規事業準備室 室長 砂金 信一郎 氏「生成AIを日本企業はどのように扱っていくべきか?」をテーマにトークセッションをさせていただいた。

砂金氏はIT業界内では"シャア大佐"と言われることもありガンダムはじめアニメに造詣が深い方。日本企業向け生成AI活用論、組織論の話とともに、ビジネスパーソンにも意義があるアニメやクリエイター参画についての話まで幅広く会話させていただた。当記事では対話を振り返って興味深かった点をドラえもん、攻殻機動隊、エヴァンゲリオンなどの例も交え、また、私の考察も追加して紹介していく。


https://sbw.tm.softbank.jp/video/24_ja_live/react (アーカイブ配信2023年10月10日〜11月10日迄)

"自分ごと化"しやすいChatGPT

LINEヤフー、ソフトバンクグループ内でB2B AI関連の仕事に携わる砂金氏はChatGPTが出てきた時に「やられた!」と思ったという。OpenAI/GPTが2022年登場した際に、実は類似のAIサービスを作っていたという彼からみると、ChatGPTのユーザーインターフェイスに感動したそうだ。チャットとしてAIと対話させる点、そして、質問に返答する際に一気に回答を出すのではなくいかにも人間が考えているかのように徐々にタイピング文字を表示していく点が素晴らしいと思ったそうだ。

また、OracleからMicrosoft、そしてLINEヤフーへと長年IT業界にいる砂金氏から見てもう一つ感動したのが登場初期から日本語入力もOKであったこと
これには私も大きく頷いてしまった。日本語のダブルバイト問題は前々職アドビシステムズで体験した苦労だったからだ。新製品・新機能発表は全世界同時なのに、実際の製品が手に入るのは数ヶ月先となってしまうのでマーケターとして市場の盛り上がるタイミングで製品が出せず苦労をした。

そして、使いやすいUI、日本語対応によりAIを自分ごと化する人の数が増えた、裾野が一気に広がった点も大きい。砂金氏の例で言うと彼がデジタル庁で国会議員にChatGPT/生成AIの説明をすると、「AIはよくわからない」と言っていた議員の方でも直ぐに理解し活用に意欲的になってもらえたそうだ。私の場合で言うと、ちょうどトークセッションの前週にADKクリエイター/プランナー向けに生成AIアイディアソンを実施したところ短時間で興味深いサービスアイディアがたくさん生み出された経験からも生成AIは多くの人が自分ごと化して、活用できる可能性があるとを実感している。
自分ごと化して生成AIを活用する際には「大まかな作業は生成AIに任せて、魂入れるところは人間が入れる」と言う人間の役割も大事であることも砂金氏は伝えている。

音声はブルーオーシャン

さて、砂金氏にお気に入りのAI機能/サービスを教えてもらった。ChatGPTはもちろん、OpenAIが出した画像分析機能GPT-4V(ビジョン)も期待していると同時に、MicrosoftのCopilotのコンセプトも絶賛をしていた。確かに、パワポやワードが相棒になるイメージがある。また、縦読み漫画ウェブトゥーン向けにネイバーが出した自動色彩サービスも多くの漫画家の卵を助ける良いサービスであると紹介した。日本人は兎角日本や米国のサービスのみを追ってしまうが、中国やアジア、ヨーロッパなど世界のサービスをベンチマークしていくと面白いサービスが見つけられるとも砂金氏は語る。

また、AIサービスを作っている側へのアドバイスとしては、プロモーションの際にスペックや機能を謳うよりも、ユーザービリティーを意識した打ち出し方が必要とのこと。裏ではGPUや計算リソースをガンガン使っているのだが、プロダクトとしてお客様に届ける際にはしなやかな感じで提供していくことを意識した方が競争力高まるという。確かにChatGPTの表向きのシュッとした感じには好感が持てる。

そして、現在は言語モデルが注目されているがマルチモーダル化していくので、音声合成技術に着目するのも良いのでは、とも。2016年からのディープラーニングで機能が向上した以降、音声サービスは開拓され尽くされていないので、音声周りを扱うと大きなチャンスがやってくるのではないか?とも語ってくれた。

日本:業務における生成AI利用率7%

続いて、砂金氏に「日本企業のAI時代のポテンシャル」を聞いたところ、非常にポテンシャルが高いと感じるとのこと。ロボティクスとAIを組み合わせる、アニメとかゲームとか組み合わせるとか、AI全体のコンテンツ力を高めるのが可能性ある、と語る。ただ、日々の業務でのAI活用についてはまだ想像がついてない人が多いことも同時に懸念している、とのこと。SoftBank World 2023の孫正義会長のセッションでも日本で業務における生成AI利用率7%と低いという話もあったが、それではどこからスタートしていけば良いのか?
砂金氏は、既存の言語モデル(ChatGPTなど)に社内で使っている単語を読み込ませて使えるかどうか判断していくところから始めるのも良いという。ChatGPTのAPIを使うのが不安であれば、Facebook/Metaが出しているOpensource Llama 2をカスタマイズして使っていくのでも良いが、今は徹底的に生成AIを活用したチャレンジの回数と経験値の積み上げが必要と語る。生成AIをコアにしながら色々と組み合わせて業務で活用していく競争が、地球上でよーいどん!で始まっているので、今から始めると世界にも誇れる良い事例、ソリューションが発表できる可能性もあると言うので生成AI活用を躊躇していてはもったいない。

