凍った星を一つだけ
凍った星をグラスに。
それが秘密のレシピ。
*
「ポーラスターって言うんだって。知ってる?北極星」
「ふぅ〜ん。ぽーらすたぁ?北極星は知ってる。一つ、明るい星だよね。昔の人も、道に迷ったらあの星を頼りにしていたって、本に書いてあった」
まーくんは、夜空を見上げると、北極星を探す。そして、ママに教えてもらった日から、北極星を『ポーラスター』と呼ぶようになった。
(なぜかって?そりゃあ、かっこいいから!)
まーくんとママは、週末になるとレストランへ行く。
ママの毎日は忙しい。クタクタのバタバタで過ごす一週間は、あっという間で、二人で食事へ行くのがなによりの楽しみ。
ただこの日は、いつものレストランと違った。
いつものレストランは、看板が明るくて、ドリンクバーがあって、子どものメニューもいっぱいあって、子どものメニューには、おもちゃも付いてくる。とってもいいレストランなんだ。僕のお気に入り。
この日はちょっと大人の雰囲気。
ママは僕の進級のお祝いって言っていたけれど、知ってるんだ。
本当はママがずっと行きたがっていたこと。
だから、この日、ママにリクエストをした。
「あのお店がいい!」
*
ママは、お店の名前がついた飲み物を注文した。僕だって、大人の飲み物だ。
シュワシュワした、なんとかソーダっていう飲み物。
ママがトイレへと席を立つと、お店のお姉さんが僕のところへ来た。
一人でさみしそうって思ったのかな。ぜんぜん平気なのに。
でも、すごいことを教えてくれたんだ。
「え?お星さまが入っているの?」
「そう、一つだけね。凍った星を入れてあるの。これは秘密のレシピよ。でね、そのお星さまが溶ける前に飲み干せば、お星さまはお空に戻るの」
「ふぅ〜ん」
「北極星がなくなったら、困るでしょう?だから、お星さまが溶ける前に、キミのママはそれを飲み干さなきゃいけない」
「あと…え〜っとねぇ。いいことあるよ」
「なに?」
お姉さんはもったいぶってニヤリと笑う。
「お星さまが空に戻ったら、願いごとが叶うよ」
お姉さんは、僕にしかきこえない小さな声で言った。
「だれの?僕の?」
「ううん、キミのママの」
「上手く行くといいね」
そう言うと、お姉さんはママに気づかれないよう、カウンターへと戻って行った。
*
「お待たせしました」
さっきのお姉さんが、飲み物を運んできてくれた。
ママの飲み物『ポーラスター』、それから僕のシュワシュワ。
僕とママはカンパイして、それからいつものように楽しくおしゃべりした。
でも、気になって仕方がない。
ママのグラスの中のお星さまが溶ける前に…!!
「ねぇ、ママ。それを飲み終わるとき、願いごと言って。叶うから!」
「願いごと?叶うの?じゃ〜言うわ。ん〜…そうだなぁ」
「よしっ!決めた。ママが、ずっとまーくんの北極星でいられますように」
そう言うと、ママはグラスの飲み物を飲み干した。
すると、どうでしょう。
グラスの中のお星さまも、消えていたのです。
(本当に…お空に戻った)
ママは続けた。
「北極星は、いつも同じ場所で輝き続けるでしょう?もしも、まーくんが進む方向が分からなくなったとき、迷ったとき、空を見上げれば北極星を道しるべに迷わず辿り着けるように、ママもそうありたいの」
「…ん?なんか、むずかしい」
「え〜っと。ママはいつだって変わらずまーくんの味方だよってこと」
氷を舐めながら、微笑みながら、ママが言った。
「あら?これって、願いごとだったかしら。ママの宣言みたいな感じね」
カウンターの向こうで、お姉さんがウィンクする。
夜空を見上げれば、いつだってポーラスターを見つけられる。ママが空へ戻したお星さまだ。
そして、いつだって僕には北極星のママがいるんだ!
小牧幸助さんの楽しい企画に参加させていただきました。
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