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ビキニの紐を

海砂糖、海、砂糖…砂糖、海、砂糖海?

「あ〜!もう無理!誰よ〜こんなの入れた人〜!意味わかんない。っつ〜か、この組み合わせ!マジ無理!!」

お助けボックスからカードを手にするなり、マーヤのため息まじりの文句が飛んできた。

「もうマーヤ、声大きいってば。しぃ〜!」

国語の授業、黒板には『俳句を詠もう〜夏〜』と書いてある。

生徒はそれぞれ、自由に俳句を詠む。
しかし、どうしてもサッパリ何も浮かばないという生徒は、教壇の上に置いてある『お助けボックス』から二枚のカードをひいてよいルールだ。ただし、カードをひいた者は、それらのカードに記された『お助けワード』を必ず使わなければならない。

授業のはじめに担任の佐藤から説明があり、生徒はそれぞれカードに好きな言葉を書き込み、ボックスへ入れる。

マーヤの文句が続く。
「海はわかるよ、夏だもん。季語でしょ?季語じゃないの?夏っぽいし、使おうじゃない。でも砂糖って、なんで砂糖なわけよ。どっから来てんのよ、砂糖は」

「そんなの、佐藤のさとうで砂糖よ」
マーヤと対角の席に座るミーナが言う。
授業中うるさいから対角の席へと離されているのに、どこにいても会話が出来るのがこの二人。

対角線上の席のクラスメイトはいい迷惑だ。

「あ〜!もうヤダ。もうわかんない」
マーヤはすでに諦めモード。

「海砂糖〜! サトセン海へ 連れてって!」

「どうよサトセン。もうね、暑くてやる気出ない。泳ぎたい」

マーヤの文句に佐藤がこたえる。
「海佐藤 マーヤのおもり ごめんだぜ」

「おぉ!?いいねぇ」
ミーナが調子に乗る。
「マーヤとて フラレりゃ傷つく 乙女かな」

「はぁ?」
マーヤも負けじと一句。
「サトセンを フッてもフラレぬ マーヤかな」

「きたきたマーヤさま!」
ミーナがニヤリとして一句。
「マーヤさま ビキニの紐を 結ばせて」

教室がどよめく。
すかさずマーヤが自ら一句。
「マーヤさま ビキニの紐を ほどかせて」

しばらく好きにさせていた佐藤が口を開く。
「おまえらぁ〜いい加減にしろ」

「俳句っつーのはなぁ…」

「…いや、しかしビキニはいいぞ。景が浮かぶ」

「やだ〜サトセン!やらし〜!」



その日以来、お助けボックスには毎授業『ビキニ』のカードが溢れ、そしてその後、廊下にはビキニの俳句がずらりと掲示されることとなった。



小牧幸助さんの楽しい企画に参加させていただきました。


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