"のび太" 力を高めるのがAI時代のビジネスには必要

一歩踏み込んで日本のAI時代のアドバンテージを聞いてみた。すると、例として深津貴之氏がChatGPT 3で作った「MAGIシステム」の例を出してきた。
MAGIシステムとはエヴァンゲリオンに登場するスーパーコンピューターなのだが、ストーリーの中では人間では判断できないことをMAGIシステムが判断してくれる。エヴァンゲリオンの世界では使徒と戦うためにAIを信じ、人間がベストエフォートする共存共栄の世界ができている。
詳しくは以下の深津氏のnoteを読んでもらいたい。

このようなアニメの世界で起きているものを着眼点にAIサービスを作る、そして、作られたサービスに対して共通の理解を示す人が一定層いる日本はAIポテンシャルがあると言うのだ。鉄腕アトムの存在が日本のロボティクス産業を後押しし、攻殻機動隊の存在が科学者の実験を加速させた。AIでも同じことが起きそうな予感がある。
砂金氏は世界を見渡すとAIに人間が支配されてしまうのではないかという恐怖論を語る人もいるが、日本ではすでにアニメの世界で体験済みなのがアドバンテージともいう。例えば攻殻機動隊の世界ではすでに義体を使い、脳や目がハッキングされることも前提に物事が進む。登場する多脚戦車タチコマはエッジコンピューターの事例としても捉えられるだろう。タチコマの中で人間と接するものは個性も有する。人間のインターフェイスになる存在のUXも考えられているところは参考にできる点でもある。

SoftBank World 2023の孫正義会長セッションでは「願望がある人がAIを使いこなしていく」と語っていたが、その究極系はドラえもんに出てくるのび太ではないか?と砂金氏は語る。ドラえもん的な存在の優秀AIは今後登場してくる。そのような時代に必要になるのは課題を出せる存在、言うなれば"のび太"力があることが求められる、とのこと。ジャイアンをギャフンと言わせたい、しずかちゃんにモテたいというのび太の願望を聞き、ドラえもんが道具を出してくれる。このような願望、自らの課題に気がつき声を出せる人がAI時代には重要になるという。のび太のような課題力が高い人、願望が強い人がこれから求められるのだ。我々はのび太を見習い、"のび太"力を身につけていく必要がある。

ドラえもんはのび太の願いを叶えてくれるし、一緒に食べるし、一緒に寝る。のび太はドラえもんがすごいから自分の居場所がなくなるなど不安に駆られない。AIと共存して幸せになると言うドラえもん的な共通認識がある日本でのAI浸透は圧倒的に他国と違う、と砂金氏は語る。

エヴァンゲリオンにおけるMAGIシステム、ガンダムに越えるハロ (HARO)、サイコパスにおけるシビュラシステム、東のエデンにおけるジュイスなど、枚挙にいとまがない。

このアニメの世界観をAIサービスのリファレンスとでき、リファレンスすることで共通認識が生み出してサービスを広め、アニメファンを通じて世界にも発信できるのは日本が生み出す生成AIの一つのアドバンテージではないか?

AI時代の組織、人材

さて、最後にどのような人材がAI時代には必要になるのか?砂金氏に伺ったところ、AIの仕組みを作る会社のケースでは、事業サイドと研究サイドの壁を取っ払う必要性も語る。人材を近づける努力することが良いサービスを生み出すためには大事とのことだ。

そして、全業種に言えることとしては、AIのプロフェッショナルだけではなく、"のび太" 力が高い人を社内で見つけ、その存在にAIを活用してもらい成果を出してもらうのも重要ではないか、と語る。様々なリソースが足りてなかった若手ホープをAIの力も使い育てていくのが良いのではないか、と教えてくれた。

ーーー

以上が砂金氏との対談で語られていたことなのだが、より詳細はSoftBank World アーカイブ動画にて、2023年11月10日まで閲覧可能なので是非みても
らいたい。

※※※※※

・・・当登壇を終えた直後に藤子F不二雄氏のイベントに行きドラえもんとのび太の原画に出会えた時に砂金氏の言葉がずんっと響いた。大好きだったドラえもんから学ぶことがまだまだたくさんあるという喜び。このような喜びが得られる時代に生き、コンテンツがある日本が嬉しくなった。ぜひ読者の皆様にも何か少しでも砂金氏の言葉からヒントが得てもらえれば幸いである。

藤子F不二雄 生誕90周年イベントにて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?